見出し画像

【これを木で作ったらどうなるだろう?】ハナノ工場 インタビュー


ハナノ工場『親子龍』

ハナノ工場 作品展『ハナノコスモス』開催7日目を迎えました。

木材を使って、約4~8センチ前後の動物作品を制作されているハナノ工場さん。
どんなに細かい部分も天然木でできていて、着色も一切なし!(仕上げのクリア塗装はされています)
動物たちの日常生活が切り取られた作品たちは、とってもユニークで、思わずくすっと笑いが漏れてしまいます。

そんなハナノ工場さん、今回の作品展では「コスモス」が登場する作品を中心に発表されています。
本noteでは、まず作品展に寄せた言葉をお届けし、そのあとでハナノ工場さんのインタビューをお送りします。

ハナノ工場 作品展『ハナノコスモス』 作家の言葉

今回の作品展では、「コスモス」が登場する作品を中心に発表します。

僕が作家活動の一番初めに制作した木工作品は「コスモス」でした。

僕が暮らす町、北海道・遠軽町(えんがるちょう)には、日本最大級のコスモス園があります。生まれ育った土地を象徴するコスモスの花を最初の作品として制作したことは、自然な流れだったかもしれません。

そもそも僕が木工を始めた理由の一つに、父の存在がありました。趣味で木工をしていた父の影響があり、木工で何かを作るというのは珍しいことではありませんでした。何かを作ろうと思ったとき、父が使っていた木工の道具が身近にあったため、木工の世界に入りやすい環境だったのです。

そんな父の工房を、なぜかずっと「工場」と呼んでいた祖母・ハナノ。僕はおばあちゃん子で、小さい頃は祖母の部屋で寝ていて、ご飯も作ってもらっていました。

木工作家として公で活動することになり作家名を考えた時、僕の頭に浮かんだのは、そんな家族との様々な思い出でした。

そして、祖母の名前「ハナノ」と、祖母が父の工房を「工場」と呼んでいたことにちなみ、「ハナノ工場」という作家名にしました。

父と祖母はすでに他界していますが、父の影響を受け始めた木工という技法、祖母から頂いた名前。私たちが暮らした土地に咲くコスモスの花々。

そんなコスモスの花々が私たち家族に癒しを届けてくれたように、僕も自分が作ったコスモスでたくさんの人々に笑顔を届けたい。

そんな想いから、今回の作品展で「ハナノコスモス」という、私の作家名であり、祖母の名前でもある「ハナノ」を冠したコスモスの作品群を初お披露目します。

作品をご覧くださった皆様に、優しい気持ちをお届けできたら嬉しいです。

ピカレスクHP ハナノ工場作品展 告知ページより転載

「これを木で作ったらどうなるだろう?」

ハナノ工場『・・・・KING』

ーーハナノ工場さんは、北海道遠軽町にお住まいですね?子どもの頃からものづくりが盛んな環境に囲まれていたのでしょうか?

ハナノ工場:遠軽町は田舎なので、酪農や畑作などの農家はいましたが、特に木工の街と意識したことはないですね。でも、木工は盛んではあります。

ーーどんな経緯でものづくりを始められたのでしょうか?

ハナノ工場:始めたのは2005年頃です。父が趣味で木工をやっていたので、その影響です。最初はDIYのような感じで、家具などを作っていました。棚、テーブル、テレビ台などなど、一通り作った後、ちょっと飽きてきたんですよね。
それで、今度は「これを木で作ったらどうなるだろう?」という方向になったんです。「木で花を作ったらどうなるのかな?」と考えて作るのが楽しくて楽しくて。
そして、ある時ペンギンを作ったら、動きのあるものを作る面白さに気づいたんです。「ペンギンが笛を吹いたらどうなるだろう?」というような感じで、とにかく思いついたネタをどんどん作っていきました。それを通販サイトとかに載せてみたらウケて、作品をお迎えいただけるようになりました。

ーーハナノ工場さんのSNSを見ていると、こちらがクスッと笑ってしまう、ユーモアセンスが伺えます。そのユーモアセンスはどこからくるのでしょう?

ハナノ工場:実は特にこれといって考えていることはないんです。人生ずっとそんな感じです。

ーーでは、「あ、これだ!」と、直感的に作っているんですかね?

ハナノ工場:テレビで何かやっているところを見て「あ、これライオンがやったらどうなるかな?」「これ、ウサギがやったらかわいいな」という感じで作ってますね!

ーーその後、一つの作品が出来上がるまでの過程はどのような感じなのでしょう?

ハナノ工場:作品の材料となる木は、買ったり貰ったりしています。それらの木を、糸のこで予め小さくしておいて、ハンディベルトサンダーで削っていきます。やすりで削っていくような感じですね。細かいところは、ルーターという機械を使って削っていきます。木彫ではないので、彫刻刀は使っていません。

ーーえ!彫刻刀は使ってないんですか?ハンディベルトサンダーとルーターだけ?

ハナノ工場:彫刻刀は一切持っていません!(笑)

ーー信じられない!理解が追いつかないです!

ハナノ工場:僕、この道具を使わせたら日本一だと思います!(笑)メーカーの人に宣伝してほしいくらいです!

ハンディベルトサンダー(ハナノ工場さんよりお写真をいただきました!)
ルーター(こちらも、ハナノ工場さんよりお写真をいただきました!)


ーーメーカーさんもびっくりされるでしょうね(笑)削っていくときは、下絵や補助線のようなものはいれますか?

ハナノ工場:全く入れません!作る前に、イラストを描いたりもしません。頭の中のイメージをもとに、削っていきます。だから、初めて作る動物はどの部分から削っていくか迷いますね。でも、それを考えるのが面白いんです。
大体は下絵無しでもうまくいきます。それに、“失敗”にはしたくないので、方向性を変えながら“作品”にしていきますね。削り出したものをぽいっとすることはないです。

「これで食べていけるか否か。それが、死ぬまでにやること」

ハナノ工場『ひまわりネズミ』

ーーハナノ工場さんは、子どもの頃どんな子でしたか?

ハナノ工場:何を聞かれても「わからない」と答える子どもでしたね。「何になりたい?」と聞かれても、「今はわかりません」と答えていました。
というのも、「やりたい」と思うことが特になかったんですよね。それは大人になってもそうでした。

ーー先ほど、「ユーモアセンスはどこからくるの?」と伺った時、「実は特にこれといって考えていることはない。人生ずっとそんな感じ」とおっしゃっていましたね。

ハナノ工場:他のアーティストさんのインタビューを見ると、作品に対する姿勢や信念がとても素晴らしく、尊敬してしまいます。でも、僕はあまりそういうものはなくて。
僕はあまり会社勤めには向いていない人間でして。人に指示されるより、自分の意思で動きたいタイプなんですよね。電気工事の仕事を長くやっていましたが、暇な時間も会社にいなければいけないのがとにかく苦痛でした。夢も全くなかったですね。
ただ、木工はとても楽しかったんです。朝3時頃に起きて、会社に行く前に3~4時間作るほど、面白かったんですよね。その後、会社を辞めて、個人で電気屋をしながら、空いている時間で作品作りをするようになりました。
色つけない手法にし、作品が売れるようになって、「これ(無着色)、俺の得意技になるんじゃないか?」と気づきました。無着色でここまで動物を作っている人は見かけませんでしたし。世の中に無いものだから、これで勝負できるかもしれない、と思いました。そこで、木工1本で食べていくことが目標になりました。「これで食べていけるか否か。それが、死ぬまでにやることだな。死ぬまでに仕事になればいいな」と思っていましたが、ありがたいことに、生きているうちに、木工1本で食べていけるようになりました。

原点 ─ コスモス、祖母、父

ーー今回の作品展では、“コスモス”が登場する作品を中心に発表されますね!

ハナノ工場:ピカレスクの方との話の中で、「今までと異なるテーマを選んでみよう」という話が出まして。
実は、1番最初にお迎えいただいた作品がコスモスだったんです。僕が住んでいる遠軽町には大きなコスモス園があります。コスモスの町ということもあり、制作したコスモスをお店に置いてもらったこともありました
自分の作品の原点であるコスモスと、その後メインになっていた動物たち。
どちらも人に癒しや安らぎを与えてくれるいきものですが、それらの作品が目に映った時、心が和むような作品を、と思いを込めて制作しました。

ーーハナノ工場さんの原点である“コスモス”にハナノ工場の“ハナノ”をつけて、『ハナノコスモス』という展示名になりました。“ハナノ工場”という作家名は、お祖母さまがきっかけになっているとのこと。

ハナノ工場:先ほどもお話した、木工を趣味としていた父の工房を、祖母は“工場”と呼んでいました。木工作家として公で活動することになり作家名を考えた時、祖母の名前“ハナノ”と、祖母が父の工房を“工場”と呼んでいたことにちなみ、“ハナノ工場”という作家名にしました。

ーー作家名のきっかけにもなったお祖母さまは、どんな方だったのですか?

ハナノ工場:祖母は優しかったですね。小さい頃はご飯も作ってもらっていたし、祖母の部屋で一緒に寝ていました。

ーーおばあちゃん子だったんですね。お祖母さまとの印象的なエピソードはありますか?

ハナノ工場:もうほとんど覚えていないのですが…。蛇が出た時に、鍬(くわ)で撃退する姿を見て、「ばあちゃん、強いな…」と思ったことは覚えています。
ーー木工を始めるきっかけにもなっているお父様はどんな方だったのでしょうか?

ハナノ工場:僕とは真逆の人です。僕は典型的なB型気質ですが、父は典型的なA型気質。父はとにかく真面目な人間で、面倒見も良く、人に頼られることが好きなタイプでした。良いところはたくさんあったけれど、僕と考え方はとにかく真逆!僕の仕事について、父からは公務員や自衛官を勧められたこともありましたが、僕の性には合わない。真っ向から反対しました。顔を会わせれば喧嘩ばかりしていましたね。

ーー会えば喧嘩ばかりのお父様。先日お亡くなりになったそうですね。その後、お父様に対する心境の変化などはありましたか?

ハナノ工場:そうですねえ。父が亡くなってから、夏場は天気がとても良かったので、実家でBBQをしました。その時「供養だ!」ということで、父の遺影も一緒に置いたんです。四十九日が終わるまで、妻も含めて3人で、毎週BBQをしました。それで「あ、死んだらこんなこともするんだな」と思いましたよ。遺影にビールを供えたりなんかして。死ぬまで父と和解することはできませんでしたけど、少し優しい気持ちになりましたね。

ーー世の中、家族仲良しが良い!という風潮もあるように感じます。ハナノ工場さんが木工を始められるきっかけになっているだけあり、ハートフルなお話を想像していましたが、「実は喧嘩ばかりだった」と聞いて驚きました。

ハナノ工場:父の生き方が悪いとは思っていません。ただ、父にうんざりした母が実家を出てから、父は自分の思い通りにならないことがあると、とても気に食わないようでした。
親子だろうと人の生き方に対して口を出すことは良くないのではないかなあと思います。
一方で、自分の普段の言動を振り返ると、親父と同じようなことを言っているなあと気づくことがあります。親子だから、似ている部分がどうしてもあるんでしょうね。

ーーそんなお父様がされていた木工を、今自分もやっていることについてはどう感じていらっしゃいますか?

ハナノ工場:父が死んでからは、ノスタルジックな気持ちになることが増えました。
父が生きていた頃は、とにかく顔を会わせたくないのもあり、別の場所に工房を構えていました。
でも、今は親父が昔使っていた工房を使っています。この工房でも、よく父と喧嘩をしていました!昔は使う気持ちになりませんでしたが、道具も充実しているし、今は感慨深い気持ちになりながら制作をしています。
自分のHPを見ると、とても仲の良い親子関係に思われそうですが、父との関係は今までお話したような感じだったので実際は会えば喧嘩ばかりでしたし、作品作りだって、“人のため”以上に、“自分のため”という思いがあります。
「みんなに夢を与えたい」というのも嘘ではないです。しかし、1番は自分が好きなことで食べていくこと。生活していくこと。公に言うとイメージが変わってしまいそうですが…(笑)

ーー“自分のため”というか、“自分との勝負”をしているようにも感じますね。
ちなみに「自分にこういうイメージが付いているなあ」と感じるんですか?

ハナノ工場:よく言われるのは「作品から、作者さんの優しい人柄が伝わります!」とかですかね。作品の可愛らしさから、女性だと思われていたこともあります。ネタが“酒飲み”とかだから、だんだんバレてきているかなあとは思いますが、「五十過ぎの親父が作ってると分かったら幻滅するかな」と、考えることはあります。自分は優しい人間では全然なくて、悪魔だと思っています(笑)なので、自分のことはあまり出さないようにしてきました。しかし最近雑誌のインタビューを受けた際に、自分のここまでのあゆみや、目標を見つけるまでの過程を素直に話してみたんです。すると、共感のコメントがあり、とても嬉しかったです。作品のファンになってもらうだけでなく、作家のファンになってもらうことも大事だなあと思っています。

「驕らず」「慎ましく」を忘れずに

ーー最後に、今後の展望や、作品展に来場されるお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

ハナノ工場:嫌なニュース、出来事もある毎日。僕の作品を見て、「楽しい」「癒される」「ウケる!」「優しい気持ちになる」一瞬でも、そんな風に感じていただき、日常生活の励みになれたら最高です。
出来る限り細かな部分も作り込んでいるつもりなので、ゆっくり、じっくり見ていただきたいです。
僕は、お客様や周りの方々に助けられて、今のところ生きていくことができています。
「驕らず」「慎ましく」を忘れずに、今後も制作に励んでいこうと思います。


さて、皆様はこのインタビューを読んで何を感じましたか?
作品から受ける印象と、少しギャップを感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。

ハナノ工場さん、お話ししていると「何も考えてないんです!」とおっしゃるんですよね。
「何も考えていない」「子どもの頃は『わからない』が口癖」「夢なんてなかった」というハナノ工場さんが、ぐっとはまったのが“木工”。
「木工は面白い!」という思いがあったにせよ、会社を辞め、自営業でやっていくというのは、きっとそれなりの覚悟が必要だったと思います。しかし、「会社勤めはそもそも向いていない!」「これで食べていけるようになること。死ぬまでにやることだ!」と、自分の琴線に触れた方へ突き進んでいった。
「何も考えていない」のかもしれませんが、「これだ!」という直感のようなものは、とても大事にされてきたように感じます。
また、「作品作りは自分のため」とおっしゃるハナノ工場さんですが、結果的には人を喜ばせたり、笑わせたりしている。
「やりたいことを見つけよ」「目標や夢に向かって歩みなさい」「人のために!」…というのも大事。しかし、ハナノ工場さんのように、「これ!」という直感や「これこそが自分の道!」と、ある種自分を大事にする姿勢でいることもまた、人生において重要なのかもしれない…と、筆者は励まされる気がしました。

今回展示をしているコスモスの作品群は、ハナノ工場さんの作品の“原点”と、“現在”が掛け合わされています。
コスモスと動物、というシンプルながら、非常に説得力がある作品。背景にあるエピソードを知った上で見ると、さらに奥深さを感じ、ずっと眺めていたくなります。
そして、この作品を支えている要素として、ハナノ工場さんの高い技術力も忘れてはいけません。ハンディベルトサンダーとルーターだけで制作しているなんて、本当に驚きですよね。

記事作成にあたり「自分の話なんて面白くない」なんておっしゃっていたハナノ工場さんですが、大変興味深い話ばかりでした。
それでもハナノ工場さんは「自分は何も考えていない」と言うのでしょう。

ハナノ工場さんの作品展は9月24日(日)まで。この記事を見たあなた、ぜひ実物も見にいらしてくださいね!

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰
【基本営業日時】
*営業 水 - 日・祝 11:00 - 18:00
*定休 毎週月火
*会場 Picaresque Gallery
*住所 東京都渋谷区代々木4-54-7
*電話 070-5273-9561

※2023年9月は、下記日程で18時以降も営業いたします♪
[時間]
18:00~22:00

[日程]
19日(火),20日(水),24日(日),27日(水)

■各展示の詳細
HP「お知らせ」よりご覧ください!
https://picaresquejpn.com/category/information/

■開催予定の展示は
HP「【随時更新】展示スケジュール」よりご覧ください!https://picaresquejpn.com/exhibition-calendar/

⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰ ⋱⋰

ハナノ工場 作品展「ハナノコスモス」

〈会期〉
2023年9月13日(水) – 9月24日(日)

〈詳細〉
https://picaresquejpn.com/hananofactory_exhibition_2023_autumn/

〈ハナノ工場 公式SNS〉
HP https://hananofactory.com/
Twitter https://twitter.com/hanano48385306
Instagram https://www.instagram.com/hananofactory/
Facebook https://www.facebook.com/Hananofactory


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?