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詩「フロリダスッポンの死骸に纏わる神聖さ」

「フロリダスッポンの死骸に纏わる神聖さ」
黒実 音子


腐った臓物のミサの話をしようか?

この地上にそびえる菌糸や、
無惨に踏みしだかれた莧、
埋め込まれた様々な鉱物(デ・ミネラリブス)、
乾いた荒野に生える肉(ペヨーテ)、
海を泳ぐ美味なガーリョ鯛、
異質なナス科の毒草、
サンタ・カタリーナの球体(エリゾ)・・

全てのものに値札をつけ、
奪い去ってしまうのだ!!
哲学者気取りの
あの善人(コンキスタドール)共は・・

そして、砕いて、叩き割り、
煮込み、朝市で売り、
胃袋に押しやる・・。
その眼で世界を見もしない!!

ああ、君・・
ある早朝、
私がパスクア・フロリダの地で
森を散歩している時、
巨大な鼈(アパローネ)の死骸が
その臓物を曝け出し、
仰向けに転がっていたのを見つけました。

その亀は、
強烈な悪臭を撒き散らし、
恐らく何かの獣によって
暴力的に剥がされた表皮は、
沢山の蛆共が蠢く、
膿汁(アイテル)の死の沼地に
浮かんでいたのです。

ああ、慈悲(ミセリコルディア)を!!

とんでもない数の
蠅達の羽音!!
皮膚を刺す醜悪な汗!!

まさに
疫病と悲惨の蔓延る・・
という詩の如く・・

私は一瞬で悟りました。
少なくとも私の立っているこの藪は、
人が幸福でいるのに
適していないのだな、
と。

だが、その時、
私は強く、こうも思ったのです。
「果たして
あの強欲な大提督(アルミランテ)や
商人共は、
この世にも哀れな、
神に見放された膿汁にも
値をつけるのだろうか?

いいや。
つける事はあるまい・・」

その時、私は気づきました。

そうだ!!
ならば、この肉こそが
神聖なミサなのでは?
俗的なものに
決して穢される事のない
お前こそが救いであり、
お前こそが供物だ!!

しかし私は、
その死骸を
あまり永く見つめている事は
出来ませんでした。

そのあまりの強烈な腐臭に、
嫌悪し、祈り、
顔を顰めたからです。

大分、後の事、
私はサン=ドマングの酒場で
神学生達に語ったのですが、
その見解は、
私の今後の人生の中で
変わる事は無いと思われます。

「ねぇ、君・・
神聖なものとは・・
赤い血すら朽ちた
[青いミサ]なのです。
そして青いミサは、
我々人間が、
日常の正気の中で
見つめられるものではない。

それは、
常に[神の秘密の庭]で栄光に輝き、
人間の都合などに慮りはしません。

ああ、それこそがまさに、
腐った臓物(ミサ・エントラニャス)の神聖さなのです」







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