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コマラジ番組「タンゴ・エン・トキオ」 日本にちなんだタンゴ集の選曲②+

前投稿に引き続き、コマラジの番組マーシー&マギの「タンゴ・エン・トキオ」に西村が出演した3月5日分の選曲をご披露。
 

1.エル・ハパンガEl japanga (Osvaldo Pugliese)
/オスバルド・プグリエーセ楽団(1978年12月20日録音)
...オスバルド・プグリエーセ楽団は1979年に2度目の来日公演を行うが、その時にプグリエーセ自身が準備してきた作品。タイトルは日本=ハポン+ミロンガの造語なのだろう(曲調はタンゴなので、リズムの強いタンゴという意味のミロンガだろう)。清らかな弦楽合奏に始まり、徐々にプグリエーセらしいリズムの印象的な本題に入っていくスケールの大きな作品。

Osvaldo Pugliese "Mato y voy" (EMI Argentina)

 2.甘美なパラダイス、沖縄 
Okinawa, dulce paraíso (Raúl Monti-Eduardo Malaguarnera)
  /エドゥアルド・マラグルネーラ・トリオ
...オスバルド・プグリエーセ楽団、セステート・マジョールのメンバーだったロサリオ出身のバイオリン奏者エドゥアルド・マラグルネーラは2000年代前半にトリオでたびたび来日し、地方を中心に公演してまわった。この曲は沖縄の印象を曲にしたものと思われ、ピアノ奏者ラウル・モンティとの共作。「お・き・な・わ」という部分がやけに印象的だが、突如哀愁あふれる調子に変わるところがユニーク。マラグアルネーラは他にも「広島、新しい太陽」 Hiroshima, nuevo solという曲も作っている。

Eduardo Malaguarnera Tr:io "Saludos! Okinawa…" (sello indepnediente, Argentina)

 3.日本、日本 Japón, Japón -vals (Fernando Tell)
/フェルナンド・テルとオルケスタ
...フェルナンド・テルは1960年から2年半ほど日本に滞在し、日本人ギタリストとベーシストによるトリオで実演喫茶、ラジオなどに活躍したロサリオ出身のバンドネオン奏者。この自作のワルツでは弦を増員したオルケスタと共に、バンドネオン演奏のみならず、日本語で歌と語りを歌っている。日本語の詞は、元内閣総理大臣の山本権兵衛の孫にして、戦後アルゼンチンでタンゴ歌手のエクトル・パチェーコの秘書となり、その後はキューバにとんで革命の雄カストロとも親交を持ったという稀代の女傑、山本満喜子が書いたもの。山本はテルの招へいにも大きく関わっていたようだ。この曲は一応ロサリオでCD化されているのだが、CDではこの録音の前半と、別の機会に録音されたこの曲のバンドネオン・ソロ演奏を組み合わせているので、この音源はオリジナルとなったキング・レコードの25センチLPから。 

Fernando Tell 「郷愁のアルゼンチンタンゴ」(キング)

4.エル・ハポネス(日本人)El japonés (Arturo Gallucci-Santiago Adamini)  /早川真平とオルケスタ・ティピカ東京、阿保郁夫(歌)
...1964年、日本を代表するタンゴ楽団、早川真平とオルケスタ・ティピカ東京は歌手の藤沢嵐子、阿保郁夫、柚木秀子を帯同して、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、ペルー、エクアドルなど南米諸国で公演、途中録音も多数行った。この曲はアルゼンチンで録音されたもので、コントラバス奏者のアルトゥーロ・ガル―チが作曲、オデオン社のディレクターで当時著作権協会SADAICの会長だったサンティアゴ・アダミニの作詞。阿保さんに訊いたところによると、スタジオにいったらこの曲のアレンジした譜面と歌詞が置かれていたのだが、歌詞を見ると「日本帝国の息子たち」というような表現もあってびっくりしたが、作詞者アダミニも現場にいたので断るわけにもいかず、そのままリハーサルして録音となったそうです。その場で練習して録音したとは思えないほど阿保さんの歌は素晴らしい出来を示している。この曲の多分唯一の録音。

Orquesta Típica Tokio "Tango en Kimono" (vol.2) (RCA Víctor Colombia)

 5.エル・コメタ(彗星)(副題:ホテル・ニュー・アカオ) 
El cometa (Hotel New Akao) (Jorge Arduh)
/ホルヘ・アルドゥ楽団(1994年8月)
...アルゼンチン第2の都市、コルドバを拠点として50年以上活躍したピアニスト、ホルヘ・アルドゥは1990年代前半、クアルテ―トを率いてたびたび日本公演を行っていた。おそらくは熱海のホテル・ニュー・アカオに長期出演したこともあってこの曲タイトルになったのだろう。アルドゥのスタイルはオスマル・マデルナのピアノ協奏曲風のタンゴ・スタイルを受け継いだもので、よく宇宙に関係するタイトルを自作の器楽曲につけている。この時のアルバムには「エスカラス・エン・ハポン」(日本のスケール)(副題:サザンクロス)、「パラ・ボス・エドガワ」(江戸川のタンゴ愛好家に捧げられたもの、歌詞あり)という曲も収録されている。 

Jorge Ardouh "Escalas en Japón" (Diapason Argentina)

6.目賀田男爵に捧ぐ(ア・ロ・メガタ)
A lo Megata (Edmundo Rivero-Luis Alposta)
  /エドムンド・リベーロ(歌)、レオポルド・フェデリコ楽団
...1980年、日本に来て関係者に聞き取り調査をして著書 Tango en Japónを書いた医師・作家のルイス・アルポスタが作詞、エドムンド・リベーロが作曲した曲で、大正末期にパリでマヌエル・ピサロの楽団などでタンゴを踊り、昭和初期に帰国してタンゴ・ダンスを人々に教えていった目賀田綱美のエピソードを基に作ったもの。阿保郁夫もレパートリーにしており、2回録音を残しているが、ここでは作曲者本人の1983年の録音。伴奏はレオポルド・フェデリコ楽団で、この曲を収録したアルバムがリベーロの最後のアルバムとなった。 

Edmundo Rivero "El último payador" (Polydor)

7.心から(デスデ・アデントロ)
Desde adentro (Kokoro kara) (Antonio Agri-José Carli)
  /アントニオ・アグリのシンフォニック・タンゴ・オーケストラ
...アントニオ・アグリが1989年に大編成のシンフォニック・タンゴ・オーケストラを率いて全国公演を行った際に作ってきた曲で、本来のタイトルは「KOKORO KARA」というローマ字。いかにもアントニオ・アグリの美学を象徴するような美しいメロディで、アグリはその後も様々な編成で録音しているし、息子のパブロ・アグリも録音しているが、今回は来日時の最初の録音で。

Antonio Agri and Symphonic Tango Orchestra 「碧空~ラ・クンパルシータ」(ビクター)

 2回の選に漏れてしまった3曲も紹介しておこう。
 ・東京のクリスマス・イヴ Nochebuena en Tokio (Juan Canaro)/フアン・カナロ楽団(1974年)...1954年、アルゼンチン来た最初のタンゴ楽団のリーダー、フアン・カナロ(タンゴ王フランシスコ・カナロの弟)が、来日時の印象を基に書いた美しい曲。1980年代に入ってから日本だけで発売されたフアン・カナロ楽団のラスト・レコーディング(1974年録音)のアルバムに収録されている。実は1960年代のものと思われるマイナー・レーベルのフアン・カナロ楽団の17センチ盤の同曲は入っており、アレンジもほぼ一緒だが、演奏内容は74年盤の方がよい。1月1日にクリスマス・イヴの曲を流すのもどうかと思ったので今回は見送り。

Juan Canaro「フアン・カナロ」(ポリドール)

・日本に向けたタンゴ Tango a Japón (Armando Pontier)/アルマンド・ポンティエル楽団(1975年)...ポンティエルは1967年に自己の楽団、1973年に特別に再編成したフランチーニ=ポンティエル楽団で来日したが、その後の1975年のアルバムにこの曲が入っている。ポンティエルらしいスゥイング間のあるリズムが特徴的な作品。ポンティエルは1970年代半ばにミュージックホール・レーベルに2枚のアルバムを残し、ほぼ2in1の形でCD化されたのだが、この曲は省かれているので未CD化。

Armando Potier "El momento señalado" (Music Hall Argentina)

 ・輝く東京 Tokyo luminoso (Osvaldo Pugliese)/オスバルド・プグリエーセ楽団...プグリエーセが最後の来日(1989年)を果たす少し前に民音に捧げて作ったもので、最初は先に来日していたノルベルト・ラモス楽団がステージで演奏・録音していた(他にラモス楽団にも参加していたアリエル・エスパンドリオ楽団の録音もある)。その後プグリエーセ楽団の音源があることが分かったが発売はされず、プグリエーセの死後になってからCD化された。ただこの曲は実は純然たる新作ではなく、1965年の来日の後に発表した「美しい日本娘」(エルモーサ・ハポネシータ)のリメイク。この曲はなぜかプグリエーセは録音せず、フロリンド・サッソーネ楽団(オスカル・マクリ歌)のレコードがあるのみ。さらにややこしいことにはこれもまた新作ではなく、1948年にオスバルド・プグリエーセ楽団が映画「私の5人の息子」(ミス・シンコ・イホス)にし出演し演奏した「ア・バルキナソス」(マリオ・アロンソ歌)と同じ曲。一つの曲を3回作り直すのは気に入っている証拠か、はたまた... 

Osvaldo Pugliese "Edición Aniversario" (4CD, EMI Argentina)

アルバム単位で日本に捧げられている珍盤が2枚あるのでそちらもご紹介。 

A. ロレンソ・バルベーロ楽団 
「ロレンソ・バルベーロ・イ・スコンフント・オーサカ・タンゴ・クラブ」
...バルベーロは1918年コルドバ生まれのバイオリニストで、1950年から自己の楽団を持ち、ブエノスアイレスとコルドバで活躍してきた。大阪タンゴ・クラブは1960年頃から充実した機関誌も発行してきた愛好家の集まりで、海外の演奏家とのコンタクトをいろいろ取るうちに、バルベーロがこの団体を知り、(たぶん一方的に)こんなアルバムを制作したのではないかと私は想像している。この時期のバルベーロ楽団はすでに編成も小さく、オルガンやドラムも加えてダンス音楽を中心にしていてタンゴは少ない。全部の曲が日本にちなんだものというわけでもなく、日本関係の曲は「ヨーコに捧ぐ」(タンゴ)、「ゲイシャたちのワルツ」(ワルツ)、「嵐子はフォルモーサで踊る」(ランチェラ)、「オーサカ・タンゴ・クラブ」(タンゴ)の4曲で、後はタンゴのスタンダードや自作のポルカ、パソドブレなどが入っている。何とも不思議なレコード。

Lorenzo Barbero "Y conjunto Osaka Tango Club" (Magenta Argentina)

 B. タンゴ・ドス「ディスコ・スーペル・プレセンタ・ウン・タンゴ・パラ・ラ・エンペラトリス・イ・ウン・タンゴ・パラ・エル・エンバハドール・エン・ハポン」
...実は「タンゴ・ドス」がアーティスト名なのかどうかもよくわからないレコードなのだが、LPタイトルが「日本の皇后さまと大使に捧げるタンゴが1曲づつ含まれた」となっている。タンゴ・ドスはおそらくバンドネオンのビセンテ・プロパートとギターのアルマンド・P. ヒメネスのデュオのようで、その2人をバックにテルマ・ウィルデ、H.デニス、R.メンドーサ、A.ロマンというほぼ無名の歌手5人が参加するアルバム。タイトルで明らかに日本とのつながりがあるのは「日本はこんな風」「日本での恋」「日本のための歌」「私のロマンティックな日本娘」「東洋のお姫様」の5曲。なぜこの人たちが日本に捧げる曲をやっているかの理由は全く不明。ディレクターとして名が記されているのはどちらかというチャマメやダンス音楽が専門だったアコーディオン奏者のロドルフォ・レオーニと、「坊やの夢」で知られる作曲家でこのレーベルのオーナーだと推測されるフアン・プエイ。1970年前後のものだろうか。謎が謎を呼ぶ1枚。 

Tango 2 "Disco Super presenta un tango para la Emperatriz y u tango para el Embajador e Japón" (Disco Super Argentina)

ま、とにかく世界でこんなにタンゴの曲を捧げられている国は他にないだろう。(笑)

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※チケットは【何枚でも】【何口でも】ご購入可能でございます。

貴重なアルゼンチンタンゴのラジオ番組、応援のほどなにとぞよろしくお願いします!

②チケットご購入の確認がとれ次第、こちらからオンラインショップに登録されたメールアドレス(もしくはSNSで繋がりがある場合はそちらのDMなど)に、アーカイブサイトのログイン方法のご案内メールをお送りいたします。メールの手順に沿って、アーカイブサイトに新規登録をよろしくお願いします。皆様からの応援は引き続き、
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などの番組制作費に充てさせていただきます。

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