Panchito 西村秀人

南米音楽研究家。2020年3月まで名古屋大学大学院准教授、現在同大学非常勤講師(スペイ…

Panchito 西村秀人

南米音楽研究家。2020年3月まで名古屋大学大学院准教授、現在同大学非常勤講師(スペイン語)。大学院生時代から音楽のCD選曲・解説・歌詞対訳、タンゴなど南米音楽に関する公演、南米関連音楽イベントの主催・サポート・通訳等で活躍。日本タンゴアカデミー理事、マテ茶アドバイザー。

最近の記事

コマラジ番組「タンゴ・エン・トキオ」 日本にちなんだタンゴ集の選曲②+

前投稿に引き続き、コマラジの番組マーシー&マギの「タンゴ・エン・トキオ」に西村が出演した3月5日分の選曲をご披露。 1.エル・ハパンガEl japanga (Osvaldo Pugliese) /オスバルド・プグリエーセ楽団(1978年12月20日録音) ...オスバルド・プグリエーセ楽団は1979年に2度目の来日公演を行うが、その時にプグリエーセ自身が準備してきた作品。タイトルは日本=ハポン+ミロンガの造語なのだろう(曲調はタンゴなので、リズムの強いタンゴという意味

    • コマラジ番組「タンゴ・エン・トキオ」 日本にちなんだタンゴ集の選曲①

      コマラジ番組「タンゴ・エン・トキオ」 日本にちなんだタンゴ集の選曲について① 今年の1月1日と昨日3月5日の2回、コマラジの番組マーシー&マギの「タンゴ・エン・トキオ」に出演、それぞれ「日本に捧げられたタンゴ集」「日本にちなんだタンゴ集」としてアルゼンチンやウルグアイのアーティストたちが日本に寄せたタンゴをまとめて紹介した。ここにあらためてその内容をまとめておく。まずは1月1日分。 1.ブエノスアイレス=東京 Buenos Aires=Tokio (Julián Pla

      • タンゴ・フルートの巨匠、ドミンゴ・ルーリオのこと

        アルゼンチン・タンゴという音楽はどんな楽器で演奏してもいいのだが、今よく見られるのはバンドネオン、バイオリン、ピアノ、ギター、コントラバスといった楽器のアンサンブルが多く、管楽器を使うことは稀である。しかしタンゴが生まれてまもない頃、つまり150年ほど前はフルート、バイオリン、クラリネット、ギターなどによる小編成アンサンブルで演奏されていた。バンドネオンはタンゴが出来てから入ってきた楽器である。 1910年頃、タンゴ専門の楽器編成として「オルケスタ・ティピカ」という用語が登場

        • モサリー二10年ぶりの来日に寄せて(2014年9月記事の転載+追記あり)

          (2022年5月27日に、バンドネオン奏者フアン・ホセ・モサリーニがパリで亡くなりました。享年78歳。彼の経歴をまとめた記事を旧BLOGにのせていたので、こちらに転載します。最後に追記があります。) 久々に来日するファン・ホセ・モサリーニの足跡  いよいよ今月、バンドネオンの巨人、ファン・ホセ・モサリーニの10年ぶりの来日公演がスタートする。かつては毎年のように来日していた時期もあり、インタビューや特集記事なども多数あったのだが、現在簡単に入手できないものもあり、今回公演

        コマラジ番組「タンゴ・エン・トキオ」 日本にちなんだタンゴ集の選曲②+

          不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

           2010年に我々の個人招へいで来日したアグスティン・ペレイラ・ルセーナと滞在中いろいろな話をした中で、ちょっと面白い話題があったのを思い出したのでこの機会に記しておきたいと思う。  アグスティンはお兄さんが買ってきたジョアン・ジルべルトのレコードに大きな影響を受けたのだが、他にも当時アグスティンが聞いたいろいろな音楽の話をした。アストル・ピアソラはよく聞いたそうだし(アルバム「ヌエストロ・ティエンポ」「タンゴ・パラ・ウナ・シウダー」は当時買ったレコードをその後自宅で見せても

          不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

          オスバルド・フレセド&ディジー・ガレスピー、世紀の珍盤の意外な真実

          いよいよ私が担当するNHKカルチャー名古屋教室の全国向けリモート講座「タンゴの世界第5期」が始まる。先日第1回のロベルト・フィルポの分の準備を終え、5月分のオスバルド・フレセドの準備に取りかかったところで、今まで気がつかなかった事実がわかった。  オスバルド・フレセドは古典時代の後半からタンゴ史に登場し、その音楽性を重視した演奏は、フリオ・デ・カロと並び先駆的な新しさを持ち、1930~40年代には、柔らかで優美さを感じさせる弦、抑えの効いた切れの鋭いリズム、究極のシンプル

          オスバルド・フレセド&ディジー・ガレスピー、世紀の珍盤の意外な真実

          アルゼンチンで撮影された最古のタンゴ映像は女性歌手の歌だった!

          2年前に「アルゼンチン・タンゴ最古の映像発見!」として、1928年年末にキューバで撮影された、チリ生まれのアルゼンチンで活動した歌手・ピアノ奏者・作曲家ホセ・ボールの映像を紹介したが、そのすぐ後にアルゼンチン音楽を紹介した短編映画が存在し、まずまず良好な状態でデジタル化され、公開されていることに気づいた。 タイトルは「モサイコ・クリオージョ」(土地っ子音楽のモザイク)。https://www.cinemargentino.com/en/films/914988648-mosa

          アルゼンチンで撮影された最古のタンゴ映像は女性歌手の歌だった!

          セステート・タンゴ~「(私の)最後の1枚」の顛末

          タンゴの名門オスバルド・プグリエーセ楽団から1968年に独立、その後のタンゴ界をリードするグループの一つとなった「セステート・タンゴ」。オスバルド・ルジェロ(バンドネオン)、ビクトル・ラバジェン(バンドネオン)、オスカル・エレーロ(バイオリン)、エミリオ・バルカルセ(バイオリン)、アルシーデス・ロッシ(コントラバス)、フリアン・プラサ(ピアノ)という布陣で、メンバーのうちコントラバスを除くほぼ全員が現代タンゴ界を代表する作曲家であり編曲家、フリアン・プラサはバンドネオン奏者だ

          セステート・タンゴ~「(私の)最後の1枚」の顛末

          3月13日 タンゴアカデミーセミナー

          3月13日(土)銀座リベルタンゴで、日本タンゴ・アカデミーのセミナーが行われます。担当は私・西村秀人、テーマは「ウルグアイ・タンゴの歴史」と題し、アルゼンチンの隣国ウルグアイのアーティストによる音源を、1917年のアロンソ=ミノット楽団から現代の演奏家に至るまでご紹介していきます。ペドロ・ラウレンスの異父兄弟 Felix Laurenzの楽団、1948年の時点でピアソラを完コピしていたCésar Baliñas楽団、ダリエンソの名演で知られるミロンガ「ラ・エスプエラ」の自作自

          3月13日 タンゴアカデミーセミナー

          日本タンゴ界の恩人、フェルナンド・テル生誕100周年

          講座の準備もあって2日過ぎてしまったが、さる1月22日はバンドネオン奏者フェルナンド・テルの生誕100周年だった(今年はアストル・ピアソラの生誕100周年。テルはピアソラと同級生なのだ)。 1921年1月22日、フェルナンド・テルはサンタフェ州マリア・スサーナに生まれた。サンタフェ州の州都アルゼンチン第2の都市ロサリオはタンゴ史に残る素晴らしいバンドネオン奏者を多数輩出してきた地であり、素晴らしいタンゴ楽団もたくさんあった。テルはロサリオ随一の楽団ホセ・サラ楽団に参加、腕を

          日本タンゴ界の恩人、フェルナンド・テル生誕100周年

          タンゴ・ダンスの巨匠、フアン・カルロス・コーペス逝去

          悲しいお知らせです。タンゴ・ダンスの巨匠フアン・カルロス・コーペスが亡くなりました。近年体調を崩し、闘病していましたが、12月に新型コロナウィルスに感染したことで急速に悪化したようです。 1950年初めから新しいタンゴ・ダンススタイルを追求し活躍、1950年代末にはアメリカに渡ってミロンガをfastangoとして紹介、エド・サリバン・ショウにも出演しました。その後もエル・ビエホ・アルマセンやカーニョ・カトルセを始め、タンゲリーアのステージでその妙技を披露、1983年から「タン

          タンゴ・ダンスの巨匠、フアン・カルロス・コーペス逝去

          ペルー・ワルツの名作者ルイス・アベラルド・ヌニェスのこと

          明日11月22日はルイス・アベラルド・ヌニェス、ペルー音楽史上に残る名作をたくさん残した作曲・作詞家の94回目の誕生日である。 Embrujo, Con locura, Cuando habló el corazón, Ingrata, Mi despedida, Mal pasoなどのバルス・ペルアーノ(ペルー風ワルツ)、Sacachispas, Que viva Chiclayoなどのマリネラなどたくさんの歌手によって録音され、多くの人に親しまれた傑作を残した。 彼の本名

          ペルー・ワルツの名作者ルイス・アベラルド・ヌニェスのこと

          新リズム「タンゴン」と日本

          タンゴンとはタンゴとミロンガをミックスしたようなリズムで、1935年「タンゴの王様」フランシスコ・カナロが「発明」したニューリズムだった。 1936年に日本でもフランシスコ・カナロ自身の演奏する「タンゴン」 Tangón(カップリングは「エス・オー・エス」 S.O.S.、番号はJ2568、オリジナルは1935年8月録音、ロベルト・マイダ歌)が紹介され、1938年4月に日本におけるタンゴン第2弾のレコード「エル・ポルテーニョ」 El porteño (J2912、オリジナルは1

          新リズム「タンゴン」と日本

          アルゼンチン・タンゴ最古の映像発見!

          アルゼンチン・タンゴ史上もっとも古い映像を見つけた‼  従来アルゼンチン・タンゴ最古の映像は、カルロス・ガルデルが1930年に制作した「ジーラ・ジーラ」「マノ・ア・マノ」「秋のバラ」など全10曲の演唱を収めた(1曲ごとの)短編映像だとされていた。  しかし今回発見できたのは1928年12月29日撮影という作曲家ホセ・ボールのピアノ弾き語りの映像である。ホセ・ボールは、日本のタンゴ・ファンには「小さな鈴」(カスカベリート)、「絹の靴下」(メディアス・デ・セダ)などの作品

          アルゼンチン・タンゴ最古の映像発見!

          LATINA連載「タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界」リスト

          「中南米音楽」でスタートして以来、途中「LATINA」と改名しつつ60年以上にわたってラテンアメリカ音楽情報誌として続いてきた月刊ラティーナが、まもなく最終号を発売します。私は2018年2月号から今度出る最終号まで2年4か月に渡って、全28回の 「タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界」を連載してきました。今回忘備録の意味も含め、全28回で取りあげた曲(時に1回で2曲を取りあげてもいます)をリストにしておきます。 第1回 エル・チョクロ(2018年2月号) Vol.1 El

          LATINA連載「タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界」リスト

          考察:日本のタンゴ事始~目賀田綱美と早川雪洲

          2014年、日本へのタンゴ渡来100周年ということで、モンテビデオ(ウルグアイ)、大阪、東京、名古屋などで日本のタンゴ史について話をする機会を得た。その時気になりつつもちゃんと調べる時間と機会がなく、そのままになっていた気がかりなことをここで考察してみたいと思う。 日本のタンゴ史において、タンゴ、特にアルゼンチン・タンゴを日本に初めて紹介した人物として出てくるのは、目賀田綱美である。目賀田綱美はあの勝海舟の孫であり、1920年9月に国際連盟総会ジュネーブ会議に全権代表として

          考察:日本のタンゴ事始~目賀田綱美と早川雪洲