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ホラー映画の表現とヴァニタスと「墓の魚」
こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。
今日もちょっと
古典と蛆虫のお話をしていきたいと思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1652956851285-tWYsseIbzZ.jpg)
昔のフランス詩や、スペイン詩には
ご存知の様に、蛆虫がよく登場するのですが、
これこそまさに
[この世の忌まわしさ
この世の虚しさ]
を表現した、フランドル絵画でも有名な
虚栄(VANITAS)の表現に他なりません。
![](https://assets.st-note.com/img/1652961511497-Ogu4rwKYtH.jpg?width=800)
ヴァニタスとは、
メメントモリ(死を想え)の表現の一つで、
英国のシェイクスピアも劇の中で、
この世の虚しさを語る為の材料として、
蛆虫を登場させています。
![](https://assets.st-note.com/img/1652958832514-DxnReZNXVf.jpg?width=800)
松浦芙佐子さんの
『ロミオとジュリエット』から『ハムレット』へ 死のモチーフの変奏
↓↓↓
http://www.elsj.org/chu-shi/proceedings72/matsuura_fusako.pdf
ところが、この蛆虫という単語は
日本語訳の中で語られているだけで、
実は原文では蛆虫とは言っていません。
![](https://assets.st-note.com/img/1652956991911-it4RIi4ECo.jpg?width=800)
例えば、
多くのフランス詩で蛆虫はvermiと呼ばれています。
古典のラテン詩ではvermium。
このVermisについては[蠕虫]と訳すべき単語です。
蠕虫とは、蛆虫に特定した言葉ではなく、
長くてうねうねしている生物全般の事を指すのです。
つまり墓地の死体に湧くVermis(蠕虫)というのは、
ミミズ、ミルワーム、シデムシの幼虫、蛆虫など、
幅広い不気味な生物を指している事になります。
![](https://assets.st-note.com/img/1652957321980-xVo34tj23C.jpg)
しかし、西洋詩でvermiと書かれている時、
日本語では[蛆虫]と訳される事が多いんですよね。
間違ってはいませんが、
原文ではミミズや甲虫の幼虫も含まれている事に
注意したいところです。
ボードレールも「腐敗した骸」の詩で、
[蛆虫]とは言ってなくて[larves(幼虫)]と言ってます。
シェイクスピアも[蛆虫]と訳されている箇所が、
原文ではWormes(虫)と言っていますし、
ギンズブルグの「チーズと蛆虫」ですら
別にbaco di segoとか、bigattinoとは書かれてはいません。
vermi(蠕虫)と書かれているだけです。
![](https://assets.st-note.com/img/1652957351614-3XdUc6hpBj.jpg?width=800)
とは言え、よく考えてみると、
日本でも[蛾の幼虫]を特定した名詞などはなく、
単に幼虫と言いますし、
蛆虫の様な[蠅の幼虫]を特別指定した言葉がある方が
珍しいのかもしれません。
カブトムシとクワガタムシ・・
蛾と蝶・・
蠅と蚊・・
など、
日本語では分けられている名詞も、
スペイン語やフランス語だと
まとめた名詞で大雑把に語られている事も
珍しくない為、
翻訳と、それを読む私達の
感覚調整の難しい所であります。
そうそう、
スペイン語ではsabandija(サバンディハ)
という単語がありますが、
これもトカゲや虫などの不気味な生物の総称という感じで、
曖昧に使われています。
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これは、あくで詩に登場するこれらの生物が、
生物学的な問題ではなくて、
文学的な象徴として使われている事を
意味するのだと思います。
不気味で哀れな悍ましい生物達・・
として蠕虫は語られ、
それらが存在する事自体が、
この世の不安気な負の要素として描かれるのです。
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さて、最近は
聖書を意識したホラー映画なども多くなってきていて、
かなり高尚で文学的な作品も多くなりました。
死者に湧く虫などは
ホドロフスキーの作品にすら登場する位で、
まさに映画の中で
ヴァニタスの象徴として使われる表現です。
![](https://assets.st-note.com/img/1652961313520-pEoGT9QwBX.jpg?width=800)
キリスト教文学の中の
負の要因をテーマに音楽を作る「墓の魚」としては、
これは嬉しい傾向で、
今後もっとキリスト教神学の面白さや、
纏わるヴァニタス(忌まわしさ、虚しさ)
などの表現の楽しみ方が
認知されると良いなと思っています。
しかし、そう考えると、
かつて文学などで語られていた
[信仰と虚栄]
の様なテーマは、
今ではホラー映画によってのみ
人々に伝えられているのかもしれませんね。
![](https://assets.st-note.com/img/1652961173857-NiYnmrFh8S.jpg)
古典から人が離れてしまった代わりに、
ホラー映画がその役割をやりだした・・
現代人は多忙故に、
なかなか古典を読書する時間が
ないのかもしれません。
そもそも、私の「墓の魚」の詩もそうですが、
ボードレールも、
レオポルド・アラスも、
バッハマンも、
ホラー以外の表現で
【この世の底知れぬ忌まわしさ】
【虚しさ】
を書く作家達です。
![](https://assets.st-note.com/img/1652959174042-rNCPYNbEIj.jpg)
いや、というよりも、
詩や絵画には、元来そういう役割があったのです。
英国の詩人には墓場派と呼ばれる一派がいましたし、
かの作曲家バッハですら、
カンタータ第26番で[虚栄]を作曲しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1652957679916-PEuC4ssMOH.jpg)
つまり、それらのテーマが現代では滅びて、
なぜかホラー映画にだけ
引き継がれているのです。
我々はホラー映画からのみ、
辛うじて[トランジ]や[ヴァニタス]を感じるという訳です。
近年の文学的ホラー映画の傑作
「ライトハウス」などは、
逆にそういう原点(文学や絵画)への
回帰(返還)でしょう。
この「ライトハウス」の不安気なテーマですら、
かつてはフランスの大衆シャンソンで
歌われていたのですから。
![](https://assets.st-note.com/img/1652958980321-rtXnaWgllk.jpg?width=800)
という訳で私達「墓の魚」は、
山羊の死体に湧く悪霊の蛆・・
すなわち
[この世の虚しさ]
を歌うオペラ楽団なので、
いわば
[宗教的ホラーを詩で表現する楽団]
とも言えるかもしれません(笑)
![](https://assets.st-note.com/img/1652957832756-dyb4b8TSQ9.jpg)
まぁ、ホラーでこそないものの
「墓の魚」も
ボードレールも
ゲーテも
シェイクスピアも
カルペンティエルも、
この世の影の部分、
飾らないありのままの残酷さを
私達に突き付ける作家です。
![](https://assets.st-note.com/img/1652959379203-Ei2aFG7MES.jpg?width=800)
ホラー映画が、文学という
新たな知性的作品に進化していく現代で、
これらの虚栄の詩を
再び読み解ける人達が増えてくれたら、
私としては本当に嬉しい限りなのです。
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ラテン詩と、
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