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Book(Movie) Review-6:海でのはなし。

【誰かを大事に思うこと。】

誰かを大事に思うこと。
ちっぽけだけど、いちばん大切なこと。

ブック(Movie)レビュー 6th
映画「海でのはなし。」フィルムブック

さっき、POSSE COFFEEのマスターに、haruka nakamuraさんという音楽家を教えてもらい、聞いていると映画の話が書きたくなってきた。どこまでも繊細で心地の良い音色にイメージが湧いてくる。多分、そろそろポチります。


札幌の狸小路の奥に、シアターキノという小さな映画館がある。

市民で運営される地に根を張った映画館で、センスの良い映画を扱う映画館。隣のキノカフェは美味しいコーヒーとケーキ、当時はキネマ旬報のバックナンバーが沢山あって、映画好きにはたまらないカフェだったと思う。今はどうなのかな。学生時代に観た映画で、最も記憶に残る2本(海でのはなし、ぐるりのこと。)をここで観た。

当時の週刊文春で、土屋賢二(お茶の水女子大教授:哲学者)の連載を毎週読んでいたが、その隣に大宮エリーの"生きるコント"があった。読みと面白くて毎週楽しかったが、連載に彼女が初監督した映画が書いてあり、シアターキノまで観に行き、帰りにフィルムブックを買った。実は一旦手放して、数年前に中古でまた買った。

普通の家庭の娘のはずだった楓は、実は愛人の娘であり、それを本人は知らなかった。博士は密かにモテる優秀な学者だが、その親は堕落しており、親子の尊厳と絆は消えていた。誰にも言えない家族と心の問題を抱えた2人の男女が、海辺で静かに心を通わていく、楓と博士の70分。

博士が自分の最も近いキャラと思う時がある。どこか線を引いて距離を取りながら人間関係を何とか維持しようとしているのが伝わる。楓と車の中で話をしながら寄り添おうとしても、どこかのタイミングで距離を取る。彼がそうする理由が実は分からない。でも、どんな理由でも心を閉ざす事は難しい事ではない。彼はとにかく繊細で、壁を何重にも作り、城壁を高く、その中心にある小さな部屋に閉じ籠る。でも、なぜか鍵は開いていて、その事に誰も気づかない。そもそも、誰も城壁の中へ入ろうとは思わないのに。

終盤に、博士は本棚の本を次々と倒して部屋の中を滅茶苦茶にする。その本の倒し方が何気に可愛い。演出上のインパクトなら、もっと豪快にして良いはずなのに、実はそうでもなくて抑制がある。彼が優しい性格で、そこまで心のネジを外して暴れる事ができないからだろう。彼はいつも自分を責めているし、誰にも迷惑をかけないように生きている。誰にも心を開かずに、自分の中だけに留めて、自分にも認めようともしない。それが一番安全に生きていける方法だと考え、それが長くは持たない事も気付いていながら。

映画の捉え方、キャラクターへの感情移入は個人の自由で、こう考えている事を演出サイドでは多くは予想はしないだろう。だから映画も本も面白くて、考え方に多様性がある。しかし、書き手でもある自分として、それが時として辛い時もある。届いて欲しいメッセージはどこかに宿しているからであって、それが届かない時の心境はずっしりと重い。まだ博士が、自分の中を巣食っているのかもしれない。

宮崎あおいと西島秀俊が主演で、朝ドラ(純情きらり)の収録の隙間48h徹夜で、かつ監督が酒をがぶ飲みして撮影を成し遂げた"大作"。スピッツのベストアルバム発売に合わせた宣伝的な企画で、YAHOOで限定公開されると、大きな反響が生まれて全国公開された。

フィルムブックには後日談としてお互いの手紙、スプリクト、メイキングがあり、世界観を補完する事ができる。ある種の映像文学の補習みたいなもの。内容の出来云々よりも、48hで映画を作り上げる熱量に脱帽し、とても新鮮さがある。連載で内容とか裏側を知っていたので、ギャップがすごい。でも、彼女の繊細なタッチと文章には魅力がある。生きるコント含めて、本棚には彼女の著作が最も多い。3年前に金津創作の森であった個展には何回も行ったし、上映されているドキュメンタリー映画が一番好きだった。その映画でカメラを回したのが、中田英寿や山田孝之のドキュメンタリーを撮った牧有太さん。飛躍する人たちは、どうもエリーに触れていく。


さて、haruka nakamuraさんをiTune storeでポチろう。

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