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悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達3

こんにちは。
「墓の魚」オーケストラ作曲家です。

前回に引き続き、
私の書いた地獄の物語(演劇の戯曲)
【悪霊グレイルメイル嬢と愉快な友人達】
を少しずつ掲載していきます。

前回のお話はこちらです↓↓




↓↓↓


<司教がグローデンフェルトの部屋に入ってくる。
ハエが一匹飛んでいる。>

**司教**
なんと!?
蠅がいる!

**ハエ**
左様で。
最近、色々な用事で、
出入りさせていただいているのでございます。

**司教**
まぁ、仕方があるまいよ。
気持ちのいいものとは言えないが、
お前達はどこにでもいるのだ。

**ハエ**
そう、あまり楽観的にならない方が
よろしいかと思いますがね?
こんなに寒い季節に
私達がいるという事が問題なのです。

**司教**
しかし、どんなに寒い季節にも、
どこかに潜り込んで
生き残っているものなのだよ。
皆殺しにした! と、ぬか喜びしても、
どうかして暖かいねぐらを見つけるらしい。
どうも一匹、大きい奴が胡坐をかいているものなのだ。
第一、潜り込まれたら、
見つける事はもう困難だ。
なんたって、これだけ複雑に入り組んでいる処に
あんな小さな奴が
隠れるのだからどうにもならない。
あの手の生き物は清潔な場所にはいない、
なんて言う奴もいるが、とんでもない。
この世に清潔な場所など無いのだ!!
ふん。埃の溜まらない場所などあるものか。

**ハエ**
まさしくその通りですが、
しかし、一体、何処に隠れ潜んでいたかは
問題ではないですかね?
蠅は人の心にも湧くわけです。
そこを突き止めなければ
信仰の沽券に関わりませんかね?

**司教**
関わるものか。
奴らが何処にいるかは問題ではない。
早い話、何処かにいるのだ。
どう対処するかの方が問題なのだ。

**ハエ**
そりゃ正論ばかりですな。
心に蛆も沸きますまい。

**司教**
結構な事だね。

**ハエ**
蠅も命あるものですからね。
好む、好まざるというものがございます。

**司教**
君、そんな事はどうでもいい事だよ。
奴らの命など。

**ハエ**
そうなんでしょうな。
アナタはそこに誰が生きていようが、
どんな者が、どんな事情で
其処に居座ろうが、関係ないんだ。
追い出すという結果と、
清潔な今だけがアナタの答えなんだから。

**司教**
その通りだ。
だがそれが世界だ。
それが神の作った
均等のとれた統率されるこの世界なのだ。
我々はただ家から教会に向かう道を
毎日、歩いていればいい。
そうすれば神の家に着くのだ。
もしも、教会に向かう道の途中で穴熊の穴や、
死んだカニなどを見かけても、手を出さない事だ。
そんな事をしていたら、
いつまでも目的地に着かないし、
穴に堕ちたらどうする?
その穴は、どこまでも
続いているかもしれないのだ。
もしかしたら、
穴熊のものではないかもしれないしな。

**ハエ**
それは、勘違いも甚だしいですな。
アナタは均等というものを誤解している。
いや、どうもアナタのお友達は皆、そうらしい。
いいですか?
神は大便だってお作りになられたんですよ?

**司教**
蠅はいつも大便の話をする。

**ハエ**
逆に、蠅から大便の話を聞かないで
誰から聞くんです?
アンブロジウス聖歌の話でもする気ですか?

**司教**
ふん。
若い頃には私も道端の穴に興味を持ったさ。
そこにどんな獣が潜んでいるのか。
恐怖心より好奇心が勝っていた。

**ハエ**
穴熊に出会った話ですか?

**司教**
穴熊?
口から数学を吐く竜がいたさ。
だがそれたけだ。

**ハエ**
それだけですか?

**司教**
ああ、誰もが見るのさ。そういったものを。
若い頃には。

**ハエ**
老いたんですな。

<司教、憤慨して>

**司教**
完成したのだ!!!

**ハエ**
老いたんですよ。
そしてアナタには理解できなかった。

**司教**
何がだ?

**ハエ**
それは何でもいいのです。
竜の吐く数学でも、
異端者の呪文でも、女の語る真実でも、
アナタは理解できなかった。
重要なのはそれだけです。

**司教**
それだけかね?

**ハエ**
ええ、誰もが言うんですよ。
自分は完成したのだ。
迷いを切り捨てたんだってね。
老いただけです。
その切り捨てたものの中に永遠の命があった。

**司教**
馬鹿な!!
そんなものは世迷いごとに過ぎない!!

**ハエ**
まぁ、それでいいでしょう。
アナタは。
アナタの様な聖職者と話しても、
こちらも何も得るものはないのです。

**司教**
その切り捨てたものは・・・

**ハエ**
さぁ、もう終わりです。

**司教**
待ちたまえ・・・
信仰というものを・・・

**ハエ**
私は蠅ですからね。
信仰というものの事なんてわかりませんよ。
そんなものは、
十字架にかけられたアナタ方の総大将にお聞きなさい。
だから我々に言える事はこれだけです。
アナタは悪魔を退けたのではない。
アナタの魂には魅力がない。
だからいらないのです。
どんな悪魔も。
それだけです。

**司教**
待ちたまえ・・・
その切り捨てたものの中に・・

**ハエ**
お忘れなさい・・・
真実はアナタにふさわしくない・・・

<蝋燭がふっと消え、
部屋が真っ暗になる・・・>

**司教**

何だ?
誰もいない・・・
私は一体、誰と話していたんだ?
蠅が話をするなど、馬鹿げた事を・・・

神父は留守か・・・
私は幻を、夢を見たのか?
そうに違いない。

しかし嫌な夢だ。
見るべきものではない夢だ。
生きている間は。

冬の凍り付いた湖の中の鯉の様に、
我々が見なくても、
そこに存在するモノはいるのかもしれない。
身も心も凍り付く・・・
もしも、この世の何処かに
そんな真実が眠っているのだとしても、
そんなものは絶対に見るべきではない。

見るべきではないのだ。

<場面が変わって、市街>

**花売り**
ああ、なんて素晴らしい日々だろう!!
なんて、素敵な空だろう!!
こんないい日に、
なにか悪い事なんて起こるものかね。
天使にキスされたみたいに
俺は幸せなんだ!!
ああ!! 見てくれ!!
このオキナグサの花を!!
オダマキの色を!!
神は世界を愛し、
世界は神を愛している!!
それこそが栄光というものだ!!
このリンドウのような
可憐な少女の魂の輝きこそ、
悪魔をも恐れさせる調和なのだ。
悪しきものが世界にはびころうと、
結局、それらはこういった純粋で無垢なもの・・・
あるいは力強い雄々しき騎士の誇りに対して
苛立たしげに右往左往するだけなのだ!!
世界には光が満ち、歌声が響き渡る!!
それらを恐れては駄目だ。
受け止めるのだ!!
世界の歌を!!
神の歌を!!
恐れずに幸せを見据えれる者は、
心を軽くし、解き放つ栄光の聖歌隊を見る事になる!!

<グローデンフェルト神父、
花屋の前で立ち止まる>

**グローデンフェルト**
ちょっと・・・
あなたは、なんだって
そんなに幸せなのでしょうか?
ああ!! 一体、この世界のどこを探したら、
あなたの持っているような
幸せが見つかるのでしょう?
あなたの歌声があまりにも嬉しそうで、楽しそうで、
私の陰った心を、
わずかに照らすような気がしたのです。
つい聞き入ってしまいました。

**花売り**
神父様、幸せというのは、
感じようとしなければ感じられず、
逆に感じようと思えば、
どんな時にでも、
感じられるものなのではないでしょうか?
目の前にあるどんな小さな幸せでも、
幸せと思ったその瞬間に、
その人の幸せになるのであって、
気がつかなければそれまでなのです。

**グローデンフェルト**
だが、あなたは今、
天使にキスをされたみたいに、
とおっしゃっていましたが、
天使にキスなんて、
私はされた事がないのです。
常日頃、神に祈りを捧げている私ですら、
そのような栄光には
お目にかかった事がないのです。
全く人生というものは、
ままならないものではないですか?
まるでミノタウロスの迷宮に迷い込んだみたいに、
明かり一つ見つける事ができないのです。

**花売り**
神父様、明かりとは見つけるものではなく、
自分自身が明かりとならない限りは、
決して輝かないものなのです。
それに、地上にいる天使の数よりも
人間の数の方が多いんですから、
天使にキスされた者なんて
数える程しかいないでしょうね。

**グローデンフェルト**
いや、しかし、神学論から言うとですね、
天使の数は、
地上の人間の数よりも多いはずなのです。
だから、大勢いる天使の中の一人が、
私にキスをしてくれたって
いいのではないでしょうか?

**花売り**
私は、神の国にいる天使の数も入れて・・
と言ったわけではないのですよ。
地上にいる天使の数と言ったのです。
だからやはり、
天使は地上には少ないので、
全部の人間に
キスをして回るわけにはいかないのです。

**グローデンフェルト**
なるほど。
しかし、そうなると、
天使にキスをしてもらえる幸福な人間と、
天使に巡り会えない不幸な人間とに
分かれてしまいますね。
だから、貴方みたいな幸せを持っている人間と、
私みたいな
不幸な人間が生まれてしまうというわけです。

**花売り**
神父様、世の中は平等ではないのです。
もしも、世の中が平等だったら、
詩人は何を嘆けばいいというのでしょうか?
劇作家はどんな悲劇を書けるというのでしょうか?
それに、凡人は
どうやって晴れた日を喜べばいいでしょう?
雨の日も無いというのなら!!

でも、誰の目の前にも、
幸せが存在するという意味では
本当は皆平等なのです。
分けられるとしたら、
すでに自分が持っている幸せを見つけられる人間と、
見つけられない人間ではないでしょうか?

**グローデンフェルト**
しかし、あなたは
悪霊に取り憑かれたりしていないでしょう?
毎夜、女の屍が枕元を訪ねて来る事もない。
だから、そういう事が
言えるのではないでしょうか?

世の中には、生まれた時から
不幸な宿命を背負っている者もいるのです。
例えば・・例えば惚れた相手が、
決して結ばれない相手だったらどうでしょうか?
そんな不幸な事はないのではないでしょうか?

**花売り**
私の幸せが、私の物なのと同じように、
あなたの不幸はあなたの物なのです。神父様。
だから、あなたが
どんな不幸を背負っているか?とか、
そんな事を私に
延々と語って聞かせても無駄というものです。

同じ事で、私が、私の幸せをあなたに聞かせても
神父様には理解できないものなのでしょう。
しかし、それは当然なのです。
その幸せは私の幸せだからです。
私の幸せは他人から見れば不幸かもしれない。
だから、あなたは、
あなたの幸せを自分で探さなくてはいけません。

惚れた相手が、決して結ばれない相手だったら?
私だったら、
その相手に私の育てた花を
プレゼントするでしょうね。
結ばれない相手かもしれませんが、
花をあげてはいけない相手ではないのだったら。
ならば、相手の少しでも
喜ぶ顔を見ようとするのは
いけない事でしょうか?

暗闇の奥ばかりを覗くのではなく、
少しでも明るい光を
照らしていくのはどうでしょう?
そうすれば、その夜な夜な現れるという、
墓場の幻影も消えるのではないでしょうか?

結局の所、天使にキスをされたいのなら、
天使に愛される人間になるしかないのです。
どうです?
試しに、この花でも買っていっていかれては?

**グローデンフェルト**
白ユリか。
まさにあの子にぴったりだ。
ああ、一つもらおう。

<グローデンフェルト神父、花屋から花を買う>

<場面変わって、
数日後、神父が礼拝堂で一人悩んでいると、
ティオフィリスが入ってくる>

**ティオフィリス**
神父様?
私には神父様が、
何かとても悩んでいらっしゃるように見えるのです。
私にはわかりますよ。
私は何もできないのでしょうか?

私はね、神父様を愛しています。
ああ、私にとって特別なお方。
でも貴方は思い詰めている。
そう・・私の事で。
私は・・・邪魔なのかもしれませんね。

**グローデンフェルト**
何を言うんだい。
おお、ティオ!!
私こそおまえを愛している。
その汚れなき魂を!!
おまえが近くにいてくれるだけで
どんなに心が健やかになる事か!
お前は知らないのだ。

もはや、今の私は、
お前がいてくれなくては
生きていけないだろう。
この信仰を捨てなくてはならないとしても。

しかし、私のような
穢れた男の悩みなどは、
美しいお前には無縁のモノなのだよ。ティオ。
すまない。
私はおまえが羨ましいのかもしれぬな。
神に愛されている子よ!!
天使の祝福こそ似合う子よ!!
なぜ、主は私のような者を
お造りになったのか?
と思ってしまうのだ。

**ティオフィリス**
ああ、神父様!!
それは、私も同じです!!
なぜ私達は、暗い墓場の土の道を
踏んでいかなければならないのでしょう?
多くの世の恋人達には、
教会の鐘の音が祝福するというのに!!
ああ!! そして、それは
きっと神の王国に
続いている道だというのに!!

**グローデンフェルト**
いや、そう言ってはいけないよ。
おまえの道が
主への王国に続いていないはずがない。
だからこそ、
お前には私の心はわからないのだ、ティオよ!!
おまえは神に愛されているのだから!

**ティオフィリス**
神父様・・・
私は汚れていますよ?

**グローデンフェルト**
何を言う。

**ティオフィリス**
私が汚れていない・・・と、
どうしてそうおっしゃるのです?
確かに私は、
その貴方にとっての天使を演じようと思えばできましょう。
ええ、お安い御用ですとも。
しかし、それでは貴方を救えないと私は思う。
人は時として真実を見なければ。

**グローデンフェルト**
真実?
私には見えていないと?
お前の姿が?

**ティオフィリス**
鏡の様なものなのですよ。

**グローデンフェルト**
鏡?

**ティオフィリス**
はい。
他者は鏡の様なものでしょう。
鏡に映っているのは自分の姿。
だけど、真逆に映し出されているから、
それは自分の姿というわけではない。
だから他人に見える。

**グローデンフェルト**
わからんな。
ティオ。

ああ、勿論、お前の事はわかっているよ。
さっきのは例えで言っただけだ。
お前だとて、心に様々な事を想い、
抱え生きているのだろう?
それはわかっているよ。
だけど、これは呪いなのではないか?と思う。
私にかけられたこれは。

**ティオフィリス**
神父様。
では、その呪いが
相手にはかけられていない・・
と、なぜ思うのですか?

**グローデンフェルト**
それは当然だ。
つまり、私は不完全だった。
魂が・・・信仰が・・・
私は・・・
そう私は、
出来るものならお前のようになりたかった!!
ああ、ティオ!!
おまえが楽園に行ったとしても、
私はその場所にいる事は叶わないのだ!!
おまえを世界の誰もが愛するだろう。
私でなくても!!

**ティオフィリス**
やはり、私はどうも、
貴方の天使を
演じなければいけないという事ですか。

**グローデンフェルト**
いや、
演じるのではない!!
お前は天使だ。

**ティオフィリス**
天使ではありません。
私もまた呪われています。

**グローデンフェルト**
ああ、すまない。ティオ。
少し一人にしてくれないか。
すまない。

**ティオフィリス**
はい・・・。

<ティオフィリスが礼拝堂を出ていく。
グローデンフェルト神父、
一人で思い巡らす>

**グローデンフェルト**(独白)
ああ、白百合の花を渡しそこねてしまった。

なぜ私はあの子に
白百合を渡す事ができなかったのだろう?
この感情は何なのだろう?

嫉妬?まさか!?
おお!! 主よ!! 
私は嫉妬しているというのでしょうか?
あの子に!?

<残された神父の前に
再び悪魔ビビコット子爵が笑いながら現れる>

**悪魔ビビコット子爵**
その通りよね。神父。

**グローデンフェルト**
悪霊め。何の用だ!!
不吉な少女め!!
わざわざ姿を変え、
私をあざ笑いに来たのか!!

**悪魔ビビコット子爵**
まぁ、そう言わないで下さいよ、麗しい大先生。
この姿はね、ちょいとそこの墓地から
女の死体を拝借したまでですよ。
見てくれというのはね、
この場合、あんまり決まっていない方が
都合が良いものなの。

この間、私の言った事。
悪い話ではないと思っているでしょう?

**グローデンフェルト**
馬鹿な!!
ティオを地獄に連れていくなど!!
私がそんな狂気の沙汰を実行すると、
少しでも思っているのならば、
悪霊め!!
おまえの人を見る目は大した事はないのだ。

**悪魔ビビコット子爵**
あー、そうかもしれないわね。
昔に比べて・・・、
それこそ遥か大昔に比べて。
それでも、大海の遥か彼方の、
船の乗り組み員の数位、数えられますからね。
それに比べたら、
アンタの心の中の、その淀んだ単純な傷跡を
見逃さない事なんて
容易いものですよ。
アンタが一人で孤独に地獄に落ちる事を、
どれだけ嘆き悲しんでいるかなんて、
手にとるようにわかる。
まぁ、その事に関しては、
旦那が後ろめたさを感じる必要は
ないと思いますけどね?
ああ、だって、そんな事が平気な人間なんて
いやしないんだから!

**グローデンフェルト**
確かに、私は地獄に行く人間だ!!
その事は恐い。
恐怖だ!!
だが、なぜ、
ティオを道連れにするなどと考えようか!!
ティオは天使のような少年だ。
ああ、心は強く、魂は賢い。
いつだって、彼は神の国に召されるだろう。
そして、ああ!!
もっとも主の玉座に近いゆりかごで
眠る事を許されるだろう!!

私やお前のような呪われた業もない!!
お前のような哀れな者が住む地獄には生涯、
いや!! 永遠に縁がない魂を持っているではないか!!
わかるか?悪霊よ!!
腐敗のように醜悪な地の底で生まれる魂もあれば、
この世には、
明るい楽園で
永遠の約束をされた魂も存在するのだ!!
わかるか?悪魔の小間使いよ!!
この私の、この惨めな男の魂が!!
私のような男にどれだけの光が指したか!!
彼の優しく美しい魂で、
私がどれだけ救われただろうか?

**悪魔ビビコット子爵**
その人間特有のね、
美しさと優しさを一緒に考える悪癖は
やめてくれないかしら。

美しさは悪魔が。
優しさは天使共が管轄してるものでね。
お綺麗な顔して、
いろいろ策略を巡らしているものよ?
天使だってね。

**グローデンフェルト**
美しい心が外見を作るというものだ!!

**悪魔ビビコット子爵**
あはっ、
なかなかの惚れっぷりね。

**グローデンフェルト**
なんだと!?

<グローデンフェルト神父、
懐から聖水を取り出し、悪霊にかざす。>

**グローデンフェルト**
私がお前のような悪霊に取り憑かれ、
何も用意していないと思ったか?
これは聖水だ!!

**悪魔ビビコット子爵**
ああ、そんな怖いものは
永遠にしまっていてほしいわね。
少なくとも私達、夜の霊には、
とても恐ろしいものなんですから。
でも、それ、入ってるのかしら?

**グローデンフェルト**
当たり前だ!!
私が用意したものだ・・・、

<グローデンフェルト神父、
聖水の瓶を見つめる。
瓶の中が空になっている事に気づく>

**グローデンフェルト**
!?馬鹿な!?空っぽだ!!
お前の仕業なのか!?

**悪魔ビビコット子爵**
誰にでもできる事じゃないのよ。
でも長生きは時として、
それだけで学ぶ事になる。

**グローデンフェルト**
まやかしだ!!
おまえのように
女の外見で人をたぶらかそうと企んでも、
真実の美しさというものの前には、
色褪せ、遠く及ばないものなのだ。

**悪魔ビビコット子爵**
あのね、神父様。
一応、言っておきますがね、
この外見は今回は
そういう為のものではないでしょう?
男色相手に、女の恰好で
色気振りまいても仕方がないでしょう?
そのつもりがあれば、男の姿で現れますよ。
旦那があっという間に
あのガキを忘れるくらいのね。

**グローデンフェルト**
バカを言うな!!
おまえのような醜い悪霊に!!

**悪魔ビビコット子爵**
女の姿がお気に召さないのなら
お望みとあれば、
汚物の姿で現れる事もできますけどね。

今回の商談は、まとめたい取引がはっきりしていて、
支払う代価もはっきりしている。
早い話、見栄もはったりも必要ないじゃない。
あんたが、あの美少年と一緒に、
私達と契約をしてくれればいいんだから。

**グローデンフェルト**
ふん。
そんな狂った契約をするものか!!

**悪魔ビビコット子爵**
地獄行きが決まった人間にしては、
気取った態度ね。
だけど、あんたの心の中にはいつだって、
暗い孤独よりも醜悪な嫉妬の心が宿っている。

<悪魔ビビコット子爵、
グローデンフェルト神父の手をとって言う>

**悪魔ビビコット子爵**
だから、お前の
愛おしい男も連れていけばいいじゃない。
神父様!!
2人連れ立って行きゃ、
地獄だって悪くない。
そういうものでしょう?
我らの王国の友人はお前達を何よりも、
誰よりも、歓迎するでしょうよ?

**グローデンフェルト**
私の心の中を覗くのはやめろ!!
悪霊!!

**悪魔ビビコット子爵**
聞き飽きたわね。
だけど、そうでしょう?神父様。
あんたはあの少年に恋をしてる!!
嫉妬してる!! 憎悪してる!!

<悪魔ビビコット子爵、
くるくる回りながら歌い出す。
グローデンフェルト神父はその歌に聞き入って、
自らも歌いだしている事に気がつかない>

**悪魔ビビコット子爵**
おお、何より美しく、
そして、主の愛に恵まれたティオフィリス!!
何の悩みもなく、何の罪もなく、
全てから祝福され愛され、
生きる清らかな少年。

ああ、だけれど、
神父様はそうじゃない。
その薄汚れた聖職の服はどう?
その罪悪にまみれた汚いツラは?
あんたは魂すらも汚れてしまってる。
あんたは地獄を恐れ、
誰からも愛されずに、
痩せ犬のように生きるんだ。
天使共すら死後、
あんたの魂を拾いやしないよ。
神父様には必要なのさ。
少年の魂が。
美しい温もりが。
なぜって、一人じゃ凍えちまう。
あたいの友人達はね。
いつだって凍えている。
魂が無いからね。
魂が必要だ!!
特に神に愛された
宝石みたいな魂ならなおさらね!

**グローデンフェルト**
おお、何より美しく、
そして、主の愛に恵まれたティオフィリス。
何の悩みもなく、
何の罪もなく、
全てから祝福され愛され、
生きる清らかな少年。
おお!! その通りだ!!
私はお前に嫉妬している!!
孤独を恐れている!?
なんと浅ましく、汚らわしい私の心よ!!
愛する者を裏切って、
誰が私達を祝福すると言うのか!?

**悪魔ビビコット子爵**
悪魔が祝福するわ!!

**グローデンフェルト**
おお、なんと呪われた世界だろう!!

**悪魔ビビコット子爵**
呪われていて、歪んでる!!

**グローデンフェルト**
私だけ一人、
主の恩恵を受けることなく
地獄に落ちることが決まっていたのだ!!
ああ、ティオ、
お前はいつだって美しい
祝福に包まれているというのに!?
お前が恨めしい!! 憎らしい!!
おお、救ってくれティオ!!
私にはお前が必要なのだ!!
例え、この身が地獄の豪火で焼かれようとも、
お前がいてくれれば!!
他の事などどうでもいいのだ!!
ああ、例え、悪魔に魂を売っても!!

**悪魔ビビコット子爵**
ようやく本音が出たというわけね、神父。
それがあなたの本音?

じゃあね、神父様。
毒を盛って、
ちょいと来てもらうはどうかしら?
こういうのは、
海ウサギの毒がいいって決まってるの!!
古い連中のご機嫌を損ねない事が
肝心だからね。

**悪魔ビビコット子爵**(独白)
しかし、あのガキは確かに少々厄介ではあるな。
なんだか、
むずむずと嫌な鳥肌が立つ野郎だ。
ああいう手合いは、
こちらから先手をうって、
早めにカタをつけちまうのが上策かしら。

しかし全く、なんだって私も
いつまでも
こんな深淵で労働をさせられるんだろうね?
ひょっとして自分に原因があるとか?
あのクソ神父のように?
・・・まぁ、どうでもいい事だ・・。
本当にね、神父様。
どうでもいい事だよ。


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