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公立高校の工業高校・工業学科の授業、生徒とクラス、先生

 特に普通科高校出身という方にとっては、工業高校の授業って得体の知れないものですよね。

 進路選択を考えている中学生やその保護者の方、工業高校・工業学科のことを知りたい中学校の先生、教科「工業」の教員免許を持っているけど、工業高校のことは良く知らないという方へ向けて、あまり深入りせずに工業高校のイメージづくりのお手伝いになればと思います。地域差も大きいこともご理解の上、お願いします。

中学校までの普通教科(国数英理社)以外の、工業に関する授業がある

 各高校のパンフレットや学校要覧のカリキュラムというのを見るとわかると思います。専門の工業のことが学べる一方、その分だけ普通教科の科目を学ぶ時間は減るということです。

 高校卒業後に大学進学を考えていたりする場合は、注意が必要です。多くの場合は進学も視野に入れたカリキュラムになっているので、コース選択や科目選択などで普通教科をカバーできる部分もありますが、普通科に比べると時間数は少なくなりがちです。理系科目でいうと、数学Ⅲや数学Cはある?化学系や生物系は選択した?みたいなことです。

 大学入試がそもそもどうだという内容には触れませんが、入試科目に専門の工業の教科があることは稀です。大学入学後のスタートラインに立った時に、普通科の卒業生に比べると、工業の知識は強みではあるけど、普通教科の内容に関しては弱みとなりがちです。

 私は工学部であったので、その立場でいうと、計算を伴う分野であれば、高校の普通科で学ぶ数学や理科の知識は大前提であるので、工業高校での学習だけでは入学してから追いつくのが大変だと思います。私の学生時代のことなので20年も前になるので、最近は違うのかもしれませんが。

 大学の工学部は、国立大学などでも工業高校生の枠を設けているところもあるので、入学後にサポートしてくれるんだとは思いますし、実際にサポートに手厚い大学もあります。

 いろいろ書きましたが、継続して学び続けることができる人・楽しめる人であれば、どんな進路選択や職業選択をしようが、良い成果が出たりや豊かな人生を送れると思います。そのような生徒を高校から輩出したいと願うのは、普通科高校でも専門高校でも同じだと思います。

授業スタイルによって「座学」と「実習」の2つのカテゴリーに分かれる +「課題研究」

 「座学」というのは、普通科でも良くある教室で受ける授業です。「実習」というのは、実際に手を動かしてする授業です。例えば、機械系だと鉄を加工する旋盤、電気系だと電線は配線の接続、土木系だと土地の高さを測る測量といった感じです。

 「座学」について見ていきましょう。教科の科目は相当多いです。教科名と内容は学習指導要領を参考にされるといいでしょう。教科書もこれに準じて作られています。学ぶ各分野によって学ぶ科目も違ってきます。これも各学校のパンフレットのカリキュラムと見比べてみてください。学科の特徴が見えてきます。違う学校の同じような名前の学科でも、科目が少しずつ違うのがわかります。どんなことを学ぶところなのかわかります。科目名がないものは、おそらく学校設定科目というもので、各学校独自の科目です。全科目を記載してみます。59科目です。高等学校学習指導要領より引用。

工業技術基礎,課題研究,実習,製図,工業情報数理,工業材料技術,工業技術英語,工業管理技術,工業環境技術,機械工作,機械設計,原動機,電子機械,生産技術,自動車工学,自動車整備,船舶工学,電気回路,電気機器,電力技術,電子技術,電子回路,電子計測制御,通信技術,プログラミング技術,ハードウェア技術,ソフトウェア技術,コンピュータシステム技術,建築構造,建築計画,建築構造設計,建築施工,建築法規,設備計画,空気調和設備,衛生・防災設備,測量,土木基盤力学,土木構造設計,土木施工,社会基盤工学,工業化学,化学工学,地球環境化学,材料製造技術,材料工学,材料加工,セラミック化学,セラミック技術,セラミック工業,繊維製品,繊維・染色技術,染織デザイン,インテリア計画,インテリア装備,インテリアエレメント生産,デザイン実践,デザイン材料,デザイン史

下記リンクは、文部科学省の高等学校学習指導要領(平成30年告示)のPDFです。工業については、241ページから書かれています。詳しくはリンク先をご覧ください。

https://www.mext.go.jp/content/1384661_6_1_3.pdf

目標は大切なので、引用して記載しておきます。

第1款 目 標
 工業の見方・考え方を働かせ,実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して,ものづくりを通じ,地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人として必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)工業の各分野について体系的・系統的に理解するとともに,関連する技術を身に付けるようにする。
(2) 工業に関する課題を発見し,職業人に求められる倫理観を踏まえ合理的かつ創造的に解決する力を養う。
(3) 職業人として必要な豊かな人間性を育み,よりよい社会の構築を目指して自ら学び,工業の発展に主体的かつ協働的に取り組む態度を養う。

もう少し深く知りたい方は、下記リンクの【工業編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説のPDFをどうぞ。

https://www.mext.go.jp/content/1407073_14_1_1_2.pdf

 「実習」というのは、学校や学年によって違いますが、多くの場合、1週間に1回は3時間連続の実技をともなう授業があります。3年生では、加えて同じく三時間の「課題研究」というのがあり、大学で言う「卒論」の簡易バージョンといったところでしょうか。これは、普通科も含めて高校生の全生徒が履修すべき時間である「総合的な探求の時間」にあてられています。

 いずれも3時間と書きましたが、4時間だったり、学年をまたいで6時間だったりする場合もあります。工業というか専門高校の特徴ではありますが、週に3時間だけですからそれ以外の26時間はすべて座学(普通教科+専門教科)であることを忘れてはいけません。週の時間数が6限×5日-ホームルール1時間で、29時間の場合です。

 実技ばかりのイメージで入学してくる生徒も多数です。「こんなに教室での授業があるなんて想定外。しかも難しい」みたいな感じです。

 「実習」は、クラスを班に分けます、1クラスをだいたい4班に分ける場合が多いでしょう。実習に使うのは大きな装置もあり、台数に限りもありますし、危険をともなうものもあるからです。よって、1班が10名弱の少人数の授業となるわけです。

 「課題研究」は、内容は多くの場合「ものづくり」です。これもテーマごとに、1班は10名弱の少人数の授業です。「ものづくり」は、工業高校・工業学科の核となっています。単にものをつくるだけでなく、持続可能な開発や、廃棄の問題など、SDGsの目標12 [持続可能な消費と生産]『つくる責任 つかう責任』にも大きく関わってきます。工業学科に限らず、専門学科はこのSDGsの17のゴールに関わる内容って多いんですよね。

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 「実習」や「課題研究」は少人数であり、教員にとっても一人一人に目が行き届きやすいですし、生徒にとっても実技なので参加して行動するしかありません。わからなければ、調べたり、聞いたり、生徒同士で相談したりします。「主体的・対話的で深い学び」というワードが出てくる以前から、座学より「主体的・対話的で深い学び」につながっている場面が多いと思っています。

工業学科の生徒とクラス

 地域によってかなり違います。私の勤務先のある地方の自治体の話として読んでいただけたらと思います。私の勤務先の工業系の高校は、教育困難校に入るか入らないかというくらいだと認識しています。

 まず、一般的に言えると思うのですが、昭和時代の「不良」や「ヤンキー」みたいな怖いイメージの生徒はいません。ある意味おとなしいです。一握りの「やんちゃ」な感じの生徒がいる感じでしょうか。

 男女比というのが意味があるのかわかりませんが、機械や電気系は男子が多い、いやほとんど男子で、化学・建築土木系は若干女子がいて、情報系には女子が比較的多い傾向かと思います。

 クラスは各学科で2クラスあるところは、クラス替えがあるかもしれませんが、多くの場合は1クラスなので、3年間同じクラスのメンバーで過ごします。1年次はどうしても人間関係のトラブルも多いですが、3年生になると減ってきて、全員が仲良しというわけでもありませんが、適度な距離感もわかってきます。

以下は、私の経験からの話です。

 私は電気系の教諭なので、今まで電気系のクラス担任をたくさんしてます(教員になってほとんどの期間)。クラスの生徒はほとんど男子ですし、もちろん担当している授業もほとんど男子です。
 
 勉強は得意ではなく苦手な生徒が多く、私語などで授業は騒がしい傾向ですが、元気で学校はあまり休みません。不登校の生徒はかなり少ないのではと思います。生徒にとっては学校は楽しいと感じていることが多いように思います。

 中学校までは学校がイヤで不登校まではいかなかったけど辛そうだったのに、高校は楽しく通っているので、ありがたいと保護者さんが言っていたこともあります。男子ばかりなので、良くも悪くも気を遣わない感じがその生徒にあっていたのかもしれません。

 生徒にとってのセーフティーネットみたいな感じになっているのはある意味では良いのかもしれませんが、教科の目標にはなかなか至らなくて無力感はあります。

 どうやったら各生徒の人格形成にもっと関われるだろうか、毎日が試行錯誤です。

工業学科の先生

 私を含めて工業の先生は個性が強めです。いわゆる熱血みたいな感じの人は多くないので(たぶん)、少し冷たい感じとか思われるかもしれませんが、効率的であるがゆえで、表面には見えにくいかもしれませんが意外と?生徒思いです。ときには厳しいことも言ったりしますが、感情的ではなく、筋の通った納得できる内容です。

 工業のクラスの授業がなかなか成立しないことも多く、先生方から担任に相談されることも多々あります。(正直、自分も先生なんだから工夫して何とかしてよって思うこともありますが。)よって、ある程度、生徒たちをコントロールできる力があり、その保護者たちにも毅然として対応できる先生がクラス担任にあてられる傾向です。

 「民間企業」出身の先生も多く、実社会のあれこれや生きていくためのノウハウを良く知っているので、人生の参考になりますし、言葉が心に残ります。

 工業学科の先生は、教師でありながら、THE教師っぽくないことろが、生徒とのかかわりの面でも、仕事面でも、絶妙なバランスでとても良いと思っています。

専門高校パンフレット【文部科学省】

最後に、文部科学省の良質のパンフレットを紹介しておきます。いい感じでできてます。(令和2年12月更新)と書いてあります。実はこのパンフレットがあることを私は知りませんでした。

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