AIの時代のライフスタイルを提案するTシャツブランド『SIGNS OF LIFE™』
SIGNS OF LIFE™はTシャツを通して、考え方や物の見方を少し変えるきっかけになったり、生命や人生の輝きを表現することで、前向きで楽しい気持ちになってもらいたいブランドです。
デザイナーである私は今まで、医療情報のデザインに20年近く携わってきました。医療情報というのは、まさに人間が集めた人間自身の為の「生命の情報」です。
複雑な専門家が扱うその情報を多くの人に伝わる形にする作業、ときにはシンボライズであったり、記号化であったり、レイアウトのような情報の整理であったり。そういったことにずっと関わってきました。
しかし、医療情報にクリエイターとして携わることを通して経験したことや知識、さらに医療職や研究者である方々とのコミュニケーションを通して何がわかったかというと、実はよくわかっていない、せいぜい「何もわかっていないということがわかった」くらいなんですね。
バランスの機械としての人間
私が感じている、その身体と情報、情報を「認識し」「理解する」主体としての個人という関係の曖昧さは、医療に限らず多くの過程において科学的根拠や客観的論理的な裏付けが求められる現代には、悪いことのように捉えられがちです。
科学や論理は、我々の日常を様々な意味でサポートしてくれるものです。人と人の考え方の橋渡しをしてくれるものであり、社会や日常生活には欠かせません。
しかし、「曖昧さ」もまた多くの人にとって、ごく普通の日常的な感覚です。
「曖昧なこと」を主観で理解し、表現していくということは生命にとって自然なことであり、そこに心の自由や豊かな体験があるのではないか。
大袈裟に言えば、「曖昧さ」には我々が生きる意味が潜んでいるのではないでしょうか。それはデジタル技術やAIがどれだけ進歩しても変わらない、我々の一部だと思います。
そこで「自分の身体と心の曖昧さ、そこに記号や象徴がもたらす作用について考える機会」を提供することで自分たちの明晰さではなく曖昧さを認識すること、そしてそこに宿る生命や生活の輝きを表現できないかと考えるようになりました。
医療/デザインより一歩踏み外して、生命や身体/記号と象徴、そしてどこかにある個人の「心」のバランスにこそ、私のデザインが携わる主題があるのではないか。
明晰さと曖昧さ、身体と心、その間で揺れ動く記号の間でバランスをとる機械。それこそが人間ではないか。
肉体にもっとも近い被服、あるいは何かしらのメディアを通して、そういったコンセプトを表現したいと考えました。
あと、デザイナーはクライアントに対して「(デザインとしては)このほうがいい、こうした方がいい」と言います。
しかし、自分が身銭を切る立場として、そういった判断ができるのか。そのプレッシャーに耐え、「デザインとして正しい判断」というものをきちんとした成果に変えられるのかということに挑戦したい思いもありました。
Tシャツはすでに多くの方の手垢にまみれた今更な分野とも言えますが、グラフィックデザイナーに出自を持つ私としては技術的なベースを活かしつつも、枯れた技術の水平思考のように、小規模にコンセプトで遊べるかなと思っております。
シンボルマークのデザインは井上嗣也氏
独特のアニミズムのような謎めいた生命力を感じさせる、木霊のような可愛いシンボルマークは、コムデギャルソンやパルコ、YMOなどの広告や音楽ジャケット、写真集を多く手掛け、ジャンルを横断した仕事を続けている、尊敬するアートディレクターの井上嗣也氏に作っていただきました。
人間の中に自然と存在する霊的なものに対する感性を感じさせる、人の心に潜む妖精とか妖怪の類なのかもしれません。柳田国男が集めた民話のように、まさに人の身体と心と記号の間に住まう「何か」です。
井上さんらしい世界や生命そのものに対する愛情とか優しさとか、自由で鋭い直感というか、自然の中に感じる精霊や魂のようなイメージが溢れていて、私はとても好きです。
SIGNS OF LIFE™の核心に触れるテーマを私以上に理解していただき、瞬間で捉えていただきました。
ちなみにこの子(?)達には、井上さんとその場で決めた可愛い名前があり、SUNNYとLOVELYと言います。どっちが男の子とか女の子とか多分ないです。
何が私を触発したのか
私がSIGNS OF LIFE™を作る直接のきっかけとなったのは、ルイ・ヴィトンとOff-White™のクリエイティブディレクターをつとめていたヴァージル・アブローの死であり、それをきっかけに彼の考え方が多くのメディアによって紐解かれたからです。
実際のところは、私はアブローのクリエイションをほとんど知りませんが、ラグジュアリーブランドにコンセプチュアルなアプローチを持ち込むために、ストリートを利用したと認識しております(ラグジュアリーとストリートを融合したという、ごく一般的な認識よりは)。
ごく単純に「こういうやり方だったら、俺でも真似できるんじゃないかな」と思ったわけです。アブローはかなり明晰だし野心家でもあったと思うのですが、私はさほど勉強家ではないので、アウトプットは似ていないと思います。
ただ、SIGNS OF LIFE™にTMがついているのは、「トレードマークを主張したい」というよりはヴァージル・アブローのOff-White™へのオマージュというか、「ヒントをいただき、ありがとうございます」という意味です。
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