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悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達4

こんにちは。
「墓の魚」オーケストラ作曲家です。

前回に引き続き、
私の書いた地獄の物語(演劇の戯曲)
【悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達】
を掲載していきます。

今回がラストになります。

前回のお話はこちらです↓↓




↓↓↓


■■■第 3 部■■■

<再び、闇の中で、悪魔達が語る>

**悪魔グレイルメイル嬢**
かくして2つの魂は、
女の霊のモノになったのね?
三流の皿を用意した後は、
そこに傷んだイタヤ貝を乗せた。
焼いてしまえばモンシャウで香る様な
鮮度の無いカム・ムッシェルの
聖ヤコブの丸焼きの出来上がりというわけ?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
そう、全ては悪霊にとって上手くいったのです。
誰の目から見てもね。
だが、悪霊達は見逃していたのですよ。
一つ、計算外な事があったわけです。

**悪魔グレイルメイル嬢**
計算外?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
所謂、劇場における
「演出家の屁」というやつで。
神は、いつでも我々の上前をはねる。
そういう事ですよ。

<グローデンフェルト、自分の部屋で神に祈る>

**グローデンフェルト**(独白)
おお!!
毒を盛ろうというのだ!!
愛するティオフィリスに!!
愛するがゆえに!?
共に、楽園に行く為に!?
おお!! なんという罪深さよ!!
私の魂は、
もはやすでに地獄のものになったのだ!!
堕ちろ!!この惨めな自尊心よ!
砕け散れ!!臆病な野良犬!
ウルバン!
お前には墓すら似つかわしくない。
湿地の死骸に住む肥えた蛆虫達に喰われるがいい!
いっそ、そうしてくれ!
この魂を殺してくれ!

悪霊達は約束してくれた?
おお!! なんという浅ましさだ!!
そうだ!
お前はそれをずっと望んでいたのだ!
望んでいた・・・

ティオよ!!
ああ、どうか、私を
救ってくれ!!
救ってくれ!!

**悪魔ビビコット子爵**
それじゃあ、
お祈りというよりは懇願だから
神には届きませんよ。

**グローデンフェルト**
なんだと?
救いを求め、
自分の魂の牢獄からの解放を望む。
願わくば、自分の愚かな目が覚める事を。
それが主への祈りではないと言うのか!?

**悪魔ビビコット子爵**
ただ、望んでいる事を叫んでるだけじゃ、
乳飲み子と変わらないじゃない。
そもそも、祈りなんていうのは、
自らの心に
本当はその答えがあるものよね?
それが重要な所で、
神はそういうやり方を好むのです。
それを神に感謝するとか、
神の仕業と考えるとかは
私にはどうでもいいけれどね。
だけど、懇願というのは・・・
まぁ、ただの我が儘よね。
自分では全くその気がないのに、
ああ、何とかして欲しいなんて、
他力本願もいい所じゃない?
そういうのは、たちまち
悪霊の叶える願いの範疇になってしまうのです。
キリストとシモンの違いをご存知?

そんな事よりも、
早く実行に移さないとね。
もう充分、悩んだじゃない。
一晩悩んで解決しない事はね、
神父様の場合、
二晩悩んでも解決しないでしょうよ。

**グローデンフェルト**
自らの心に本当はその答えがあるなんて、
おまえもあの
花売りのような事を言うじゃないか。

**悪魔ビビコット子爵**
誰が言ったって、その程度の事なら同じですよ。
花売りだって、道化だって、
その位は知っているのです。
知らないのは聖職者と学者共くらいなものよね。
幸せなんてものが、
辞書や聖書に載ってると
信じ込んじゃってるんだから。

<悪霊ビビコット、
グローデンフェルトの持っている
白百合に気がついて指差す>

ああ、それそれ、
その白百合を使わせてもらいましょう。
これに海ウサギの毒を染み込ませれば重畳じゃない。

**グローデンフェルト**
白百合・・・
あの花売りの言った事がどうしても気になるのだ。
どうしても、あの言葉の意味がわからないのだ。
あの花売りは言った。
誰の目の前にも、
本当は幸せが存在しているのだと。
それに気づく人間と、
気づかない人間がいるのだと。

その言葉の意味がわからないうちは、
決意がつかないのだ。

**悪魔ビビコット子爵**
結構な事ね。
その存在している目の前の幸せに気づけないから、
アナタはこんな事になってるって、
そりゃまぁ、
気づくべきでしょうね。

さぁ、早く始めましょう。
グズグズしないでね。
いい?
幸せが何なのかなんて、
愚かしい問題を考えるのは御免だわ。
だけども、こういう事は言えるってものよ。
壊す事が幸せな者もいれば、
治す事が幸せな者もいるじゃない。
だから隣人を羨ましがるなんて、
そんなのは本当に時間の無駄なのよ。
なぜなら、羨ましいなんて思うその感情こそ、
自分の中にこそあるものであって、
他の誰のものでもないんだから。
どこまで行っても自分しかないんだったら、
結局、自分の中を
もうちょっと真剣に覗いてみた方が
ちょっとはマシなもんが
出来上がるってものでしょうよ。

**グローデンフェルト**
だが、我々は外部の世界にこそ、
幸せを求めるのではないだろうか?
神に奇跡を求めるように。
自分一人の限界を感じるからこそ、
人は主に、世界に、祈るのではないか?

**悪魔ビビコット子爵**
何も自分一人で完結させろって言ってるんじゃない。
聖書だとか、友人だとか、
恋人だとかにのぼせあがってさ、
影響を受けるのはどうぞ勝手にしてくださいな。
でも、最後にそれを処理するのは
自分だという事を忘れちゃ駄目なの。
自分の中にあるものを
自分でちゃんと管理するべきよね。
人のせいにするなんて論外ってものじゃない?

**グローデンフェルト**
ああ、だが、
天使に祝福のキスをされなければ、
幸せになれないのが人間だと言うのなら、
結局、人間は自分の周りのものに
振り回されて生きていく生き物なのだ。
だから私は・・・

**悪魔ビビコット子爵**
天使のキス? 
そんなものが欲しいのかしら?
あははっ、だったらまず、
天使に愛される人間になる事でしょうね。

そんなものに振り回されているうちは、
絶対に人生で
何も成す事はできないでしょうし、
第一、そんな人間に
天使がキスなんかするものですか!!

でも、ダンナにはそれができないから、
そういう殿方はね、
飛んでる天使を捕まえて、
無理矢理キスをすればいいのです。
その手伝いをあたしがしてあげますよ。

さぁ、もう十分でしょう?
その白百合を
ティオフィリスに渡すだけでいいのよ。
小説の前書きだけが長いんじゃ
読者は満足しないというもの。
ちゃんと中身を見せなくっちゃね。
行動しなくっちゃね。
そして成功した暁には、
長い長い道が待っているのよ。
根深い深淵の罪、浅薄なタンゴ、盲目な闇。
だけれど、若くて罪深いお二人には、
愛のドレスさえあれば充分満足なはず。
そう、贅沢なドレスよ。
真っ赤で、嘘八百で、
死んでも放さない執念で編まれている。

<ティオフィリスが、一人、
礼拝堂でお祈りをしている。
神父が、海ウサギの毒の入った
白百合を持って入ってくる>

**ティオフィリス**
ああ!! マリア様!!
私は世界の調和、
永遠の平穏を愛します!!
山の頂の草原で一面に咲く
ライラックの花の美しさ、
春の優しい風の香り、
秋の朝の新鮮な空気を愛します!!
愛する者と共にいる時の
温かな時間を愛します!!
お日様の香り、
いつもゆく道での良き出会いを愛します!!
そして、友と別れる時の、
あの悲しみをも愛します!!
死が全てと決別させる
その運命すらも愛します!!
嬉しい事も、素晴らしい事も、
悲しい事も、切ない事も、苦しい事も、
全てを包容する
愛おしいあなたのこの世界を愛します!!
ああ!! この世界の匂いを愛します!!
私は喜んであなたのその贈り物を受け取ります!!
それが、あなたの望みならば。
ああ、だから・・・

<ティオフィリス、祈りを止め、
神父に振り返る>

**ティオフィリス**
ああ!! 私の愛おしい神父様・・・
その花を私が受けとり、
私達が永遠に共にいられるというのなら、
私は喜んでその花を受け取りましょう・・・
それが、神父様の望みならば。

**グローデンフェルト**
!!おお!!ティオ!!
なぜ、それを!?

なぜそれをお前が知っているのだ?

**ティオフィリス**
愛しい神父様!!
私の夢にマリア様が現れ、
こうなる事を伝えたのです。
でも、それは・・・

**グローデンフェルト**
マリア様が!!?
では、主は全てお見通しだったというのか!?
私の悪しき心を!! 悪霊達の企みを!!

**ティオフィリス**
神父様、でも、
それは神様の御意志なのかもしれません。
だけれど、神父様は死んではいけません。
私の分も生きる事ができるのですから。
私よりも・・・
多くの時間を与えられているのですから。

**グローデンフェルト**
ティオ!!
一体、何を言っているのだ!?

**ティオフィリス**
ああ、愛おしい神父様!!
私は死の病にとりつかれているのです!!
ずっと前から。
もう、長くはないのです。
死は、悪霊よりも先に
私の魂を連れて行ってしまうでしょう!!
ああ、そうなる前に、
私はアナタと共に地獄に堕ちる事ができたら、
どんなにか幸せでしょう!!
例え、それが光の届かない夜の世界でも!!

**悪魔ビビコット子爵**
そいつは初耳だ!

**グローデンフェルト**
馬鹿な!?

**ティオフィリス**
本当なのです、神父様。
ああ、とっても残念だけれども。
私は幼い頃より、
死の病にかかっているのです。
誰にも打ち明けていませんでしたが。
アナタにお別れを言わなくてはならない。
それだけが、辛い。

**グローデンフェルト**
そんな・・・
まさか!?

<グローデンフェルト、
よろめいて白百合を落とす>

なぜ、お前が死の病に!?
誰よりも祝福され、
主の愛を受けているお前が!?
この世の全ての祝福を受けているお前が!?
ああ!! 信じる事ができない!!

**ティオフィリス**
祝福など受けておりません。
親に捨てられ、
愛も知らずに育った呪われた身です。
神父様、それでもこの世で、
天使を見る人がいるというのなら、
その天使は背負わなければならないのです。
その自分の悲しみも醜さも全て。
それは見事な事ですが、
同時に孤独な事です。
聖者を十字架にかけ、祀り上げても、
その者の孤独は癒されない。

**グローデンフェルト**
では、一人、
お前はその闇を抱えていたというのか?
私はそんな事にも
気づいていなかったというのか?

ああ、こんな馬鹿な事があっていいのか!?
おお、魔女カニディアよ!!
おお、地獄の娘よ!! 
屍の女よ!!
お前達はそんな事にも
気づいていなかったのだ!!

**ティオフィリス**
これは貴方のせいではありません。

**悪魔ビビコット子爵**
勿論、私のせいでもありません!

**グローデンフェルト**
おお、主よ!!
地獄に堕ちるのは
私だけのハズだったのだ・・!!

こんな筈ではないのだ!!
罪のない魂を地獄に連れて行こうとした
これが、私の罪なのか?

**ティオフィリス**
神父様・・・。
これが道なのです。
私達の道。

**グローデンフェルト**
いいや!!
いつだって道など見えぬ!
何にも見えない、闇の、その先で、
悪魔達が、いつだって笑っている!

<グローデンフェルト、
膝から崩れ落ちる・・>

<ティオフィリス、歌う。
それに合わせて、
グローデンフェルトも歌っていく>

**ティオフィリス**
なぜ、私だけが?

**グローデンフェルト**
なぜ、自分だけがこんな目に?

**ティオフィリス**
なぜ、私は捨てられたのか?

**グローデンフェルト**
なぜ、自分だけが背負うのか?

**ティオフィリス**
なぜ、いつまでも
街灯がないのか?

**ティオフィリスとグローデンフェルト**
ずっと暗闇だ。
魂が痛い。
喉が痛い。
もう休みたい・・・

**ティオフィリス**
もう死を迎えたい・・・
でも、

**ティオフィリスとグローデンフェルト**
アナタの行く末は見たい・・

**グローデンフェルト**
そうだ。
例え己の魂が
底の無い闇に沈んでいくものだとしても。
お前だけは・・

**ティオフィリス**
アナタだけは・・

**ティオフィリスとグローデンフェルト**
救われてほしい。

**ティオフィリス**
だから、くだらない事に
時間を費やしてはいられないんだ。

**グローデンフェルト**
ああ、だが、
それすらも、気づかずに・・・

<グローデンフェルト、
一人、礼拝堂の外へ出ていく>

<場面は変わって、
広場で一人たたずむグローデンフェルト。

グローデンフェルト、歌いだす>

**グローデンフェルト**
誰よりも祝福され、
主の愛を受けたお前を羨んでいたのだ!
その裏のお前の悲しみも気づかずに。
ずっと自分の闇にとり憑かれ。

悪霊は何もわかっていないのだろう。
自分の闇にとり憑かれ、
与えられた主の恩恵も、
自分の輝きも。

誰よりも祝福され、
主の愛を受けたお前が
今、死の病にとり憑かれ、
重い影を背負っている。

悪霊は何もわかっていなかったのだ!
何も見えていないのだ。
愚かな楽園に目がくらみ、
自分のいる場所が何処なのかも。

おお、許してくれ!!ティオフィリス!!
人は誰しも救いを求め、
主に縋って祈るだけなのだ!
愛を求めて祈るだけなのだ!

<グローデンフェルトを
追ってきたティオフィリスが登場。
嘆いているグローデンフェルトの手をとる>

**ティオフィリス**
ああ、愛おしい神父様!!
私の友人!!
私の恋人!!
ああ!! 死が近づく者にはわかるのです。
冬になると枯れてしまう花のように、
死が私達を引き離しても、
私達は同じ場所にいて、
きっとまた同じ場所で出会うという事を!!
だから、それは悲しい事ではないのです。
聞こえるでしょう?
天使達の歌声が!!
栄光の賛美の歌が!!

神父様は、
私に色々な事を教えて下さいました。
でも、今は私の方が一つだけ
知っている事があるのです。

**グローデンフェルト**
おお、ティオ!!
これが、悲しまずにいられようか!?
なんという悲劇なのだ!!

私は今日、唯一信じていた
この世界に裏切られたのかもしれぬ。
善なる者が死に、
醜悪な悪党が生き残るというのなら、
この世に救いは無いというの事なのか!?

**ティオフィリス**
ああ、愛しい神父様!!
残念ながら時間がないのです。
だから聞いてほしい。

悪霊達の囁きすら、
時として神様のお導きなのかもしれません。
その全てが。
世界はあるがままに、
ただ私達を
受け入れるだけなのかもしれないと。

孤独も、罪も、闇すらも!!
主は、御心のままに。
世界はあるがままに。
私達を包み込んでくれるのだと。
だから、誓って下さいますか?神父様。
私の為に!!

**グローデンフェルト**
ああ、ティオ!!
私はもう何も信じる事ができない。
聖書の言葉すら!
だが、誓うとも!!
お前が望むのなら、どんな事でも!!
神は信じれずともお前の言葉なら!

**ティオフィリス**
時として、ただ信じ、迷い、
生きる事そのものが信仰なのだと!!
神に仕える事なのです。

そうですね。
例え、悪魔の誘惑に負けたとしても、
例え、惨めな泥棒の生き方をしたとしても、
もっと大きな悪徳に身を染めてしまったとしても、
それでも良いのです。
それでも、信仰とはそこにあります。
我々は神に仕えている。

それを信じて下さい。

**グローデンフェルト**
馬鹿な!?
悪徳に身を染めても、
それでも我々は神に仕えられると言うのか!?
そんな事は・・・

**ティオフィリス**
そもそも悪を定義するのは人です。

**グローデンフェルト**
それでは悪霊の言っている事と同じだ!

**ティオフィリス**
そうです。
でも、悪霊も大きな意味では嘘はつきません。
嘘をつける位なら、
彼らはもっと上手くやれているでしょう。
それに、嘘をつく必要すらなかった。
アナタは自分で自分を苦しめていた。

**グローデンフェルト**
私には・・・

**ティオフィリス**
アナタの罪を許してないのは、
アナタ自身なのです。

**グローデンフェルト**
しかし、トマス神学では・・・

**ティオフィリス**
それです。
その神学が私達の邪魔をしているのです。
我々、神の子の魂全ての。

どんなに広大で
尤もらしい理論体系を作り上げたしても、
それを書いた者が人間である以上、
それは人間のものなのです。
神の言葉ではない。
いつだって世界によって、
それらは変容するではないですか!

**グローデンフェルト**
では、お前は、
教会の教えは間違っていると言うのか?
神学は必要ないと?

**ティオフィリス**
いいえ、私達には教会が必要です。
特に神学は神の言葉なのですから。

**グローデンフェルト**
なんと!
私は悲しみの余り、
白痴になってしまったのか?
私にはわからない。
お前は矛盾しているではないか、
それは・・・

**ティオフィリス**
その教会の教えや、神学を見て、
私達はそこに
人間を見つけなければいけません。
そして考える。

**グローデンフェルト**
考える?
神学を見て、神学以外の事を?

**ティオフィリス**
考えるのです。
その矛盾を。その美しさを。
そして真実を見失う。

**グローデンフェルト**
何と、真実を見失う事が信仰だと?
そんな馬鹿な事があるか?
見失わない為に、
我々は教会を作ったのだ!
それは闇に灯された神の導きの光だ。

**ティオフィリス**
でも、教会には人間がいるのです。
困った事に、
その中でも偉大な大司教様達は
迷う事を、とうの昔に忘れてしまった。
それが一番の問題です。
そもそも、もしも、答えがわかっているのなら、
神学にその全てが記されているのなら、
信仰などいらないのです。

でも、信仰は必要です。私達には。
考える事。
それが正しい事なのか迷い、悩む事。
すなわち、それが信仰だからです。

神学には正しい事など
書かれていないかもしれない。
でも、それこそが神様からの言葉です。
だから神学は神様の言葉なのです。
神学だけではない。
この世界全てが神様の言葉なのです。
迷え・・・という言葉です。

そして迷わなくなる事、
それが悪霊の望みであり、願いです。
迷いがない事は悪徳なのです。

**グローデンフェルト**
おお!!
だとしたら、それは・・・
あまりに・・・あまりに・・・
残酷ではないか!?

**ティオフィリス**
残酷だからこそ
信仰が試されるのです。
十字架にかけられるのは
何もイエス様だけではない。
私達は何度も何度も十字架にかけられ、
騙され、道を隠される。
魂を八つ裂きにされる。
愛する人を失い、
自分が愛されない事を知る。
神にすら。

目の前に見えている道を進むのは、
悪霊や信仰の無い者です。
私達は見えている道を疑い、
見えない道を見つけなければいけない。

なぜなら、
見えている道を進むのは簡単だからです。
道に沿ってただ歩けばいい。
痛みや苦しみも置き去りにして。
それら犠牲を全て
道のせいにして進めばいい。
自分が罪人ではない、と自覚できる。
それが楽な道です。
でも、自分が罪人ではないと自覚する者は、
最も大きい罪を背負った罪人です。
笑いながらイエスを十字架にかけるからです。
笑いながら自分より賢い者に唾を吐くからです。

皆、勘違いをしている。
結果が信仰なのではない。
苦しみが信仰なのです。
人を殺す事が罪なのではない。
人を殺した事に気づかない事が罪なのです。
だから、私達は
何も答えが与えられない世界に生まれた。
そして試される・・・

**グローデンフェルト**
信仰を・・・

**ティオフィリス**
そうです。信仰を。

**グローデンフェルト**
では、信仰とは・・
生きる事なのか?

**ティオフィリス**
生きて、迷って、
そして、いつまでも自分でいる事です。
自分でなければ、迷えませんからね。
つまりそれは自分を認める事でもある。

神父様は私が好きですか?

**グローデンフェルト**
おお!! ティオ!!
私はお前を愛している・・・

だが、それもわからなくなった。
私は自分の為に、お前を殺そうとした!

**ティオフィリス**
では、それを考え続けて下さい。
憶えて下さっているうちは。
私を愛す自分が罪人なのか?

私はむしろそれこそが・・・

**グローデンフェルト**
お前は、私を許すというのか?

**ティオフィリス**
許すも何も、望んだ事だったのです。
こうして話ができる事が。

アナタが私の言葉に耳を傾ける事。
それにはアナタが一度、
信仰から離れる必要があったのでしょう。
こればかりは、神様の力を借りなければ
できない事でした。

神父様。
私達の世界は、悪霊よりも手強く、
頑固なのです。

**グローデンフェルト**
お前は、本当に・・・
ティオなのか?

**ティオフィリス**
ふふ・・・。
確かに、今の私は
ティオではないかもしれませんね?
少なくとも、神父様の知ってる
ティオフィリスではないですね。
あなたの中のティオフィリスは、
もっと純粋で無垢な存在だったでしょう?

マリア様が私の口を使い、
神父様に伝えたのかもしれません。

**グローデンフェルト**
いや・・・
違う・・・
お前はティオだ。

私は・・・
本当に何も見えていなかったのだ。

信仰の事も、
お前の事も・・。

<ティオフィリス、
芝居がかった動きで
客席に向かって、大げさに>

**ティオフィリス**
色恋の事に関しましては・・・
そこに誰も罪人などいないのではないでしょうか?
あるいは誰もが罪人なのか?

アナタも企み、私も企んだ。
悪霊も、そして神様も。

だけど上前を撥ねれた奴は、
誰もいなかったのでございます。

<ティオフィリスが礼拝堂を去った後、
グローデンフェルトが
礼拝堂で、一人祈る>

**グローデンフェルト**
主よ、私は罪人です。
決して、楽園へは行けぬ者。
もがき苦しむ、この醜い心を持って、
地獄に落ちる運命なのだ!
だが、決して魂を
悪魔共に売り渡すつもりはないのです。
おお、主よ!! 私に正し裁きを!!
そして、ティオ。
愛しきお前はきっと一人楽園へ行くのだ。
誰も、辿り着けなかった楽園に。

<グローデンフェルト、
歌い出す>

**グローデンフェルト**
おお 美しい我が恋人よ、
楽園の夢を見よう。
そこでは誰もが魂の平穏を得、
麦畑の中で夢を見るのだ。

ずっと夢見ていたのだ。
主の王国に辿り着く事を。
暖をとる火がともされ、
孤独な闇夜が照らされることを。

天使はやがて
いつか皆の剣を落とし、
自分を傷つけた敵にさえ
手を差し出すだろう。
悪霊の誘惑も払いのけ、
真の自由を勝ち得るだろう。

美しい誇りだけをたずさえて、
誰もが、本当はわかっていたのだろうか?
魂の自由な場所への道を、
楽園への道を。

おお 美しいティオフィリス!!
私は楽園へは辿り着けないだろう!
いつかお前が
そこにいたら笑っていてほしい。
愛されるべき魂の
神の子よ・・・

おお、主よ!!
私は信仰を捨て、ただ一人地獄へ!
おお、罪なき青年を
誰も辿り着けぬ美しい場所へ!!
おお、主よ!! お聞き下さい!!
私は罪を受けれ入れ、
あるがままの道へ!
全てを受け入れ地獄へ!!

<再び、闇の中、悪魔達があらわれる>

**悪魔グレイルメイル嬢**
なるほど。
あの男は、地獄に落ちる決心をした。
それでは私達には手が出せない、
喰らえない。
そんな魂は具合が悪いもの。

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
そう、悪霊達は失敗したのです。
地獄を恐れない者を、
どうやって恐ろしい地獄に
連れて行けばいいというのでしょう?
そう、まんまと神にしてやられたのですよ。
いやいや全く、
忌々しいほどに素晴らしい手際でね!!

<グローデンフェルトは神に祈り、
その後ろに悪霊達があらわれる>

**悪霊**
ありえない!!

**墓場犬**
計算外!!

**罪人の魂**
こんなバカな!?

**ウジ虫達**
口惜しい!!

**悪霊達**
神父 我の王国を拒むのか?
偽りなきその真実の魂で、
一人孤独の闇に立ち向かう。

**グローデンフェルト**
もう迷いはない!!
悪霊よ、己の小屋に戻るがいい!

**グローデンフェルトと(悪魔ビビコット子爵)**
共に地獄の褥に帰るのだ
(これも神の仕業か!?なんて口惜しい!!)
去れ闇よ!!孤独よ!!悲しき罪よ!!
(奇跡など信じない我らが父よ)
あるべき場所に消えてゆけ
(今夜はご馳走にありつけぬ)

**グローデンフェルト**
楽園では誰もが皆、
手を取り合い唄いあう。
私は天におわします父を愛し、
誇り高きこの魂を捧げよう!
拭いされぬこの罪を受けとめて!

暗闇には悪霊が!
子の心には暗闇が!
だが、何を恐れる事があろうか?
美しい幼子の歌声に、
あらゆる暗闇は贖えぬ!!

**魔王**
おお、娘よ!!
その男の魂は諦めよう。
主に恋する男など、奴にくれてやるさ。
俺達は地獄の永遠の子供。
時間はいくらでも余ってるぜ!!

**悪魔ビビコット子爵と悪霊達**
げに恐ろしきは我が主人!!
げに恐ろしきは人の心!!
地獄に返ればまた折檻だ。
闇に闇が、また向こうにまた闇が!
おお!!いつまでも、
いつまでも、救われぬ!!

**グローデンフェルトと(悪魔ビビコット子爵)**
おお、私は告白しよう
(罪は宝石のよう)
主に告白しよう
(仕立て屋がちょろまかす)
私のパンか、私の罪か?
(せいぜい 父とやらにすがる事だな)
いつか貴方のお側にまいる時
(お互い明日の見えぬ身さ!)
いつしか罪は許され愛されよう
(いつしか罪は許され愛されよう)

**悪魔ビビコット子爵と悪霊達**
この世で俺達が、最も恐れるのは、
教会すら捨て去る恐いもの知らず。
楽園を信じない者達は、
地獄の底にも落ちはせぬ!!

**悪魔ビビコット子爵**
あははは。
それならば、
勝手にすればいいんだわ!!
自分の中にこそ
救いを見つけたというのなら、
それはそれで結構な事じゃないか!!
せいぜい迷わないようにする事だね、神父様。

<悪魔が、暗闇の中で神に語りかける>

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
全く・・・
人間というのは難儀な生き物だ。
魂の罪悪感に縛られて、
いつだって自ら地獄に落ちるのです。
本当は我々など、
その魂に触れる事もできないというのに。

<場面変わって、
ティオフィリスの部屋>

<ティオフィリスが一人、
ベッドに腰かけていると、
そこに悪霊の影だけが映って並ぶ。
(姿は見えない)>

**ティオフィリス**
来たね。
蠅の娘。地獄の霊。
成り上がろうとする者。

お前達は死体だ。
だから生者を笑っていられる。
死の秘密を知っているから、
この世のルールに縛られる事もない。
だが、その薄暗い棺からは決して出れないし、
誰の秘密も知っちゃいない。

**悪魔ビビコット子爵**
言いたい放題言ってくれますね。

あのですね・・・

ああ、こんな事を聞くのも
野暮ってものかもしれませんがね?
しかし、こうなっちゃあ、
聞くしかないのでしょうよ。
私は所詮、道化者ですからねぇ・・
どうも、よくわからない。

アナタは聖母マリア様ですか?

**ティオフィリス**
いいえ、とんでもない。
私はただの病人。
そして罪人。

**悪魔ビビコット子爵**
だけどアンタは
こうなる事がわかってた。

**ティオフィリス**
そうかもね。

**悪魔ビビコット子爵**
全く、一番の曲者じゃないか?
まさか、アンタなんかに
してやられるとは思わなかった。
病人とはね!!
これも神の計略というやつか?

**ティオフィリス**
ふふ、お前まで
そんな聖職者の様な事を言うのでないよ。
そんな大それたものじゃない。
私は病人だった。ただそれだけ。
だけど、それがお前達を退ける・・・

**悪魔ビビコット子爵**
イカれた奴に悪霊は寄って来ないものよ。
だって、そいつは悪霊そのものだものな。

まさか、アンタはわざと死を選んだ?
あの男を守る為に?

**ティオフィリス**
いいえ・・・
願わくば私だって、
あの人といつまでも一緒にいたかった。

ねぇ、女の姿をした悪霊。
あの人もいつかわかる時が来るだろうか?

**悪魔ビビコット子爵**
お前が何を言ってるか、
あたいには見当もつかない・・・

**ティオフィリス**
ふふ、とぼけるんじゃないよ。

お前はなぜ女の姿をしている?
悪霊に性別はないというのに。
それでもお前は、
女の姿で人の前に現れるんだ。
男にはわからないから。
男達は世界の全てを支配したけれど、
その代わり、世界の半分の事がわからなくなった。
だからお前らは女の姿で現れる。
真理を語る者として。
あるいはキリストの裏をかく者として。
聖職者の男達にはわからない
世界の半分の事を語る為に。

**悪魔ビビコット子爵**
だけど、お前も男さ。
随分、御託を並べて、
キーキー踊るのが好きみたいだが、
それで、衆道の罪から逃れられると?
どんなに言い逃れようと、
お前は男なんだ。

**ティオフィリス**
そう、だけど私は病人だった。
だからお前達に勝てた。
世界を捨てた者だから。

だからキリストも、
テレジアも死んでいく。
堕ちた者しか語れない言葉があるから、
その必要があった。

お前達も、だから地獄にいるのだろう?
地獄という最底辺で
お前達は人間を笑うのだ。
世界を捨てられないその欲望を笑い、
生きようとする背徳を利用する。

**悪魔ビビコット子爵**
なら、そう言うお前は神の使いか?
お前ならそれが許されると?
天使きどりな事だ。

**ティオフィリス**
あははは。まさか!!
私はただの人間。
あの人と同じ、ただの人間だよ。

あの人はいつかわかるだろうか?
目の前にいる他人は、自分なのだと。
女は男なのだと。男は女なのだと。
私は彼なのだと。

他人とは鏡に映った自分。
だけど鏡は逆に映るから、
歪んでいるから、
自分だとは気づかない。
そして、誤解する。嫉妬する。夢を見る。
恋をする。

自分を見つめながら、
そこに自分が永遠になれない天使の姿を見るんだ。
素敵だろう?
だけど、それは自分なんだ。
どんなに幻想を見ても、
憎しみを持ち、罪を持ち、
汚さを持つ自分なんだ。
私達はそれがわからないから、
この世を生きれる。
他人という自分を見て、
この世を彷徨う。

本当は悪霊なんて存在しないんだ。
だけど人間の魂はそれを見る。
それもまた鏡だ。
ただし割れて歪んだ鏡だね。
お前達は、
存在する者であり、存在しない者。
人が悪霊と対話をする時、
それは仄暗い自分自身と
対話しているだけなんだものな。
普段の自分が、知っていながら否定して、
見ない様にしている真実とね。

<悪霊の影は消えている>

さようなら。地獄の霊よ。
あの人は、まだお前を見るだろう。
そして会話を続けるのだろう。
自分との。

だけど、いつか・・・・
いつかわかる時が来る。
そしてまた神の国で
私達は会えるんじゃないだろうか?
そればかりは、私にもわからない事だけど。

そうだ・・だって、
幼い頃に、神父様、
アナタに聞いた言葉なんだ。
私はその言葉はずっと
マリア様に教えていただいた言葉だと思っていた。
いや、実際そうなのかもしれない。
だけど、そういうものでしょう?
この世界が語る言葉は、
神様、貴方の語る言葉なのだから。
その中の一つ一つを、
私達は迷いながら好き勝手に選んで繋げていく。
形の無い世界から、
私達の心は意味のあるものを作り出す。

長い悪夢の後には、ゆるやかで、
優しい午後の時間が流れるのですから・・

そうか、神父様。
つまりそれが私達の望む天国の事だね。

■■■ 幕 間 劇 ■■■

<場面変わって、町の中。>

<盗人、黒檀業者、ジプシー女の
三人の小悪党が登場する。

一人ずつ歌い出す。>

**盗賊**
盗人のおいらには裁けない。
何が罪で、誰を責めればいいのか?
ただ生きて、ただ毎日、飯食うだけでは
楽園への道は見えない。

心の底から神様にお祈りできる様に、
地の底でも、地獄の底でもいい。
最も下等な者達のいる土地でおいらは祈る!!

愛されたくて、
愛されたくて、おいらは祈る。

**キリスト教徒達**
私は罪人です。

**盗賊**
その傷を誰もが癒えない。

救われない者こそが
本当は救いを求めてる。

懺悔なんてしないさ。
生きるだけで必死だから。

でも、
盗人でも、主の国へ続く道を探してる。
おいらでも読める聖書を探してる。


本当は愛される者になりたかった!!
神様においらだって愛されたかった!!

主よ、あなたの主催する祝宴に、
招かれる者になりたかった。

おいらも神様と仕事をしたかった。
もっと綺麗な自分になれるはずだった。

だけれど生きていれば
身体は傷だらけ!!

いつの間にかこの手は泥だらけ!!

誰もが願ってる、幸せを!
救われたいと夢を見て!

楽園のベットを夢見ながら、
今日も地上で目を覚ます。



**黒檀業者**
人買いの俺には、わからねぇ。
主の国へ続く道なんて、
ずっと見えない。

選ぶなんて事、できやしない。
それが人生っていうもんだ。

良い奴になんてなれるわけねぇ!
人間はほとんどが落ちこぼれだ。
だから、最も下等な者達のいる土地で
俺は暮らすのさ。

愛を知らなくて、
知りたくもなくて、でも何か探しながら。

神よ、見てるのならば、
教えてもらいたいもんだ。

子供の頃、泣いていた俺は、
何を欲しがっていたのか?

俺は地獄行だけど、
きっと地獄でも探すのだろう。

でも、
救われない者でも、救われる道を探してる。
子供の頃、探していた天国を今も探してる。


**魔女ポリリャ・デ・クルパ**
イカサマ師のあたいにはわからない。
何が綺麗で、何が美徳なのか。
祈って、ラテン語できどっていても、
ジプシーは幸せにゃなれない。

誠実も本当の事も大嫌い!!
あたいにはこいつらだけが相棒だ。
弱い者が集まって、それでも
こっそりあたいは祈る。

幸せが欲しくて、
満たされたくて、あたいは祈る。

**うち捨てられたキリスト像**
私は追放者です。

**魔女ポリリャ・デ・クルパ**
その傷は誰だって癒えない。

あたいは悪い奴だけれど、
本当は涙、流してる。

後悔なんてしないさ。
生きる事はそういう事だから。

でも、
それでも主の国へ続く道を探してる。
あたいでもいい子だねと
言ってくれる王国を夢見てる。


**黒檀業者 魔女ポリリャ・デ・クルパ**
罪人も楽園に行きたかった!!
誰よりも本当は行きたかった!!

主よ、あなたの主催する祝宴に、
招かれる者になりたかった。

ソプラノで天使のように歌を歌い、
愛とメダイだけで
生きるわけにはいかないさ。

だって、生きていれば
心は傷だらけ!!

この痛みは? この苦しみは? 悲しみは?

それでも願う、幸せを!
救われたいと夢を見る!

楽園のベットを夢見ながら、
今日も地上で目を覚ます。



**全員**
愚かな者に憐れみを!!
悲しみに、病に、花束を!!

救われたいと願いながら、
罪を犯す子羊に、主よ、愛を!!

永遠に彷徨う事が罰なのか?
孤独に涙流す運命なのか?

いいえ、どんな悪党でも、本当は
幸せになれるはずなんだ!!

人を憎み、愛し、求める毎日を、
繰り返し私達は主の元へ!

いつか私達は出会うのか?
主の楽園で。



本当は愛される者になりたかった!!
神様に誰だって愛されたかった!!

主よ、あなたの主催する祝宴に、
招かれる者になりたかった!!

失う事すら愛ならば!
得ない事すら喜劇ならば!

そう、生きていれば
身体は傷だらけ!!

それでも、それが
素晴らしき人生と!!

傷つき、泣きわめき、
凍え、彷徨い、
ふと立ち止まって振り返る。

その歩いた道を想う、その場所を
楽園と言うのだから。


■■■ 終 幕 ■■■

<60年後、
ドイツの片田舎の村の
小さな民家の中に
十字架のかかった
小さな木のオルガンが置いてある。
歳をとったグローデンフェルトが、
オルガンを演奏しようと、腰かける。
悪魔が、神父に話し掛ける>

**グローデンフェルト**
あれ以来、私にとり憑き、
片時も離れずに、
私の魂を狙っている悪魔よ。

**悪魔ビビコット子爵**
あはっ、
あんたが寂しさと孤独のあまり、
その魂を差し出すのを待っていたんだけどね。
どうやら、時間切れのようね。

<グローデンフェルト、苦笑して>

**グローデンフェルト**
私の時間がね。

**悪魔ビビコット子爵**
全く、忌々しい魂だったわね、
アンタの魂は。
孤独は誰にでも訪れる
日の下の影のようなもの。
だけどアンタの人生は実に孤独だった!

**グローデンフェルト**
そうでもないさ。
いや、あるいはそうなのかもしれん。
だけど、常に信仰と歩いてきた。
それは神が傍にいるという事だよ。

**悪魔ビビコット子爵**
・・・・
では聞こうか?神父。

**グローデンフェルト**
ふふ・・・。
まるで、結婚式の
宣誓文を言う牧師だな。お前。
まぁ、ある意味、そうなのか?
人生の最後に人は
そうした誓いをするのではないか?
人知れず、己の魂に問われ、
己の魂に問いかけるのではないか?
どれだけの死があっただろう?
どれだけの時間が死んだ?
若い頃の過ち、青春・・
どれだけ望もうと帰る事ができなかった時間。
ティオ!!

**悪魔ビビコット子爵**
アンタは死が恐くないの?

**グローデンフェルト**
恐いさ!!恐ろしいさ!!
だが・・・ティオはね、
幸せだったのだよ。
若くして、その白き棺に入る者も、
永遠に生きる者も同じだ。
見たまえ!!
この世界はここにあり、
皆、ここで自分ができる事をするだけなのだ!!
誰もが!!
与えられた時間が限りあるモノで、
例え、孤独が病のように付き纏い、
その体が、心が、
永遠に呪われていたとしても!!

そして、自分の中の小さな祈りの中に、
主の祝福の光を見出せる者は幸いだ。
どんなに暗い地下牢に生きる者でも、
聖歌隊の姿すら、
そこには見えるだろう!!

**悪魔ビビコット子爵**
さぁ、神父様。
そろそろお別れだ。
残念ながら、あんたの御迎えは、
私の愉快な友人達じゃないけど。

<天上より天使達が舞い降りる。
ティオフィリスも、
その他の者達も全員そこにいる>

**天使達**
讃えましょう、主の国を
歌いましょう、栄光の讃歌
罪は永遠に許され、ゆりかごでの静かな目覚めを
神の子イエスは諸人の罪を背負い給う
親のない子羊に愛を
暗闇で泣く者に手を
羊飼いは羊の子らを愛し
牛飼いは牛の子らを愛す
主は世界を愛し
世界は調和を奏でる
悲しみに慈愛を
罪にこそ許しを
地上よ、永遠に歌え
善き霊と、主の歌を

**司教**
主の栄光を讃えよ!!

**花売り**
祝福を!!

**子供達**
愛を知る孤独を讃えて!

**悪魔ビビコット子爵**
世界なんて死んだ魚の目に映る
哲学のようなものよ!

**ティオフィリス**
だとしても、そこにあるのは
やはり調和なのだから。

**グローデンフェルト**
おお、愛しい者達!!
何を悲しむ事があるのでしょう?
世界はあるがままに。
主は、御心のままに。
私達はその先に進む。

おお、何処かで誰かに聞いた言葉だ。
そうだ・・・

**全員**
長い悪夢の後には、ゆるやかで、
優しい午後の時間が流れるのです。

<悪魔達も語る>

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
どうです?
大昔のたわいもない、昔話です。
光に帰りたがった霊が
孤独に沼地に話しかけていた。
勘違いしたあらゆる霊や天使達が、
それに巻き込まれ、観客となった。
自分の願いを各々が台詞として叫び、
地上で共鳴し合ったのです。

**悪魔グレイルメイル嬢**
それは演劇の話かしら?

**悪魔アムドゥスキアス将軍**
いいえ。
人生についての話ですよ。

<グローデンフェルトが
全てを祈りながらオルガンを演奏する。
若き日のティオフィリスもそれに加わり、
天上の天使達と共に合唱する>

**グローデンフェルト**
いつのまにか、こんな所に
来てしまったの? 迷子になって。
道もわからず、日が暮れだして
孤独を恐れ、恐くなって、

道に迷った魔女の子供は、
闇の中で不安になるけど、
家につけば夕食の香りが
小さな家で待っているから。

**全員と天使達**
人はとかく寂しがり屋で、
一人を恐れ、愛を求め、
狂おしい程に、泣き出しそうな程に
家の光を探して歩く。

ああ、魔女の子よ、大丈夫よ。
月がお前の道を照らしてくれる。
温かい食卓のもとへ。
お前は、お前の家の扉へ。

**グローデンフェルト**
小さな魔女よ、お前がこれから
道に迷って、不安な時は、
月を見つめ、想って祈れ、
まだ会わぬ人たちの事を。

永遠に会えない運命の者も
夜空の下でお前を想う。
それは闇を照らす光。
何よりも強い人の光。

**全員と天使達**
ああ、悪霊よ、お前達もまた、
一人を恐れ、愛を求め、
狂おしい程に、泣き出しそうな程に
家の光を探す者達。

救われろ! 救われるべき者達よ!
どうか救われろ! 願わくば!
罪人にも、魔女の子にも、主と同じ
食卓のパンを。

人はとかく寂しがりやで、
一人を恐れ、愛を求め、
狂おしい程に、泣き出しそうな程に
家の光を探して歩く。

ああ、魔女の子よ、大丈夫だよ。
月がお前の道を照らしてくれる。
温かい食卓のもとへ。
お前はお前の家の扉へ。

**グローデンフェルト**
若い時は道に迷う。
森の中でいつも迷子。
ならばいっそ唄おうと思う。
あの子が家に辿り着けるように。





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