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up-tempo work 3章 No.2
ドアを開けると取り付けられた鈴が『カランコロン』と心地よく鳴った。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは〜、昨日はごめんなさい」
頭を下げながら、会計を後回しにしたことを謝ると、「ガラテア」のマスター後藤寿史は笑顔を浮かべて目で合図をする。
視線の先を見ると、カウンターに神崎美寿江が座っている。
白いスーツの彼女のその姿は、百合の花でも飾られているかのような華やかさだ。
「久しぶり」
私
up-tempo work 始動 第三章
ーーどうしよう
いくら考えても状況が変わるわけではない。
冷えたカップを俯いて眺めていると、
ふと、コーヒークリームの上に、ぽっかりと浮かびあがる顔。
ーーそうだ、彼はどうしているのだろう。
関連会社へ勤務している、幼馴染でもある桜樹を思い出した。
電話してみよう、何かいい策でも思いついてくれるかもしれない。
何しろアイツは機転が利く。
桜樹の顔を思い出した途端、明るい気持ちになった。
「up-tempo work」第2章「辞令」No.3
ー 何かの冗談ですか ー
大竹が真顔ではっきりとした声で憮然と放った言葉。
大竹の憮然とした態度を、部長はまるで予測していたかのように動じる様子もなく、大竹を真っ直ぐと見据え「大竹ちゃんも一人で手が回らなくなってきて補佐が欲しいとも言っていたじゃないか、まぁ、一つ頼むよ。いいね、任せたよ」一歩もひきさがらず、安定した声だが鋭い視線で大竹を見る。
すると、大竹は私を見た。
私を見る彼の目を私
「up-tempo work」第2章「辞令」 No.2
部長に声をかけられた大竹がゆっくりこちらに向かい歩いてくる。
すると周囲は、仕事の手を休め、会話を中断し、電話中の人は受話器を持ったままストップモーションのように動きが止まり私たちの方へ視線を向け始た。
部長の席の前へポケットに手を入れたまま彼は私の横に立つと、ちらりとだけ私を見た。
大竹は背格好も整っており、自身が持つ雰囲気だろうか、立っているだけでも存在感があった。
部長は座席の背
up-tempo work 第2章 「辞令」No.1
「どうしよう」
諦めるにも諦められない、ため息ばかりが出る。天国から地獄へ突き落とされた気分で私はコーヒーカップを前にしていた。『思い出すのも嫌だ』
......
入社が決まり会社へ向かう、
目の前に開かれる新しい世界。
希望に満ち、清々しい朝に軽快に歩く、
新しい社会のはず、
夢と希望の門出のはず.......
そのはずだったのに、何かから突き落とされたような気持ちで私は馴染みの店のコーヒー
up-temp work 第一章了
それにしても、緑のスーツを着て行くことができる職業とは一体何だろう。一般的ではないように思えて美寿江ではないが、知りたくなり、
彼をチラリと見た。
ーーもう会うこともないだろう、ええぃ! 聞いちゃえ!
「あの、お仕事は何をされているのですか?」
カメレオンスーツへ直球を投げた。
すると、彼は『クスリ』と笑い、
一瞬俯いたかと思うと私をまっすぐに見据え、
「銀行員だよ」
ーー嘘つけ!
up-tempowork 第一章 No.1
大学生の時に薬科大に進学した高校時代の友人が、年の離れた医師と学生結婚した。
大人の男性に見初められた友人はトンデモナイ美人だった。
ある夜、その彼女に洒落たバーに連れていってもらった。
カウンターに座り、ふたりでグラスを傾けていた。
もっとも私はアルコールは飲めないので、
ジュースのカクテルを飲んでいた。
彼女はストレスが溜まっているのか、
ウォッカ系の濃いカクテルをガンガン飲みながら、