証拠
高校生の時、バンドマンの友達がいた。
僕らの高校はいわゆる”進学校”というやつで、進学がメインのため当然軽音楽部なんかなかった。
それでも彼は他校の友達と組んでバンドをやっていた。
どうしてそうまでして音楽をやるのかと尋ねたことがある。
「俺はさ、この世界に自分がいたって証を残したいんだよ。」
いまだにこの言葉が忘れられない。
僕はこの世に何一つ痕跡を残さずに死んでゆきたい。
着ていた服も、お気に入りの万年筆も、本棚の本も、SNSのアカウントも、精子が沁み込んだごみ箱のティッシュも。
欲を言えば周りの人間の記憶すら消して、まるで初めからいなかったかのように。
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