#カフェ狐火 。その文字列は、私のタイムラインにある日突然現れた。なにかのキャンペーンということでもなく、食中毒トラブルで炎上したわけでもない。人気のアニメとコ…
アナログ時計が持ち込み不可リストに入っているのは、秒針の音がうるさいから。入院前の説明の意味が今なら理解できる。こんな静かな場所で時を刻まれてしまったら、俺は…
枕埼すやりには三分以内にやらなければならないことがあった。そう、彼女は一刻も早く、可及的速やかに眠りに就かなければならなかった。 「あー、もう!遅刻する!間に…
「えー、遊んでー!面白くなーい!」 勇者は子どものように駄々をこねる。その様は勇者とは思えない。どう見ても酒場でくだをまく若者だ。 「1人でも行ける依頼取ってき…
あるところに、1人の女神がいた。女神は優しく、慈愛に満ちていたが、1つ欠点があった。整理がひどく苦手であったのだ。整理。そう、整理だ。彼女が作った世界は、彼女…
幼い頃、父は毎晩、私が眠れるまで本を読んでくれた。 「このお話で人は死にません。だから、安心して寝てください」 父のおはなしは、毎晩この前置きから始まる。 「…
「海の魔女に、子どもができたんだ」 王の言葉に、議場は一瞬静まり返った。ややあって、悲鳴が生まれる。ざわめきは議場の外まで広がった。兵士が騒ぎ、メイドが卒倒し…
冬の寒いキッチンで、私は素足で立っている。暖房はつけない。光熱費はいつもカツカツだ。そもそもキッチンなんて言い方をしてみたものの、結局は一人暮らしの粗末な台所…
ザリッ ざらついたノイズが脳の表面を撫でた。こちらを向くルエリアの顔にかかった表情の補正スキンも一瞬揺らぐ。 「大丈夫です?」 ルエリアの声はAIで同時通訳さ…
「ありがとう、そう言うだけで良い」 佐伯明日香は低い声で、父、昨真に言った。昨真の体は逃亡しないように上から下まで帯でグルグル巻きにされていた。身動きが取れな…
「冬の色のおくすり。あげる」 ときは12月10日。幸せそうな家族連れや恋人たちで賑わう日曜日のショッピングモール。日雇いバイトアプリの紹介に導かれるままサンタクロ…
逆噴射小説大賞が800字。 小牧幸助文学賞が20字。 普段のOnePhraseToStoryが2000字。 『#逆噴射小説大賞』の期間中、参加者さんたちのディスコードでは「圧縮」という単語…
僕は抗議する彼の耳もとで囁く。 「20だ」 ~FIN~ それ以上でも、以下でもなく。(20字) 【小牧幸助文学賞参加作品】 ~◆~ ここまでお読みいただいてありがとうござ…
「逃げる夢」 目の前に座った男の人は、外したサングラスを拭きながら、少し恥ずかしそうに言った。 「逃げる夢をですね、追いかけるのが仕事なんです」 ヤバい人だ。…
今年も10月が終わってしまいました。気が付けばあっという間に過ぎ去るのは毎年のこととは言え、昨年のことがつい昨日のようです。ということでライナーノーツ行きます。 …
#カフェ狐火。その文字列は、私のタイムラインにある日突然現れた。なにかのキャンペーンということでもなく、食中毒トラブルで炎上したわけでもない。人気のアニメとコラボしたわけでもないし、女子大生にウケるような映えメニューがあるというわけでもない。どこのカフェにでもあるようなメニューの写真がアップされている。それだけだ。きっと、ハッシュタグをつけて写真をアップしてくれたら割引みたいな、ありがちなキャンペーン、いや企業努力の賜物だろう。そのときの私は、特に興味も引かれずに画面をスワ
アナログ時計が持ち込み不可リストに入っているのは、秒針の音がうるさいから。入院前の説明の意味が今なら理解できる。こんな静かな場所で時を刻まれてしまったら、俺はきっと狂ってしまう。ただでさえ、目の前で滴る雫の間隔から逃げられないのに。 「なぁなぁ、もし異世界転生したら、どんなスキル貰えると思う?」 隣のベッドからカーテン越しに声が聞こえる。抑えていても、この静寂の前では筒抜けだ。何より相手は小学生。誰も咎めることはしない。もとより、ここの住人は生きた音に餓えているのだから
枕埼すやりには三分以内にやらなければならないことがあった。そう、彼女は一刻も早く、可及的速やかに眠りに就かなければならなかった。 「あー、もう!遅刻する!間に合わない!」 お気に入りのパジャマに身を包んだすやりは、ベッドから跳び起きずに目を見開いて叫びを上げる。部屋全体を震わせてアラートが鳴る。アラームではない。警報音に近いそれは現時刻が待ち合わせ三分前であることを全力で告げてくる。早く眠りに就かなければならない。 人類は宇宙や深海よりも先に、脳、特に夢の世界を切り
「えー、遊んでー!面白くなーい!」 勇者は子どものように駄々をこねる。その様は勇者とは思えない。どう見ても酒場でくだをまく若者だ。 「1人でも行ける依頼取ってきてやってるだろ。ほら、行ってきなさいよ」 魔導士が机の上の羊皮紙から目を離さずに声のした方へ手にした杖を振ると、石造りの床から手が生えてきて、抱き着いてこようとする勇者の行く手を阻む。拘束魔法だ。硬い材質の形だけを変性させるのは高等魔術だ。しかもこの部屋の床は特別に硬い。宮廷芸術家顔負けの造形力で形作られた美しい手
あるところに、1人の女神がいた。女神は優しく、慈愛に満ちていたが、1つ欠点があった。整理がひどく苦手であったのだ。整理。そう、整理だ。彼女が作った世界は、彼女から流れ出る清らかな魔力に包まれ、生命はそれを受けて様々に進化を遂げていった。やがて知能を持った種族たちが文明を築き、争い出した。しかし、女神が手を下すことは無かった。整理が苦手だったから。優柔不断な彼女は、異なる種族から届く祈りの声で板挟みになった。世界の様子を随時知らせてくる石板の通知を切り、どこかへポイと放り投げ
幼い頃、父は毎晩、私が眠れるまで本を読んでくれた。 「このお話で人は死にません。だから、安心して寝てください」 父のおはなしは、毎晩この前置きから始まる。 「あっと驚くようなこともありません。だから、安心して寝てください」 布団のうえから私のことをトントンと優しく撫でる。 「誰かが悲しくなるようなことは起きません。争いも起きません」 父の声は大きくなく、しかし、耳にするりと入り込んでくる。 「だから、安心して寝てください」 私はいつの間にか目を閉じている。おはなしに
「海の魔女に、子どもができたんだ」 王の言葉に、議場は一瞬静まり返った。ややあって、悲鳴が生まれる。ざわめきは議場の外まで広がった。兵士が騒ぎ、メイドが卒倒し、動揺は王城の外に伝染した。城下の町はあっという間に大騒ぎとなった。 海の魔女は魔物ではない。ただ、生まれつき海の精霊に愛されて生まれただけの女性だ。いわゆる海の巫女と呼ばれる存在として、航海や漁の安全を祈願し、荒れる波を鎮める、そういう存在として育つはずだった。しかし、残念ながらそうはならなかった。端的に言えば力
冬の寒いキッチンで、私は素足で立っている。暖房はつけない。光熱費はいつもカツカツだ。そもそもキッチンなんて言い方をしてみたものの、結局は一人暮らしの粗末な台所。古いアパートだから、暖房をつけたところで焼石に水ならぬ氷山にお湯。ならば潔くノー暖房だ。外気温と大して変わらない室温。吐く息が白い。煙のようにふわりと浮かんで消えていく。楽しい。 「なーにがありましたっけねー」 独り言だ。寂しくて悪うござんした。姿無き親族に毒づいて冷蔵庫の扉を開ける。正面に鎮座するグラスを手に取り
ザリッ ざらついたノイズが脳の表面を撫でた。こちらを向くルエリアの顔にかかった表情の補正スキンも一瞬揺らぐ。 「大丈夫です?」 ルエリアの声はAIで同時通訳されて、電子的に再現された彼女自身の声色の日本語で再生される。補正スキンによって唇の形まで補正されているから、違和感はまるで無い。 「うん、ちょっとノイズで耳が、ね」 私は耳の後ろ側についた骨電動デバイスを撫でてみせながら、片目を瞑ってみせた。私の言葉は同じように同時通訳されて彼女に届いている。その証拠に少し驚いた
「ありがとう、そう言うだけで良い」 佐伯明日香は低い声で、父、昨真に言った。昨真の体は逃亡しないように上から下まで帯でグルグル巻きにされていた。身動きが取れない彼は、しかし、意地の悪い笑顔を浮かべていた。おちょくられている、遊ばれている。もとより、そういう人間だ。明日香は己の中にその血が混じっていることを呪いながら、湧き上がる殺意を押し込める。本日だけでもう何度目か。数えることすら馬鹿らしいと思えた。 「よし、復習しようじゃないか。あと6時間ほどで、私の婚約者が訪れる」
なんだか文が読めない、読めないと思っていたら、『縦書き期』になっていたようです。眼球系の一過性体質変化かな…。 分かってしまえばそれまでのことなので、これでパルプアドベントカレンダー読めるな…!読むぞ…!
「冬の色のおくすり。あげる」 ときは12月10日。幸せそうな家族連れや恋人たちで賑わう日曜日のショッピングモール。日雇いバイトアプリの紹介に導かれるままサンタクロース衣装に身を包みケーキ屋のチラシを配っていた僕の足元、と言うか右足に、その子は抱き着いていた。抱き着いてきたんじゃない。抱き着いて”いた”。こちらが驚くと同時に子どもが顔を上げる。目が合った。大きな目だ。 「サンタさん?」 「あー…、そうじゃよ、サンタさんじゃよ」 僕は営業スマイルを浮かべながら精一杯のおじい
逆噴射小説大賞が800字。 小牧幸助文学賞が20字。 普段のOnePhraseToStoryが2000字。 『#逆噴射小説大賞』の期間中、参加者さんたちのディスコードでは「圧縮」という単語がよく出ていた。調節ではなく、圧縮。私はまだ「圧縮」をしたことが無い。少なくとも、自覚上は。ふだん、2000字の縛りで書いているとき、もちろん、多少の「調節・削り」はある。言葉を少しだけ変えたりもする。だが、その程度だ。圧縮という感覚は無かった。 つい先日、『#小牧幸助文学賞』に参加した
僕は抗議する彼の耳もとで囁く。 「20だ」 ~FIN~ それ以上でも、以下でもなく。(20字) 【小牧幸助文学賞参加作品】 ~◆~ ここまでお読みいただいてありがとうございました! 普段はOne Phrase To Storyといって、 誰かが思い付いたワンフレーズを種として ストーリーを創りあげる、という企画で色々書いています。 主に花梛がワンフレーズを作り、Pawnがストーリーにしています。 他の作品はこちらにまとめてあります。
「逃げる夢」 目の前に座った男の人は、外したサングラスを拭きながら、少し恥ずかしそうに言った。 「逃げる夢をですね、追いかけるのが仕事なんです」 ヤバい人だ。いや、店内ガラガラなのに突然相席いいですかなんてことを白昼に堂々とかましてくれる人なんて大概ヤバい人だと思うんだけど、ちょっとヤバいのレベルの違うヤバい人だった。 「夢は良いですよね。僕は、必死に逃げ惑う夢を追いかけるのが得意なんですよ。夢追い人ってやつですね」 ギャグなのかガチなのか分からないけれど、表情は柔ら
今年も10月が終わってしまいました。気が付けばあっという間に過ぎ去るのは毎年のこととは言え、昨年のことがつい昨日のようです。ということでライナーノーツ行きます。 誰も賽を裏切れない自作品にお似合いの画像を生成AIに描いてもらう、というのがパルプ界隈の流行りのようなのですが、今回の私はその逆で、noteの無料画像を漠然と漁って、バチンとハマるやつが見つかったので書く…ということをやりました。さいころのカッコいい画像を見たときに、今お仕事で触っている「確率統計」の初歩の話と、昔