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父親の書斎


父親の癌が見つかったのは春の事
初期なので元気で野心もある
共存すればまだまだ長生きできる

でも、人には限りがある
人の人生には潮目がある
それが来ている

死の現実と恐怖で父親は変わった
今の父親は予想以上に賢い
知性が増していた
だから準備を始めたい

よく自分は若いと言われる
実は狙って自己投資していた

だって今まで我慢していたから
もう良い加減好きな事をしたい
ガリ勉の復讐はしつこいと思う

“見た目が予選で、中身が本選”
世の中はそんなもんだと思う

でも、小難しい頭は血の影響だった
祖父の残した本棚にある赤い本たち
戦争直後の70年以上前の古い本たち

祖父は大学に行けなかった。
逓信高校を出て、通信兵だった
戦後、山の中の彼は資本論を研究していた
多分、頭がオカシイ(笑)

祖父の向学心は本物以上だった
そして、父親も自分も同じだった
(父親は大学の先生だった)

血は争えない
本当のところ、それが嫌いだった
でも、今はそれに自信を持つ事ができる

父親も青春を赤く染めた。
みんなと同じ赤い青春を燃やした。

彼は当時を思い返し、テレビに目を向ける
父親に質問をすると、呟いた

“右翼も左翼も無い、同じ我欲だ”
“イデオロギーは死んだんだ”
古い赤い青春の答えは、誰よりも若かった

どんな時も若くありたいし、好きな事をしたい
仕事も頑張っていたい
新しい事をトライしてみたい
同じ場所にずっといる事が正解ではない
(他が正解とも限らない)

しかし、時間には限りがある
父親の時間と自分の時間

自分がどう生きるか
誰とどう生きるか

思い立った日こそ、人生で一番若い日
けど人間は1人で生きていけない

甘えられる限界はある
搾取ではなく自助と協力

かくも人生は複雑に絡まっている
書斎の雑多はそれを映していた

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