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ホラー映画の表現とヴァニタスと「墓の魚」

こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。

今日もちょっと
古典蛆虫のお話をしていきたいと思います。

昔のフランス詩や、スペイン詩には
ご存知の様に、蛆虫がよく登場するのですが、
これこそまさに
[この世の忌まわしさ
この世の虚しさ]

を表現した、フランドル絵画でも有名な
虚栄(VANITAS)の表現に他なりません。

ヴァニタスとは、
メメントモリ(死を想え)の表現の一つで、
英国のシェイクスピアも劇の中で、
この世の虚しさを語る為の材料として、
蛆虫を登場させています。

松浦芙佐子さんの
『ロミオとジュリエット』から『ハムレット』へ 死のモチーフの変奏
↓↓↓
http://www.elsj.org/chu-shi/proceedings72/matsuura_fusako.pdf

ところが、この蛆虫という単語は
日本語訳の中で語られているだけで、
実は原文では蛆虫とは言っていません。

例えば、
多くのフランス詩で蛆虫はvermiと呼ばれています。
古典のラテン詩ではvermium
このVermisについては[蠕虫]と訳すべき単語です。
蠕虫とは、蛆虫に特定した言葉ではなく、
長くてうねうねしている生物全般の事を指すのです。

つまり墓地の死体に湧くVermis(蠕虫)というのは、
ミミズミルワームシデムシの幼虫蛆虫など、
幅広い不気味な生物を指している事になります。

しかし、西洋詩でvermiと書かれている時、
日本語では[蛆虫]と訳される事が多いんですよね。
間違ってはいませんが、
原文ではミミズや甲虫の幼虫も含まれている事に
注意したいところです。

ボードレール「腐敗した骸」の詩で、
[蛆虫]とは言ってなくて[larves(幼虫)]と言ってます。
シェイクスピアも[蛆虫]と訳されている箇所が、
原文ではWormes(虫)と言っていますし、
ギンズブルグ「チーズと蛆虫」ですら
別にbaco di segoとか、bigattinoとは書かれてはいません。
vermi(蠕虫)と書かれているだけです。

とは言え、よく考えてみると、
日本でも[蛾の幼虫]を特定した名詞などはなく、
単に幼虫と言いますし、
蛆虫の様な[蠅の幼虫]を特別指定した言葉がある方が
珍しいのかもしれません。

カブトムシクワガタムシ・・
・・
・・
など、
日本語では分けられている名詞も、
スペイン語やフランス語だと
まとめた名詞で大雑把に語られている事も
珍しくない為、
翻訳と、それを読む私達の
感覚調整の難しい所であります。

そうそう、
スペイン語ではsabandija(サバンディハ)
という単語がありますが、
これもトカゲや虫などの不気味な生物の総称という感じで、
曖昧に使われています。

これは、あくで詩に登場するこれらの生物が、
生物学的な問題ではなくて、
文学的な象徴として使われている事を
意味するのだと思います。
不気味で哀れな悍ましい生物達・・
として蠕虫は語られ、
それらが存在する事自体が、
この世の不安気な負の要素として描かれるのです。

さて、最近は
聖書を意識したホラー映画なども多くなってきていて、
かなり高尚で文学的な作品も多くなりました。
死者に湧く虫などは
ホドロフスキーの作品にすら登場する位で、
まさに映画の中で
ヴァニタスの象徴として使われる表現です。

キリスト教文学の中の
負の要因をテーマに音楽を作る「墓の魚」としては、
これは嬉しい傾向で、
今後もっとキリスト教神学の面白さや、
纏わるヴァニタス(忌まわしさ、虚しさ)
などの表現の楽しみ方が
認知されると良いなと思っています。

しかし、そう考えると、
かつて文学などで語られていた
[信仰と虚栄]
の様なテーマは、
今ではホラー映画によってのみ
人々に伝えられているのかもしれませんね。

古典から人が離れてしまった代わりに、
ホラー映画がその役割をやりだした・・
現代人は多忙故に、
なかなか古典を読書する時間が
ないのかもしれません。

そもそも、私の「墓の魚」の詩もそうですが、
ボードレールも、
レオポルド・アラスも、
バッハマンも、
ホラー以外の表現で
【この世の底知れぬ忌まわしさ】
【虚しさ】

を書く作家達です。

いや、というよりも、
詩や絵画には、元来そういう役割があったのです。
英国の詩人には墓場派と呼ばれる一派がいましたし、
かの作曲家バッハですら、
カンタータ第26番[虚栄]を作曲しています。

つまり、それらのテーマが現代では滅びて、
なぜかホラー映画にだけ
引き継がれているのです。

我々はホラー映画からのみ、
辛うじて[トランジ][ヴァニタス]を感じるという訳です。

近年の文学的ホラー映画の傑作
「ライトハウス」などは、
逆にそういう原点(文学や絵画)への
回帰(返還)でしょう。
この「ライトハウス」の不安気なテーマですら、
かつてはフランスの大衆シャンソンで
歌われていたのですから。

という訳で私達「墓の魚」は、
山羊の死体に湧く悪霊の蛆・・
すなわち
[この世の虚しさ]
を歌うオペラ楽団なので、
いわば
[宗教的ホラーを詩で表現する楽団]
とも言えるかもしれません(笑)

まぁ、ホラーでこそないものの
「墓の魚」
ボードレール
ゲーテ
シェイクスピア
カルペンティエルも、
この世の影の部分、
飾らないありのままの残酷さを
私達に突き付ける作家です。

ホラー映画が、文学という
新たな知性的作品に進化していく現代で、
これらの虚栄の詩
再び読み解ける人達が増えてくれたら、
私としては本当に嬉しい限りなのです。

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