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ガバガバ英会話と勢いだけで海外の人を案内した話

こんにちは。隣の芝生です。

2024年に入るやいなや衝撃的なニュースばかりが飛び込んで来て、正直私も驚いております。被災された方々はくれぐれも身の安全と、心身の健康を第一にお過ごしください。

さて、お疲れの方も多いでしょうから、今回はほのぼのニュースです。
「ガバガバ英会話と勢いだけで海外の方を案内した話」。必ずしも英文法や話法が適切かは保証されない記事ですが、お笑いだと思ってお読みください。

1回の記事で完結させるために、記事が長めになっております。見出しを付けてあるので、ブクマなりしてチマチマ読んでみてください。


それではどうぞ。



 都心某所でお目当ての新春初売りを一通りチェックした私は、帰路に就くために、最寄りの駅の切符売り場に向かっていた。ICカードが十分に普及しきった今どき、券売機で切符を買う人なんて少ないわけで、ほぼ並ばずに切符を買えるのが常であった。

 しかし、この日は様子が違った。年末年始の休暇中で人が多いせいか、既に券売機は埋まっており、待機列では黒人の中年男性が、日本人女性を相手に何かを話し掛けているのが見えた。女性も必死に応対しているものの、何やら困っている様子だった。

 ははん。さては目的地までの切符を買いたい人が英語で話し掛けてるんだな。と、薄々感じ取った私は、何を思ったかその男性に話し掛けることにした。英会話こそやったことは無く、帰国子女ですらないので日本語読みなのは間違いないのだが、英文法や単語力(起立性調節障害 体験記など参照)にはそれなりの自信があるからという、変な驕り故の行動であった。

 
 女性に「代わりましょうか」とサッと格好良く切り込み、まずはここから始めよう。

「Where do you want to go?」

これチャレンジでやったやつ!黒人のおじさんはこう返す。

「I want to go to ◯▲×※$…」



■なるほど!わからんぞ!

 TOEICでリスニング420点以上は持ってるので、多少は聞き取れるだろと思っていた私の認識が甘かった。目的地がまずわからない。これから電車に乗ろうとするならば、何かしらの駅名を言うはずなのだが、鉄オタ経験者の私をもってしても、駅名が聞き取れない。

 すると彼は、おもむろに紙を取り出した。全て英語で書かれているので、最初は面を食らったが、冷静に読み込んでみると、Yahoo乗り換え案内と何も変わらない、手書きの経路表だった。

 「Narita Airport」が書き出しにあり、現在の居場所が3番目か4番目くらいに記載されていた。どうやら入国して数時間も経っていないようだ。これから行く場所は…と目で追うと、とんでもない字面を目にする。


Oyama → Ryomo Line→…→…

このおっちゃん栃木の方まで行くつもりだぞ!? しかも普通電車で。おまけに先程聞き取れなかった駅名は、日本語で聞いても私も知らなかった。佐野とか新前橋で済めば良いのだが、そう上手くは行かない。

 すぐさまスマホで経路検索を掛ける。運賃はゆうに2000円オーバー。緑の一般的な券売機に目をやると、1500円くらいまでしか発券できない。これでは躓くのも頷ける。


■海外の方が切符を発券するのは大変!?

 この段階で既に、切符を発券するために近くにいた日本人の援助を得るにしても、様々な障壁があることにお気付き頂けるだろうか。

 まず英語が伝わるかどうかという問題が最初にあり、伝わったとて都心の人間が、栃木の交通事情まで完璧に把握しているかという壁がある。現に私は、Oyamaという文字でおじさんの栃木県突入を察したが、もし目的地だけ書かれていたら、何線なのかすら分からなかった。さらにはJR東日本の発券システム的に、1500円を超える高額切符は、指定席券売機か、みどりの窓口に並ばなければいけないというトラップまで用意されている。

 幸いにも、このそそっかしいおじさんに果敢に喋ろうとチャレンジしているこの青年は、鉄オタ経験者ということもあり、迷わず指定席券売機を叩く。改札の前でこれから乗ろうとしてる時点で、有効期限当日の切符を発行するべきだが、念のため「Today?」と確認しておいた。頷くおじさま。


 小山までは新幹線が平行して走ってるので、こちらも念の為「Between Tokyo or Ueno and Oyama, You can use Shinkansen. Are you going to use it?」と咄嗟に思いついたガバガバ英語で確認を取った。

 こちらは「No! Utsunomiya-Line!」と断固拒否。何としてでも下道で行くつもりだ… このおっちゃん。異国の地で2時間下道というハードモードを選択する勇者。こちらもその意向通りに入力した。気付けば、画面には目的地までの運賃が算用数字で表示されていた。

 しかし何を思ったかこのおっちゃん、お金を握ったままボーっとしている。どう考えてもこのタイミングでしか紙幣を突っ込む時は無いはずなのだが、何もしようとしない。

 ここで私が「Two-thousands and XXXhundreds 〇〇yen!!」と促す。冷静に考えると雑な乞食にしか聞こえない促し方だが、僕にはこれ以上の正確性を担保できる英語が咄嗟に出てこなかった。ここでおじさまが気付いて、お金を入れてくれた。

 おじさまの身なりや、所持品を見る限り、何らかの出張の仕事か学会がこれから控えている物と思われ、後から経費の請求などが来る場合にも備えて、領収書も併せて発券した。


 ようやく無事に切符を手にし、「オー センキュー」とニコニコするおじさま。その場を立ち去ったのを確認してから、ようやく自分の切符を買う。ようやく一息付ける。気付けば冬なのに背中には滝のような汗をかいていた。


 あのおじさん困ってないといいな~なんて考えながら、改札口を抜けようとした時、視界の端に有人改札の行列が見えた。


あろうことか、さきほどの黒人のおっちゃんが並んでいるではないか。


■Which is the ticket!?

 私と彼の視線は、一瞬で結ばれた。どうやら彼は私に助けを求めている。切符も無事に手にして、使う路線もメモ書きの段階で定まっているというのに、まだ何を迷うことがあろうか。

 冷静に英語を聞いてみると、「Which is the ticket!?」というフレーズを聞き取ることができた。どうやら私が善意で出張費請求などに備えて発行した領収書と、切符の区別がつかなくなってしまったようだ。おまけにこのおっちゃんは、デカい水色の切符で自動改札機を通れるとは夢にも思ってないようだ。

 いや、仮に日本に親しみが無かったとしても、ちゃんと見れば、切符の方は「地名らしき漢字⇔地名らしき漢字」と「料金の算用数字」が記載されており、いかにも"切符の雰囲気"がムンムンに出ている。逆に、領収書の方は文字が多く、いかにも"領収書然"としているというのに、それでも区別が付かないようだ。念の為両方持っておくという発想は無いんだろうか…。そもそもReceiptって書いてあるやん…


 「This is your ticket!」と指を差しながら、栃木の知らない駅名の入った切符を指差して解決かと思われたが、それでもおっちゃんのモヤモヤは晴れない。自動改札機を通れることを知らないのだ。これは知らなくても仕方がないことだが、自分もなんて説明したらいいかわからない。実用的な英語力はこの程度であると嫌でも思い知らされる。


 まだ、ここであることに気付いた。このおじさんはさっきから、言葉に詰まると、自分では聞き取りできない別の言語を独り言で喋っている。どうやらこの方も日常的に英語を話してないようだ。ならば、お互いに平易な表現で事足りるし、何ならそうでないと通じない。

 私はなんとかこのそそっかしいおっちゃんに、栃木に無事着いて欲しいという一心で、チケットを指差した後に、切符投入口を指差して必死に説明をした。なんとか理解して頂けたようだ。




それでもおじさんは動かない。


 理由を聞いてみると、小山まで連れて行ってくれる宇都宮線の発着場所がわからないようだ。確かに、この改札口の目視できる範囲には、別路線に向かう階段しか用意されておらず、上野東京ライン(宇都宮線)系統へのホームは、入り組んだ道を進まなければならない。日本人でも初見では難易度が高いのは言うまでもない。


「Please turn left at the xx corner…」などと格好良く説明しようかと思ったが、LとRの発音が怪しい上に、発着番線がコロコロ変わるので、自分も正しく説明できる自信がない。増しては、このおじさんは「2310」という算用数字が券売機に出てるにも拘らずお金を入れず、TicketとReceiptすら見落とし、自動改札に試しに切符を突っ込むこともしなかったことを鑑みると、非常に不安が残る。


さぁどうする、私。


■伝家の宝刀 Let's go!

 ここで悩んでいても、異国の地に来て何もわからないおじさんを足止めさせることになる。ここで私はある名案を思いついた。


 私の記憶が確かならば、キスマイの深夜番組で「外国人に突然道案内を頼まれた時の対処方法」として、正確な英語を咄嗟に出せなかったメンバーが、「Let's go!」で直接案内して全てを解決していたのを思い出したのだ。これで行くしかない。


「OK , Let's go! Please come with me!」


 合ってるかわからない英語でそう声を掛けると、ニコッと微笑んだおじさんは、あろうことかなぜか私から離れた。しかし、その理由はすぐに明らかになる。

 このおじさん、とんでもない量の荷物を持っていたのだ。テッキリ手元にあるスーツケース一つくらいかと思っていたら、券売機付近の柱の影に、スーツケースを追加で2つに、手提げ袋と、プレゼン用と思われる資料の筒と… とにかく恐ろしい数の荷物が置いてあったのだ。よくこんな量の荷物を、成田空港から自力で運搬してきたなと、さすがの私も驚いてしまった。

 「荷物多いですね」などと談笑でもする余裕があればよかったのだが、異国の地に来て混乱状態のおじさんにも、英語で話すだけで頭がいっぱいの私には到底そんな余裕はなかった。

 とりあえず「I'll carry them」と簡単な英語を言っていくつか引き受けたが、それでもおじさんは両手にスーツケース、脇に筒、口に切符という、外国人旅行客でもなかなかお目に掛かれないような曲芸状態で荷物を運んでいた。私いない時どうしてたのほんとに。



■「Departure!」

日本人でも難度が高い上野東京ライン。小金井や平塚はどこだ?から全ては始まる。


 ようやく宇都宮線に向かう電車の発着掲示板が見えた。先発は手前のホームから発車するものの始発ではなく、次発は凄い歩いたところにあるホームから出る当駅始発の電車だった。

 ここですかさず「You can take the train track No.X or track No.Y.  Y deperts from here.」と案内。当駅始発の電車を何と言えば良いかわからなかったので、電光掲示板の「Dept.」をそのまま借用した。depertが自動詞か他動詞かすら、その時は気にならなかった。

 ここでおじさまから、0コンマ何秒以内に「Deperture!」とレスポンスがあった。さきほど2310円の表示をボーっと眺めていたり、Receiptを完全に見落としていた人と同一人物とは思えないほど、ハッキリとした解答だった。まぁこの荷物の量を見ていれば、当然始発に全て積み込みたいと私も思う。


■なんとか発車ホームに到着…

 荷物運搬のアシストも入れて、なんとか発車ホームに到着。行き先は「For Koganei」で、なんとか小山までは1本で運んでくれる電車だった。これで数文字抜けて「For Koga」だと、小山より手前で終わってしまうので注意が必要だ。余計におじさんを不安にさせてしまう。下手すると無垢なおじさんを極寒の茨城に放り出すことになる。


 さきほどからのおじさんの混乱具合を見ると、「この電車は小山まで運んでくれる」と強く印象付けておいた方が良い。念の為、駅掲示の路線図まで連れていった。そしておじさんは、大宮から枝分かれする高崎線を指で辿っている。不安だ。そしてこう言った。

「Wh… Wh… Where am I?」


 やっぱり!さっきまでメモ帳見ながら切符買おうとしてたので、自分の居場所だけは分かっていると思っていたけど、どうやら作業している間に飛んでしまったようで。まぁ異国の地名を覚えるのが難しいことは言うまでもない。

「You are here. This train is for Koganei.」

「Koganei ha koko. Oyama ha koko. Temae dakara ikimasu.」

「This train takes you to Oyama.」


 完璧な英語?と指差しで懇切丁寧に説明をした。ここまで説明して「Direct?(一本で行ける?の意)」と疑問が帰ってきたので、まだまだ不安そうであったが、「とりあえずこれ乗っとけばどうにかなる」と伝えておいた。



■Nice assistance.

 ここまで来ればもう大丈夫。あとは心優しき栃木県民に全てを委ねよう。大宮の乗り換え案内で不安になって、高崎線に行かないことだけを願おう。

 「Okay, Thank you. Nice assistance.」とお褒めの言葉を預かり、「See you!」とサラリとお別れした。


 ここまで手取り足取りでも、英語では「ティーチ」ではなく、「アシスト」の部類に入るんだとちょっと思いつつも、いかにも人柄の良さそうなおじさまの満足した表情に、自分も少し救われた気持ちになったのであった。



(本編終了)




■あとがき

最後までお読み頂き、ありがとうございました。自分の善行を記事にする時点で、なんか偽善っぽくて良くないなと思う面はあるんですが、あまりにも珍しい体験だったので、今回は取り扱ってみました。


 自分の英語力の無さを痛感したと共に、なかなか良い経験をしたと思います。イッテQの出川イングリッシュは、傍目で見ている分にはなかなか滑稽ですが、いざ自分が突然やってみろと言われれば、なかなかあそこまで度胸を持って会話できないと実感しましたね。

 JRの緑の普通の券売機で1500円付近以上の切符が買えないのはトラップですね…。自分は鉄オタだったので、予備知識がありましたが、指定席券売機は凄いUIがゴチャゴチャしてて日本人でも分かりにくいので、海外の方に扱えというのは正直無理があると思います。直感的に操作できるように改善願いたい。


 また、今回はおじさんのそそっかしい面が大きく出る内容になってしまいましたが、異国の地でいきなり鉄道路線を複数乗り継ぎ、田舎までの高額切符を特定の券売機で買った後、発着番線や行く方面がバラバラの路線に乗り、2時間掛けて普通電車でローカル駅を目指すというのは、尋常じゃなく難易度が高いと思います。彼もまた喋り振りから英語が母語ではない可能性が高く、増しては日本語は一切知らない状態で、ここまで奮闘されているのは、頭が上がりません。こういう人を見かけたら、身振り手振りでも全然構わないので、とりあえず何らかの形で優しくしてあげてください。

今回は以上となります。起立性調節障害 体験記や、旅行記、ガジェット・家電レビューなども更新しておりますので、併せてそちらもお読み頂ければ幸いです。いいね・コメント・Twitterでのご感想・フォローもお待ちしております。それでは。


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