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短編小説 | 切り取った場面は紙芝居のようだ。

(1) レストランにて

 例えばレストランの窓際にすわる。窓越しに外の光景を眺める。さまざまな人が通り過ぎていくのを見ていると、紙芝居を見ているような錯覚を持つことがある。
 次から次へと新しい人物が登場する。若いカップルが何やら会話をしながら通り過ぎる。
 犬の散歩をしている婦人が通り過ぎる。
 学生らしい若い男性が音楽を聴きながら通り過ぎる。
 スマホを見ながら、セーラー服を着た高校生が通り過ぎる。

 特に注目して見ているわけではないから、ほとんど顔は覚えていない。
 注文したメニューが届くまで、ただ、ぼんやりと外を眺めているに過ぎない。大抵は10分程度、長く待つ時でも30分を越えることはまずない。

 今日は15分程度、自分が頼んだものが来るまで待っていたが、その15分の間に、三回も私の目の前を通り過ぎた男がいた。何やらぶつぶつ独り言を言っている。何を言っているのか、全くわからない。だが(だから)、私は暇潰しのために、勝手にセリフを考えて、妄想して楽しんだ。

(2) 私は見た。そして、その男の脳内のセリフを考えた。

 ヤバい。遅刻しそうだ。初めて出会うのに、最初から遅刻では申し訳ないではないか。
 待ち合わせ場所は、渋山の十八公前。田舎者だから、渋山に来るのは今日がほとんど初めてだ。電車で通り過ぎたことがあるだけだ。
 そんなことを考えながら、男は、とあるレストランの前を通り過ぎた。

 ここからは私の視界の外での出来事である。

 あった。十八公前にたどり着いた。しかし、待ち合わせしたはずの女の子は、来ていない。あんなに親しくSNSでやり取りしていたんだ。来ないはずはない。
 が、しかし…。約束の時間を過ぎている。あの子は律儀な子だから、遅刻はあり得ない。そのとき、「あっ!」と気がついた。
 ここは北口。確か十八公は南口にもあったはずだ。よ~し、とりあえず、南口へダッシュだ。

(3)帰ってきた男。

 お~っと、さっきの男がまた私の視界に入って参りました。汗だくであります。第4コーナーを曲がり、南口へダッシュであります。
 … …と、男を勝手に馬に見立て、私は実況中継した。

 ここからは、再び私の視界の外の出来事である。

「危ない、危ない」と男は呟いた。なんとか南口に到着できた。南口の十八公はどこだ?
 確かこの辺にあるはずだが。

「南口の十八公は、現在補修作業中です。来月カムバック致します」

 なんじゃ、この張り紙は!
 今はここに十八公はいないんかーい。やっぱり、北口へ再度、ダッシュだー。


 おっーと、またまた、先ほどの男が私の視界へ戻って参りました。また、北口へダッシュしてる😄。
 おーっと、やっと私の頼んだ日替わり定食がやって参りました。美味しそう。
 では、実食。
 うーん、うまいねぇ。今日のサバは絶品だなぁ。おお、この味噌汁も普通の出汁とは一味違う。うまい!うまい。これで、ワンコインはかなりお得感がある。はぁ~、食った食った。美味しかったなぁ。
 私は、ひとり心の中でご馳走さまを言った。

 とその時、再び先ほどの男のことを思い出した。
 あの男は、きっと出会い系で騙されたな、と私は思った。ご愁傷さま。


 
 

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