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事業立ち上げを成功させるコツは「ギリギリまで開発しない」こと

僕は「スタートアップを量産する会社」を運営しています。

この2年弱で20ほどの事業に取り組んできました。そのうち3つの事業は法人化し、軌道に乗っています。

事業を立ち上げまくるなかで、気づいたことがあります。

それは「ギリギリまでプロダクト開発をしないこと」が、事業を成功させるいちばんのポイントだということ。

「まあそうだよね」と思うかもしれません。だけどいざ当事者になると、思いつきのアイデアでいきなりプロダクトを作ってしまったりするんです。結局、ニーズを掴めていないので、リリースしても誰も使わない。僕もその失敗を経験してきました。

開発する前に、検証できることはたくさんあります。

「その課題は本当に存在するのか?」
「競合とどう差別化するのか?」
「お客さんはいくらなら買ってくれるのか?」
などなど…。

開発する前に「営業」をすることもできます。

「契約してくれるお客さんが、少なくともこれぐらいはいる」とわかってから、開発を始める。ここまでやってから立ち上げた事業は、その後、爆速で売上が伸びていくんです。

僕らが半年ほど前に立ち上げた町工場向けSaaSは、導入の内諾を100件もらった状態で法人化。その後もかなりスムーズに成長することができています。

では、まだ開発していない状態で、どうやって事業アイデアを磨き、営業までやってしまうのか。

今回はそれを「新規事業の開発前までにやるべきこと」として、7つのステップでまとめてみました!

ステップ1:「お金が出やすい課題」を見つける

まずは、事業のもとになる課題を見つけます。

課題を見つけるには、人に会うことが効果的です。特に業界・職種のエキスパートに会えると、課題が見つかりやすい。「ビザスク」というツールを使ったり、知り合いに紹介してもらったりします。

この段階ではひとつの業界に決め打ちせず、幅広くヒアリングします。相手は基本的に、現場に近い立場の人がいい。そのほうが業界のリアルな課題を聞けます。

・業界の構造
・業界の特徴
・いま感じている課題

こういった内容を聞きながら、自分たちがプロダクトを通して解決すべき課題を探っていきます。

「お金が出やすい課題」は何か?

課題を探るにあたって「お金が出やすい課題」であることは大切です。

たとえば「お金を持っている人」の課題を解決すると、当然ですがお金を出してもらいやすいですよね。業界の構造や特徴をヒアリングするなかで「この業界では、誰がいちばん大きな利益を出しているのか?」を見極めます。

いちばん儲かっている人が分かったら「その人はどんなことに困っているのか?」「どうすればもっと稼がせることができるのか?」という視点で、ヒアリングを進めていきます。

なかでもお金が出やすいのは「売上に直結する課題」です。

理想は「これを解決すれば売上が2倍になります」というような課題。これは費用対効果が明確なので、興味を持ってもらいやすいです。

とはいえ常に「売上に直結する課題」が見つかるわけではありません。そういうときは「最終的に売上につながる課題」を探します。

たとえば「カスタマーサポートの質が低い」という課題は、解決してもすぐに売上は上がらないかもしれません。だけどそれで解約率が下がったり、いい口コミが広がったりすれば、最終的に売上につながります。そういう、1〜2ステップ先で売上につながる課題を探すんです。

どんな会社も「売上」につながる課題には大きな予算を割くはずなので、そこを狙いにいきます。

あとは「採用」もお金が出やすいです。特にスタートアップ。

採用のプロダクトは競合も多いです。だけどそれは、お金が出やすいことの裏返し。つまり事業チャンスがあるんです。

逆に「業務効率が2倍になります」みたいな課題は、費用対効果が分かりにくいのでお金が出にくいことが多いですね。

こういった観点から、どんどん課題を探っていきます。

ステップ2:具体的な「一人のお客さん」を思い浮かべて、勝ち筋を探る

よさそうな課題がいくつか見つかったら、さらに絞り込んでいきます。

絞り込むときの観点は2つ。「事業として成り立ちそうか?」と「勝ち筋はあるか?」です。

事業として成り立つかどうかは「マーケットサイズ」と「お客さん候補の数」を見て考えます。事業が大きくなるポテンシャルがあるか? を確認するわけです。

理想は「3年で時価総額1000億円を目指せること」です。ただ、実際そんな大きなマーケットはなかなかありません。なのであくまでも目安です。

売上のシュミレーションをして確認します。売上は「単価×顧客数×リピート率」の式で計算できます。それらの数字をスプレッドシートに入れて、ざっくりでいいので計算する。

イメージはこんな感じ

何にコストが一番かかりそうかも考えます。在庫代なのか、人件費なのか、設備投資なのか。売上とコストを照らし合わせて「ちゃんと事業として成り立ちそうか」をシュミレーションします。

売上の3要素のうち「顧客数」は、マーケットを選んだ時点でほぼ決まります。もしそのマーケットに100社しかいないのであれば、単価は最低でも月100万円ぐらいいただかないと、事業として成り立たなくなる可能性が高いです。

そのときは「月100万円いただけるほど、重要な課題か?」を考えます。

答えがNOなら、また課題を探すところからやり直しです。このシュミレーションを疎かにすると、あとあと「契約してくれるお客さんが見つかったけど、そもそも事業として継続するのが難しそう」と気づいて撤退することになってしまいます。

「勝ち筋」はあるか?

事業として成り立ちそうであれば、次は「勝ち筋」を見極めます。

具体的には「競合との差別化をどう図っていくのか?」「どういう順番でマーケットを攻めていくべきか?」を考える。

これらを考えるには「具体的な一人のお客さん」を思い浮かべることが大切です。

その相手は、何をすれば喜んでくれるのか。業界のなかで、どういう立ち位置にいるのか。そういったことを具体的に把握して、攻め方を考えます。

たとえば僕らが開発した、建材商品をデジタル上で管理できる『建材サーチ』というプロダクト。これが事業として成り立つかを検討するときは「建材業界のマーケットのサイズ」がざっくりわかればOKです。

でも、勝ち筋を見極めるときは「建材業界のエクステリア部門にいる、メーカーの営業担当の人」ぐらいまで、細かくお客さんを思い浮かべます。

そうすると「建材業界では、メーカーよりも代理店のほうが立場が強い。メーカーは代理店に『商品を売ってください』とお願いしている立場だから。それなら、まずは代理店との信頼関係を築いて、メーカーとの商談を後押ししてもらうとよさそうだな」という勝ち筋が見えました。

ここまで「1人のお客さん」の解像度を上げるには、とにかく徹底的に人に会いまくることです。

ここは地道にやるしかありません。『建材サーチ』では、建材業界の主要な代理店約20社をすべて回りました。最後のほうは、業界内で「なんかいろんな会社にヒアリングしまくっている、イキのいい若いやつがいるぞ」みたいな評判が出回るようになっていたほどです。

ステップ2では、こういった泥臭いことをやりながら「事業が成り立つか」「勝ち筋はあるか」を見極めて課題を絞り込んでいきます。

ステップ3:変化を「ストーリー」で語れるようにする

課題がはっきりして、あるていど事業アイデアが見えてきたら、それをパワポ5枚ほどにまとめていきます。

パワポを作るときのポイントは、必ず「ビフォーアフター」を載せること。

導入のビフォーアフターを、お客さん視点で「ストーリー」として語ることが、このステップの肝です。

まずは「こんな課題がありますよね」というビフォーを話します。次に「その課題はこうやって解決すると、こんなふうにハッピーになりますよ」というアフターを伝える。

たとえば僕らは、町工場の人が図面をデジタルで管理できる『ズメーン』というプロダクトを開発しました。そのときの提案資料はこんな感じです。

ビフォーアフターを1ページにまとめている

お客さんの変化を「ストーリー」としてスラスラと語れるようになれば、自然とパワポはまとまるし、営業もスムーズにいくはずです。

アイデアを「少しずつ」磨いていく

ここまで「開発」は全くしていません。

あるのは、パワポ数枚の構想だけ。ヒアリングしてお客さんの反応をみながら、具体的な中身を詰めていきます。ある程度固まってきたら、モックのようなサンプルを作る。少しずつ具体性を上げていきます。

最初からいきなり具体的なプロダクトを作り込むのではなく、ヒアリングを通して徐々に固めていくんです。

開発のためのヒアリングは、引き続き「現場に近い人」にします。

いっぽうで「決裁権を持つ人」にも、たまに話を聞いておくのは大事です。現場の人は「使いやすさ」の観点でフィードバックをくれます。一方で、決裁権を持つ部長や役員は「投資対効果があるか?」の観点で見ています。

それぞれ観点が違うので、導入してもらうためには両方からフィードバックをもらっておくことが必要です。

こうやって、だんだんとアイデアを具体化していきます。

ステップ4:「見せかけの課題」を見抜く

パワポ資料ができたら、それを持ってまたお客さんのところに行きます。

お客さんの反応を見ながら、解決策をブラッシュアップしていく。

「業界全体の課題だと思っていたけど、実は一人だけが感じているニッチな課題だった」みたいなことも全然あります。「あれ、共感してくれる人がいないぞ」と気づいたら、そのアイデアはボツにしてステップ1からやり直します。

「課題だと思っていたけど、実は大きな課題じゃなかった」というものを、僕らは「見せかけの課題」と呼んでいます。見せかけの課題をもとに解決策を考えても、結局あまり売れません。「本当に重要な課題なのか」はしっかり検証します。

「見せかけの課題」を見抜くにはコツがあります。

それは、お客さんが「言ったこと」ではなく「行動」に注目すること。

僕らが「どういうことに困っていますか?」と聞くと、お客さんは何かしら「こんなことに困ってる」と言ってくれます。でもそれだけだと、実際にどれぐらい困っているのかはわかりません。

だから「その課題を解決するために、何らかのプロダクトをすでに導入しているか?」「専任の担当者がいるか?」など、実際の「行動」をヒアリングする。

すでに何らかの行動を起こしている場合は、それだけ課題の解決に本気だということ。つまり「本物の課題」である可能性が高いのです。

「非合理な解決策をとっている」ならチャンス

このステップでは「課題に対して、非合理な解決策をとっている」お客さんを見つけるのがベストです。

『ズメーン』の場合、課題としては「図面を管理できていない」ことです。

それに対する解決策として、管理システムを入れたけど使いこなせていなかったり、1つのフォルダにいろんな図面データを詰め込みすぎて、探せなくなったりしていた。

これはまさに「課題に対して、非合理な解決策をとっている」状態です。

不便なまま自力でどうにかしようとしていたり、課題に合わないプロダクトを使っていたりする。そういう時は、僕らのプロダクトを導入してもらうチャンスなのです。

ステップ5:「勝てる戦い」をデザインする

「課題はあるし、解決策の方向性も合ってそうだな」と判断したら、次は競合優位性の設計です。

競合リサーチは、まずウェブで調べられるものは調べます。

お客さんに「僕らと似たサービスで、最近気になっているやつありますか?」と聞くこともあります。すると「こういうサービスがあったよ」と教えてくれるので、競合を調べること自体は難しくありません。

「競合が強すぎるな」と思ったら、この時点でボツにすることもあります。すでにかなりのシェアを取られていたり、安い値段で導入されていたりすると、後発でひっくり返すのが難しいので撤退します。

ダメなのは「せっかくここまで考えたから、やめるのはもったいないな」と思って、無理に突き進んでしまうこと。「勝てる戦いをする」というのは、やっぱり重要です。

ただ「全く同じ機能やターゲットで、真っ向から競合する」みたいなことは、意外と少ないです。

もし部分的に競合することがあっても「どのポイントで競合に勝つか」を決めてブラッシュアップしていきます。プロダクトの設計と、その価値の伝えかたを磨き込んでいくイメージです。

ステップ6:プライシングは決意表明

次は「プライシング」です。これは非常に難しい。正直言って、プライシングに正解はありません。

だから僕はこう思うんです。

プライシングとは「これぐらいの価値を提供するぞ!」という決意表明である。

その決意に少しでも自信を持つために「これぐらいの価値は出せるはず」という根拠をつくっておく。「価値の定量化」をする必要があるわけです。

「これを導入すれば、売上はこれぐらい上がります」「利益がこれぐらい増えます」と具体的な数字で言えるようにする。意思決定する人が瞬時にメリットを理解できるように、「売上」や「利益」で価値を語れるようにしましょう。

「人件費を20%カットします」みたいな言い方だと「それで結局、うちの売上は上がるの?」となって、メリットを瞬時に理解しにくいのでオススメしません。

価値を定量化するときは、ステップ2で触れた「単価×顧客数×リピート率」という方程式をベースにします。

3つの変数のうち、どの変数が、何%上がるのか。そこから「売上がこれぐらい上がります」と言えるようにします。

定量化した価値は、お客さんに伝えなくてもいい

価値の定量化をするときに、気をつけるべきポイントがあります。

それは「絶対にそれぐらい効果が出る」と保証しているわけではないということ。「そうなる可能性が高いよね」という期待値に過ぎません。

だから、定量化した価値をどこまでお客さんに伝えるかは、丁寧に線引きしましょう。

そのまま全部伝えると「そんなに効果が出るのか!」と過剰な期待につながったり、逆に「それって一番うまくいったパターンですよね。実際はやってみないと分からないですよね」と信頼が下がってしまったりすることがあります。

「社内で価値を定量化しておくこと」と「お客さんへの伝え方」は別の問題です。

まずは社内で「これぐらいの価値があるんだから、これぐらいのお金をいただいていいんだよね」と自信を持ったり、自分たちに「ちゃんとこれぐらいの価値を出さなきゃ」というプレッシャーをかけたりするために、価値の定量化をしておきましょう。

すぐに「値下げ」してはいけない

価値の定量化ができたら、プロダクトの価格を決めます。

サービスの価格は、目安として「期待できる効果の3分の1」ぐらいがちょうどいいでしょう。

たとえばプロダクトを導入することで「月300万円の売上アップ」が見込めるとします。その場合は、まず「月額100万円」にしてお客さんの反応を見ましょう。

お客さんに聞いて「高いかな」という反応になっても、すぐに値段を下げてはいけません。

先ほどお伝えしたように、値段は「これぐらいの価値を提供するぞ!」という決意表明です。決意を簡単に曲げてはいけません。

「高くて売れない」というのは、表面的な問題であることが多いです。「売れない理由は、本当に値段なのか?」を考える必要がある。

そもそもお客さんが、課題を強く認識していないのかもしれません。課題に感じてはいるけど、解決策がズレていることもあります。あとは、社内で別の似たようなプロジェクトが走っているとか、上司に稟議を通すのが難しいとか……いろんな要因が考えられます。

だから「値段が高くて……」という言葉をすぐに鵜呑みにしてはいけません。

「本当は何がボトルネックになっているのか?」を分析する。そのうえで「今ここで値段を下げたら、スッと稟議が通る。そのほうが中長期で見たらプラスになるな」と判断すれば、安くすることもあります。

だけど「高い」と言われてすぐに値下げするのは、基本的によくないのです。

ステップ7:営業資料とモックだけで内諾をもらう

ここまで来たら、営業を始めます。

もちろん、このタイミングでもまだ開発していません。営業資料とモック(=デザインだけのサンプル)だけ持って営業します。

営業資料は、何十ページも作り込む必要はありません。7ページぐらいの簡易的なもので大丈夫です。構成は最初に「プロダクトのサマリー」を伝えて、そこから「お客さんの抱える課題」「それに対する解決策」「見込める効果」というシンプルなものにします。

営業では、お客さんにいちばん価値が伝わりやすいトークを磨いていきます。いちばん反応がいいベストなトークの仕方を、僕らは「ベストデモ」と呼んでいます。
社内で情報を共有して、ベストデモを作り上げていきます。

「こういうお客さんには、こういう話をすると興味を持ってもらいやすいよ」「こういう質問が来たら、こう返すといちばん分かりやすいよ」というデータをためていく。最終的にはマニュアルにまで落とし込みます。

先ほどご紹介した『ズメーン』の場合、モックを見せるとお客さんの反応がよくなることがわかりました。だから商談の早い段階でモックを見せて「こんな感じで管理して、こうすれば簡単に図面を検索できるんです」と話していました。

それでトライアル導入の内諾がもらえたら、ようやく本格的な開発を始めていくんです。

開発しなくても、アイデアは磨けるし営業もできる

僕らが新規事業を立ち上げるときの特徴は「ギリギリまで開発しないこと」です。

開発すると、少なくとも数百万円のコストと、数ヶ月の開発期間が必要になります。事業アイデアが出るたびに開発していたら、どれだけお金と時間があっても足りません。

開発しなくても、営業資料とモックだけでアイデアは磨けるし、営業もできます。
今回ご紹介した開発までの7ステップを図にまとめてみたので、よければこちらも参考にしてください。

これに沿ってPDCAを高速で回し、7ステップすべてをクリアして、確実にニーズをつかんだ事業だけを開発する。

そうすれば、新規事業がうまくいく確率はグッと高くなるはずです!


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