【OWLオムニバス】信州とわたし
読者のみなさま、こんにちは。
オムニバス記事担当のHarakoです。
タイトル画像は霧ヶ峰高原。爽やかですね。
さて、猛暑をやわらげるべく、ヒヤッと涼しくなるサッカー旅失敗談のオムニバスを掲載してから、はや1ヶ月。
朝晩は涼しい風が吹き、どこからか虫の声が。
すっかり秋の気配を感じる毎日となりました。
秋といえば、読書の秋。スポーツの秋。
そう、この本の季節が到来です!
街ブラ、グルメ、温泉、自転車、登山——。
ライター陣が十人十色の旅を楽しみながら信州サッカーの魅力をひもとく、全方位にボリューム満点の1冊。旅とサッカー観戦が好きな人なら、必ず刺さる記事があることをお約束します。
読書の秋のキックオフに、ぜひ手に取ってみてください。
信州では山々が紅葉し、リンゴが真っ赤に色づき、10月30日には松本・アルウィンにて大注目の信州ダービー・秋の陣も開催されます。
秋の信州と、すたすたぐるぐる信州編に思いを馳せつつ、今月のオムニバスはOWL magazineライター陣が信州にまつわるエピソードをつづりました。
信州で生まれ育った人もいれば、そうでない人もいます。
どんな物語が飛び出すのでしょうか? エピソードを知れば『すたすたぐるぐる信州編』も、もっと面白くなるかもしれません。
ちょっと肌寒い夜、あったかいお茶をおともに、ぜひお読みください。
あ、もちろん、まだまだ暑い日にビール片手に読んでいただいてもOK。
あなたの人生はすべて、あなたの自由です。
すたすたぐるぐる信州編のやり残し(中村慎太郎)
すたすたぐるぐる信州編、発売から4ヶ月弱。
実のことをいうと、この本は中村が生まれてはじめて一冊まるまる責任編集をした本です。前作の埼玉編のときは別の人が編集の責任者でした。とはいってもぼくが初稿は必ず見ていたのですが、信州本については書籍制作についてのありとあらゆるものが自分の責任なので、脳みそが吹き飛びそうなほど大変でした。
ようやく本が発売できたのは5月24日。ぼくの誕生日です。一生忘れられない一冊になりそうです。
今となっては白状しますが、素人が監督して作った本です。中村は出版社に勤めたことはないし、書籍の編集も2作目です。だけど、そうとは決して思われないだけのクオリティに仕上がったと思っています。
それができたのは信州という土地がもつ異様なまでのパワーのおかげかなと思っています。さて、ぼくが書いたのは北信・松代を中心とした紀行文「長野パルセイロレディースと信州松代ワンダーランド」と「皆神山と神々もしくは宇宙人」、松本の楽しい日々を淡々と綴った「松本でご飯を食べてお酒を飲む東京の人」の3遍です。
長野の原稿については、古川さんの文章が間に合わない可能性がある中で、ぼくが全力で書かないと企画が成立しないという危機感がありました。なので、中村慎太郎一世一代の渾身の紀行文になっていると思います。登場する「じゅうべえ」の店主さんからも達筆でお礼の手紙をいただきました。「じゅうべえ恐るべし」の表現が気に入って何度も読み直してくれたとのことです。
ぼくがやりたいのは、サッカー旅を通じて、地域に暮らす人たちの人生を肯定していくことです。ささやかながら、それが一つ達成できたことでとても嬉しく思っています。読みやすさにこだわっていることと、自然にサッカーの要素が混ぜ込まれていることが、書き手としてのぼくが辿り着いた一つの境地です。
長野については、最後のほうやけくその北信旅を入れ込んで古川さんからあれこれ聞き出すことで、何とか形にまとめることができました。お仕事が過去最大の修羅場を迎える中、時間を取っていただき何とか形になりました。というわけで北信については心残りはありません。戸隠蕎麦を食い倒れとか、熊探しとか、登山とか、小布施とか。ネタはありますが、とりあえずやりきりました。話は逸れますが、AC長野パルセイロレディースの大久保舞選手のインスタグラムはとてもかっこいいので、皆さんフォローしてください。
松本については、著者が多かったこととスケジュールの関係で、松本市街で食い倒れ飲み倒れをするという内容になっています。この文章で表現したかったのは松本の人の「人なつっこさ」です。すぐに友達ができて、すごく楽しい気持ちになる不思議な都市の魅力が存分に表現できたと思います。
実は当初の予定では上高地や穂高に宿を取って、野生のライチョウを探しに行くつもりでした。もっとも冬のライチョウ探しはスキーが必要なので諦めましたが、山側の魅力ももう少し踏み込みたかったというのが1点目のやり残し。あと、山形村の木鶏さんに行けなかったのとか、我茶我茶さんがこの日に限って空いてなかったのとか。色々ありますが。一番のやり残しは、松本山雅FCのコールリーダーをつとめたようへいさんが不在であることです。
古川さんに話してもらうなら、ようへいさんにも話してもらうべきだったのですが、そこまで手が回っていなかったのと、ようへいさんは人前に出るのはあんまり好きじゃないかなぁと勝手に思ってしまったのと。
松本山雅サポーターは、日本の文化史という大きな枠組みにおいても特異な存在であり、その舵取りをしてきたようへいさんの話が入っていないと、真の意味ではこの本は完成していないのかなという気がしています。 ただ、いわき戦で訪れたときに、神林の休憩所でお会いして本を渡すことができました。前に一緒に飲んだとき、ぼくは泥酔していたのであまり内容を覚えていないのが悔やまれます。
今年3回目の信州ダービーまであと1ヶ月。8位の長野パルセイロの昇格は厳しいラインとなっています(まだまだわかりませんが)。一方で好調の松本山雅は9月20日現在、暫定3位。
松本はJ3での勝ち方を覚え、長野は例年どおり勝ちきれない。となると結果は、松本の圧勝。 ……とはならないだろうと思います。前回の信州ダービーの際には、長野パルセイロはまったく別のチームのように強かったです。松本戦のときだけ、選手が全員1.5倍速になっていました。
長野としては松本にだけは絶対に負けたくないことでしょう。一方で松本は、昇格のためには1勝も落とせません。両サポーターは肝が冷えながらの観戦になると思います。ぼくも雨が降らないことを祈りながらアルウィンで勝負の行方を見守りたいと思います。
ちなみに前日にベススタでアビスパ福岡の試合をみたあと、飛行機で松本空港までいきます。松本空港からアルウィンなら流石に歩けるかな。
信州のおいしい地酒が知りたい(薄荷)
デザートには、ケーキよりも日本酒がいい。
なんだか幸せなことがあった日。反対に、しんどいことがあった日。
夕食の後、お気に入りのお猪口に日本酒を注いで(貴重な銘柄や、プレゼントで貰った大吟醸など、「ちょっといいやつ」であることが多い)、ちびちびと味わう。自分を甘やかすための、至福の時間である。
昔はその気になれば一晩で四合瓶を空けることもできたのだが、訳あって断酒を始めてからすっかり耐性がなくなって、ほんの一杯で満足できる身体になってしまった。
私にとって日本酒とは、特別なときに大切に呑むもの、という認識になった。
かつて私が酒豪であったことを知る友人たちは言う。
「信州は酒どころだから、いいよねえ」
ところが、この言葉が私にはいまいちピンとこない。
好きな日本酒を挙げよう。まず、山形県の「出羽桜」。手に入りやすいお店を知っているので、私にとってはカジュアルに呑める逸品だ。いつもストックしているのは、三重県の「作」。これの無濾過中取りが家の冷蔵庫にあれば、どんな仕事でも頑張れる。埼玉県の「花陽浴」、秋田県の「雪の茅舎」にも、目がない。
どれもこれも、県外のお酒ばかりだ。
地元である信州の地酒が思いつかない。
今も長野県松本市に暮らしているし、お酒の付き合いも少なくないのに、である。
銘柄はいくつも知っている。
ダントツの知名度を誇るのは、諏訪市の「真澄」。松本山雅FCオリジナルラベルがあり、スーパーでもよく見かける。同じく諏訪市の「御湖鶴」は、なんと福島県にいわきFCとのコラボラベルが存在する。上田市の「亀齢」は最近大ブレイクで、つい限定酒を手に入れてしまった。他にも「夜明け前」、「大信州」、「七笑」、「佐久の花」、「オバステ正宗」、「豊香」に「ソガペールエフィス」……。挙げていけばキリがないほど、信州にはたくさんの日本酒がある。
こんなに挙げられるのだから、「なんだ、詳しいんじゃないか」と思われそうなのだが、実はほとんど呑んだことがない。もしくは、味を覚えていない。
多分、特別感がないのだ。
お酒を嗜むということは、旅をすることに似ている。
遠く離れた土地に思いを馳せ、普段は口にできないものを味わうのが、私はきっと好きなのだ。
「今夜は自分にご褒美をあげたい」なんて、ほんの少しの贅沢をするとき、なかなか行けない土地の日本酒はちょうどいい。
あるいは実際に旅をして、その土地の思い出とともに口に含むのが楽しいのである。
信州をおとずれるアウェイサポーターにも、きっと同じ気持ちの人がいることだろう。そんな人たちにおすすめしたい地酒が思いつかないのは、酒好きとしてちょっと寂しいなあと思う。
でも案外、いつもはここに暮らしていない人のほうが、お気に入りの逸品を持っているものなのかも知れない。
冷蔵庫に所狭しと並んだラベルたちを見ながら、そんなことを考えている。
もったいなくて、ちっとも減っていかない私のデザートたち。
もしも同じように信州の地酒を愛している人がいるのなら、こっそり私に教えていただきたい。
そうして、お互いの「ちょっといいやつ」をカジュアルに贈り合うのも、ひとつの旅のかたちであるような気がしている。
信州編の取材から約一年。さかまきと信州は今!?(キャプテンさかまき)
すたすたぐるぐる信州編の発売から、半年近くが経とうとしている。取材へ出かけたのはそれより前の昨年の秋だったので、およそ1年の月日が流れたことになる。その間に、サッカーの世界では2022年のシーズンの大半が消化され、残すところは終盤戦といったところ。地域リーグでは優勝チームが決まったところも出始めていて、シーズンの終わりを少しずつ感じる季節だ。
信州編が発売されて以降も、私は応援している東京武蔵野ユナイテッドFCの応援をはじめ、すたすたぐるぐるシリーズの取材のために日本各地へと訪れている。そのため信州編が発売されて以降はなかなか長野へと向かう機会が取れないのは残念だが、信州との繋がりは今でも健在だ。今回は、そんな「私と信州」の近況についてお話ししたい。
信州編が発売されて以降、長野県出身の知り合いに会うたびに「実は、長野の本を書きまして……」と紹介するようになった。その紹介で買ってもらえたかどうかは微妙だが、意外と食いつきは良好だ。感想も、「長野から松本まで自転車で行くのは狂ってる」「サッカーの本なのに自転車に乗ってるのはなぜ?」「飯田にサッカーチームがあるなんて知らなかった」「マサムラのシュークリームあるけど食う?」などさまざまだ。今度は東京から松本まで自転車で行く企画も検討してみたい。甲州街道を通るとルートの半分以上が山梨県だが。
また、信州編を書いたことで長野県への愛着はさらに高まった。親戚や友人がたくさん住んでいることもあって好きな県の一つではあったが、本まで書いちゃったとなったら贔屓にせざるをえない。
ということで、毎年行っているふるさと納税の納税先として、アザリー飯田の取材のために訪れた飯田市を選ぶことにした。飯田の街の雰囲気は非常によく、そのお礼も込めて納税をすることに決めたのだ。
飯田といえば、記事の中にも登場するように焼肉の街としても有名だ。そんな飯田市だから、返礼品にももちろん焼肉セットがある。特に目を引いたのは、遠山ジンギスと呼ばれるジンギスカン。飯田市の最も南に位置する秘境・遠山郷ではジンギスカンが盛んなのだそうだ。そういえば昔、諏訪から磐田までマウンテンバイクで走破した時に訪れたことがあったが、当時は自転車で走るのが一番でグルメまで手が回らなかった。遠山郷についた時点で既に昼過ぎで、兵越峠を越えるために急いでいたと言うのもある。
返礼品を選んでから数週間。家に大きな冷凍の荷物が届いた。ジンギスカンと言いながら、羊以外の肉もたくさん。写真に羊の肉が無いのは、勢いあまって先に食べてしまったから。鶏や豚肉の他、鹿や猪といったジビエ類も揃っていてなんともお得だ。結構な量があるので、親類も呼び寄せてのジンギスカンパーティーを開催したのだが、臭みもなく、しっかりと味がついていて大好評だった。来年は今年以上に納税をさせて欲しいところだ。
昨シーズンは惜しくも北信越リーグ昇格を逃したアザリー飯田。今シーズンは既に県リーグの連覇を達成し、2年連続での北信越チャレンジリーグへと挑戦を控えている。今年は育休中ということもあって残念ながら試合観戦は難しいが、遠く東京から応援している。
信濃の山よ、ありがとう(Harako)
山登りが好きだ。
登山をしてから最寄りのスタジアムで観戦する「山のちサッカー」を記事テーマのひとつとしており(スケジュールの兼ね合いなどで最近意外と実現できていないのは内緒)、すたすたぐるぐる信州編でも茶臼山とUスタ、焼岳とアルウィンの2本を執筆した。
そう、信州は言わずとしれた日本を代表する山岳地帯。
そんな土地で私が、本格的な登山の世界に足を踏み入れたときの思い出を書きたい。
私は何を隠そう、運動が本当に苦手な子どもだった。体育の授業はトラウマである。
サッカー観戦が好きなくせに、球技は特に下手くそだ。
ボールこわい。こないで。
高校までは吹奏楽部で、文化部の中では比較的体力を使うとはいえ大した運動習慣はなく、疲れやすく、体重も今より10キロ近く重かった。
大学には吹奏楽部がなかったので、何か別のことをやろうと思い、
「遠くに出かけられる部活がいい」
「運動はしたいけど競技スポーツはいやだ」
など色々ワガママなことを考えた末、ワンダーフォーゲル部に入ってみることにした。
そして部活で初めて登った山が、長野県南部にある|蓼科《たてしな》山(標高2531m)だったのだ。
金曜の夜に東京を出て普通列車で移動し、駅前で野宿して翌朝に登山口へ、といういかにも学生登山らしい行程だった。
金曜に友達から合コンに誘われたが「山に行くからごめん!」と颯爽と断った。今思えばあれは人生の割と大きな分岐点だった気がしなくもないが、後悔はない。
人生初の合コン、いや、本格登山。
歩き始めてすぐの感想は「きついな……」だった。
慣れない大きなザックを背負い、前を歩く先輩の後ろをついて行くのが精一杯。
しかし、何とかついて行くことはできた、というのが私にとってはとても大きかった。他のスポーツでは「周りと同じことをする」のがまず無理だからだ。
30分ほど歩き、岩場に座って最初の休憩を取った。
夢中でごくごく飲んだポカリスエットと、先輩にもらったカントリーマアム。どちらもこの世のものとは思えないおいしさで衝撃を受けた。
まだ山の名前はぜんぜん知らなかったが、何やらカッコいいフォルムの稜線と雲海が見渡す限り広がり、気持ちのいい風が吹き抜けてゆく。
ふと、不思議な感覚にとらわれた。
とても心が踊りワクワクしていながら、お風呂につかっているような心地よさもある感覚。
たぶん、ここは私の居場所だ。
私は山登りが、一生好きだろうな。
信州の山並みを眺めながら、そう思った。
その後蓼科山に無事登頂し、帰りの温泉も含めて初めての登山を満喫した私は、すっかり山の世界のとりこになった。
それから15年近く登山を続け、おかげで今は中村慎太郎さんに「俺を置いてスタスタ登りやがって」と恨みごとを言われる程度の体力はついた。
体型も高校のころよりずっと引き締まっているし、太りにくくなった。
何よりも、登山はおもしろい。
登る山を選び、計画を立て、荷物を準備して山道を歩き、とてつもなく美しい景色を眺め、地上の数十倍は美味しく感じる食事をする。その行為のひとつひとつが、何度くり返しても本当に楽しい。
すべては、あの日の蓼科山から始まった。
信州の山々よ、本当にありがとう。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
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サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…