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Take-14:映画『ザ・ホエール(2022)』は面白かったのか?──“映画の感想を書く”という矛盾──

【映画のキャッチコピー】
『僕は信じたかった』

【作品の舞台】
現代:アメリカ・ニューヨーク州、ニューバーグ。主人公チャーリーの家のみでストーリーは進む。チャーリーの家はアンブラ・サウンド・ステージの施設を利用し、ほとんどの撮影は18000平方メートルのドライブ・オン・サウンドステージであるステージ4で行われている。ステージ4の様子はこちら。

[原題]『The Whale』
直訳で「鯨」


映画『ザ・ホエール』のワンシーン
映画.com

 皆様よき映画ライフをお過ごしでしょうか? N市の野良猫𓃠、ペイザンヌであります。

 こちらは公開時に劇場で観ました。

 やっかいな映画であります。しかも「非常にやっかい」なのであります。

 この映画の感想を書こうとすると手が止まるのよね。

 初感は「こんなもんか」でもあるし「あっけにとられた」でもありました。

 ただ劇場を一歩出て、なんとなく予感があったのは──ああ、たぶんコレ「年単位」で頭の中を占めるやつかもと。案の定、あれ以来ずっと頭の片隅を占めております。

 さてこの今をときめくA24配給の『ザ・ホエール』、「観た方がいい」というより「観ておいて損はない」。そんな作品の気がしますね。

 中高校生くらいの人など今のうち観ておいて「よくわかんねぇよ!」と実はなってほしい

 てか実は現在のボクも同じ「よくわかんねぇよ」なのです。一緒です。
 今すぐ得するというより「こういうことか」と、いつかどこかで感覚的にわかっていく気がするのよね。

 ボクも若い頃に観た映画の中で、難解でわけがわからず、それでも頭にな~んか引っかかって、時とともに体で理解できた映画もあれば、いまだによくわからずフト考え込んでてしまう映画もあります。そんな類の映画と似ているというか。

 そうはいっても大枠のストーリーは単純明快です。むしろわかりやすい部類。

 が! ──やっぱわかりにくい。難解です(どっちよw)

映画『ザ・ホエール』のワンシーン、ブレンダン・フレイザー
映画.com

 まあストーリーの大スジなんて「殻」というか、この映画でいうところの「脂肪」みたいなものというか……その表面的な外ヅラだけで「感動した!」というのは間違いというか、逆にミスリードさせられてる気もするというか……

 この「外ヅラ」というのはつまり「仲たがいしてた家族が和解し合う」とか、そういうパッと見、わかりやすいとこですな。

 もちろん、それでもいいんだけれど……それだけで捨てるのはもったいないよね、まだ食べるとこいっぱいあるよね……?──みたいな。

 さらに他の方々の感想などを眺めてると、またわけがわからなくなるんすよね🙄

 賛否がはっきりしてて「泣けた」という方も多くいますが正直なところ「え? コレ泣くような映画か?」ともちょっと思ってしまったわけで。

 いや、もちろん泣いてもいいすよ。泣けてもおかしくはないんだけど……ひょっとすると「泣くポイントが中心からズレてるんじゃないのだろうか」と少し不安になったりも。

 また手放しでつまらなかったという人には「いやいやいや、それもちょっと違うんじゃね? せめて、もう二三歩は踏み入ろうよ」などと余計なことを思ったりもしたりと😅w

 まあこれは「寓話」だな、と思う。

 この監督ダーレン・アロノフスキーの映画といえば『レスラー(2008)』や『ブラックスワン(2010)』など比較的わかりやすいものもありますが、『ザ・ホエール』の後感、といいますか作り的にどちらかといえば胸糞映画と言われる『Mother/マザー(2017)』の感覚、その難解さに近いかもしれませんな😕

 ぶっちゃけボクは『マザー』は胸糞映画だとは思ってないし、実はあれも寓話だと思っている方です。

 まあ「胸糞」ついででいえば『ザ・ホエール』でも終盤近くで主人公が爆食する姿などめちゃめちゃ汚く、醜く撮られてるので「汚い食べ方が苦手。クチャラー超嫌い」なんて人には本作も十分胸糞映画なのかも……なんて心配したりも。

 そもそもこの映画はメルヴィルの小説「白鯨」や「旧約聖書」をベースに作られている──と、まあこれはこの映画の感想を書いてる方なら必ず記してありますやね。

 もちろん外すわけにもいかないのですが、そこばかり前面に出てきても「果たして本当にそうなんかね?」と疑問が頭をかすめます。

“白鯨”といえば近年では名匠ロン・ハワード監督、『白鯨との闘い(2015)』という映画もありましたね😀

 主演はクリス・ヘムズワース
 そして『白鯨』の作者であるメルヴィルをベン・ウィショー
 さらにはメルヴィルに船での出来事を一部始終を伝え、小説『白鯨』のインスピレーションを与える若い船員役にトム・ホランドなども出演しております。

映画『白鯨との闘い』のワンシーン、クリス・ヘムズワース
シネマトゥデイ

 さて、話は戻ってこの『ザ・ホエール』ですが、劇場を出てまず思ったのは「ん~、またアレなのかい? 
 宗教に詳しくないと……
『白鯨』を読んでないと……
 旧約聖書を理解してないと……

 この映画を理解する権利も与えられないのかい? その類なの?

──と。

 いや、違う。そうではないっしょ。今回はハッキリそう思いました。

 じゃあ何かい? その辺を事細かに説明しないとこの映画の感想や記事、「エッセイ」は書いてはいけないのかい? どうなんだい?

──と。

 そう、勘のいい方ならお気づきでしょうが「エッセイ」ですよ。
 この映画の核となる「主人公チャーリーの娘が書いた『白鯨』のエッセイ」。

 主人公のチャーリーの仕事はエッセイや文学、言葉についてネット上で在宅講師。 

 そんな彼は娘が昔書いた『白鯨』に対する感想・エッセイを病的なほどに何度も何度も読み返しますよね。

 簡潔で、時には乱暴で、稚拙ささえあるようで、それでいてまた正直で誠実さを持つそのエッセイ──劇中彼はそれにずっと固執しています。病的なほどに。

 そのエッセイには博識さも文献からの引用も、小難しい理屈もありません。

『白鯨』を読み解くのに正しいのか正しくないのかすらわからず──ひょっとすると点数や評価、良く見せようという気持ちすら関係ない「何か」を表している気すらします。

「正直であれ」「誠実であれ」──いやぁ、何度この映画で出てきた言葉でありましょう。

 ね、まさに、この映画を読み解くにあたり『白鯨』や『聖書』を読まなくてはダメなのか?──それと同じなのです。
「うまく、それっぽく書いて……それで何なの?」と逆に言われそうです。

「テストでA評価をもらいたいだけなの?」「褒められたいの?」「“わーすごいね”って言われたいだけなの?」

 もちろんそういうこともモチベーション維持の大切な一つですが、“そんなこと”のために『白鯨』という小説がこの世に存在しているわけでないのは確かなんてす。もちろん「聖書」だってしかりです。

映画『ザ・ホエール』のワンシーン、セイディー・シンク
映画.com

 今回、冒頭に「感想を書こうとすると手が止まる」と書きましたが、その辺り常にモヤモヤしたからなんですよね。

「なんかオレ、それこそこの映画の感想をさ、上手く書こうと思ってね?」みたいな……

😕まあ、それこそ今回に限らず、別に“自分が作った映画”でもないくせにさ、ナニ偉そうに書いてんの?──とフト自分の文章にイラッとくることも常なのです。それはそれは「死ねよ」レベルくらいに😅


「聖書なんか読まねえよ!」という人ももちろんいます。でもそんな人たちにこそ、理解し、感じてもらうことこそ聖書の聖書たる所以でもあるわけで。

 例えばその昔、学がなくとも字が読めずとも、どうにかして聖書の本質、内面を伝えたいと試行錯誤したのが「教会」であり、今で言えばアーティスト、監督、または作り手側がヒットや儲けとは別に「どんな人でも感動できるものを作りたい」というモチベーションへ繋がるものだと思います。

 だからそのまま受け取ればいいんです。
 興味がわけば、あとは自ら能動的に学べばよい。字を覚え、学を付け、原作や文献を読み、深掘りすればいいだけなのです。

 そうは言っても、その元となった文献を完全無視することはできないのも確か。知らないより知ってるに越したことはないくらいじゃないかと。ファーストアタックはその程度で十分だと思います。

 知っておけばいいのは、特に旧約聖書の「ヨナとクジラの物語(本当に短いのでクリックして読んで頂くのもいいと思います)、その最後の一文──

 わたしが間違った選択をするとき,くい改めて,もう一度やり直すことができます。神様はヨナを愛しておられます!
神様はわたしのことも愛しておられます!

ヨナとクジラ

 ここが映画全体を表す要素がやはり大きいというかしっくりきますね。

ヨナとクジラ

 ブレンダン・フレイザー演じるチャーリー、そして若い牧師、娘──登場人物全員の過去、そしてラストの到達点に共通する一文だと思います。

「罪に大きさはない」といえばあまりに極論ですが、それが殺人であろうと育児放棄であろうと、その罪で「いかに苦しんでいるか」こそが大事であり、本質というところでしょうか。

 この映画ってたぶん、自分が「誰かに酷いことをしたな」と悔いてる人であればあるほど「本当の意味で泣ける」というか、救われる作品のような気がします。

 ジョン・レノンは名曲『GOD』で「神とは概念であり痛みを測るためのメジャーにすぎない」と歌ってますが、この映画にもぴたりとハマります。

「神を信じない」ということこそ「本当に神を信じる道」へ通ずるための大事な通過儀礼、そういうこともあり得る──みたいな感じかもしれません。

 簡単に言えば「回り道もまた無駄ではなく本道」とか「間違いは“後悔するもの”ではなく“受け入れる”ことこそ肝心」とか──そんなことになるんでしょうか🙄


 本作で若い宣教師トーマスを演じたタイ・シンプキンスは『アイアンマン3(2013)』でトニーを助ける少年ハーレイ・キーナー役を演じてますね。
アベンジャーズ/エンドゲーム(2019)』のラストにもチラと登場しております。

 てっきりこの辺がデビュー作と思いきや、なんとその10年前、スピルバーグの『宇宙戦争(2003)』で3歳の少年役を演じたのが彼のデビュー作でした😅

映画『アイアンマン3』のワンシーン、タイ・シンプキンス
BIBI
映画『ザ・ホエール』のワンシーン、タイ・シンプキンス
映画.com

 看護師のリズを演じたホン・チャウは『ザ・メニュー(2022)』ではレイフ・ファインズの助手の怖いおばちゃん役や最近ではウェス・アンダーソン監督の最新作『アステロイド・シティ(2023)』にも出演しております。

映画『ザ・メニュー』のワンシーン、ホン・チャウ
トーキョー女子映画部


 娘役を演じたセイディー・シンクは言うまでもなくドラマ『ストレンジャー・シングス』で一躍有名になった女優さんですね。


 最後に──この映画での演技や特殊メイクしたポスターや予告、それらばかり見てたので「あれ、ブレンダン・フレイザーってもともとどんな顔だっけ?w」と少し忘れかけてましたが娘役であるセイディー・シンク自身がインスタ上げてましたので拝借。

 うん、大丈夫、太ってないですねw

 ブレンダン・フレイザーはまもなく公開、マーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023)』にも出演してますね。

 では、また次回に!


『ザ・ホエール』〈DVD〉
2023:10/4発売予定

『ザ・ホエール』〈Blu-ray〉
2023:10/4発売予定

【本作からの枝分かれ映画、勝手に10選】



『キラー・オブ・ザ・フラワームーン』は2023年10月20日より公開予定


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