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新リズム「タンゴン」と日本

タンゴンとはタンゴとミロンガをミックスしたようなリズムで、1935年「タンゴの王様」フランシスコ・カナロが「発明」したニューリズムだった。
1936年に日本でもフランシスコ・カナロ自身の演奏する「タンゴン」 Tangón(カップリングは「エス・オー・エス」 S.O.S.、番号はJ2568、オリジナルは1935年8月録音、ロベルト・マイダ歌)が紹介され、1938年4月に日本におけるタンゴン第2弾のレコード「エル・ポルテーニョ」 El porteño (J2912、オリジナルは1936年9月録音、同じくロベルト・マイダ歌) が出たのだが、その時の広告が以下である。1938年4月発売の日本コロムビアのカタログ(月報)に載ったカナロのイラスト入りで、月報の丸々1ページを占めるとはかなりの力の入れようだったのだろう。カナロが本人より少しハンサムに描かれているのが面白い。「エル・ポルテーニョ」の日本盤の解説を書いているのは、戦前のタンゴ紹介に貢献のあった的場実だ。

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日本コロムビアは1937年2月にカナロの「タンゴン」に藤浦洸の日本語詞をつけ、「青春のタンゴン」として中野忠晴の歌でも発売しており、このニューリズムにかける期待はかなりのものがあったようだ。日本ビクターからも同曲は「踊れタンゴン」として別の日本語詞で小林千代子の歌ったものが出ていた。私の手元にはドイツタンゴの傑作「碧空」、カナロ盤でカップリング曲だった「S.O.S.」、アメリカのヒット曲「サンフランシスコ」と抱き合わせで出版された「タンゴン」の楽譜もある。

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さらに日本コロムビアからはベストセラーになったというSP6枚組アルバム「ディスコス・アルヘンティーノス」にフランスのマヌエル・ピサロ楽団の「タンゴン」のカヴァー・ヴァージョンが含まれており、当時の日本のタンゴ・ファンは結構耳にする機会があった曲だったかもしれない。
実はタンゴンは本国ではカナロが舞台に使って話題になった程度で、他のアーティストによるカヴァーもなく(歌手アダ・ファルコンの歌ったものがあるが、それもカナロが伴奏している)、上記の2曲で終わっているので、それほどヒットしたとは言えない。むしろ日本での方が盛り上がったといえるのかもしれない。

参考音源:
カナロの「タンゴン」 https://youtu.be/3npJbblczrE

カナロの「エル・ポルテーニョ」https://youtu.be/Yrg9RQM5dro


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