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古着の山に埋もれていた、謎の刺繍サンプラー

 こんにちは、owarimao です。いまはマクラメに熱中していますが、編物・手芸全般に興味があります。
 先日、クロスステッチの図案を使ったマクラメ作品を作ったところ、たくさんの方に見ていただきました。

 この朝顔の図案の載っている本がこれです。ドイツの古い刺繍サンプラーを集めた図録です。

Ulrike Zischka
"Stickmustertücher aus dem Museum für Deutsche Volkskunde"
Gebr.Mann Verlag, Berlin 3. Auflage, 1985

 この本は「ずっと前から持っているもので、いつどこで買ったかも忘れた」と書きました。ただし買った動機ははっきりしています。それは、次のようなサンプラーを手に入れたことです。

 1995年にドイツ・スイスを旅行したときに買いました。ちゃんとしたお店でではありません。どこかの町の朝市みたいなところで、古着の山に埋もれていたのを偶然見つけたのです。値段も覚えてないので、「古着」なみの値段だったと思います。
 でもよく見ると、1876という数字が刺繍してありますね。これを信用するなら、19世紀のものということになります。
 ほんとかな?

 毛糸で刺繍してあるのですが、色合いが妙に鮮やかで人工的な感じなのが気になりました。19世紀にこんな派手な毛糸が使われていたんでしょうか。 
 買って帰った直後、数人の人に見せましたが、反応はビミョーでした。当時は今みたいなSNS全盛ではなかったので、それきりしまいこんで、なかば忘れていました。
 でもたまたま上にあげたような本に出会い、中を見てみると、私のと良く似た作品が載っているじゃありませんか。

 やっぱり、19世紀のものだったんだなと思いました。
 刺繍のサンプラーは、昔の女の子が一種の花嫁修業として作ったもので、「郷土史博物館」みたいなところによく飾ってあります。それほど珍しくないのでつい粗末に扱われ、古着の山にずっと埋もれることになったのでしょう。
 そう思ってよく見ると、歳月を感じさせる部分があります。

毛糸がすりきれていたり
布が破れていたり

 ところで、こうした古いサンプラーを見ていて不思議に思うのは、「J の字がない」ということ。
 もう一度サンプラー全体の写真をごらんください。私が持っているものも、本に載っているのも、アルファベットの「 J 」 の字が欠けています。
 現代のドイツ語では「 J 」を「 Y 」 のように発音します(Japan はヤーパン)。「 J 」はよく使われ、「 Y 」はほとんど使われません。でも多くのサンプラーには、前者がなくて後者が入っています。
 ネットで検索したところ、「アンティーク」の中でも比較的新しいものは「 J 」 の入っていることがありますが、19世紀だと入ってないのがふつうみたいです。
 下の写真は古いクロスステッチのお手本。やっぱり、 J がなくて Y はありますね。

 J は I から派生した、比較的歴史の浅い文字だといいます。でも19世紀にはちゃんと存在していました。だから、なぜこの文字を刺繍しないのか不思議に思います。
 (こんなことを気にするのは私だけ?)
 もう一つ不思議なのは、下の写真の中の赤い文字です。
 SとTが組み合わさったようなものがありますね。

 ここにも謎の組み合わせ文字が。

 こういうのは、ほかでは見たことがありません。こういう文字は(少なくとも公式には)存在しないと思います。
 ドイツ語には「st」で始まる単語がたくさんあります。推測ですが、このサンプラーの作者は St…という姓を持っていたのでしょう。たとえば Stein とか。この謎の文字は、S と T を組み合わせたオリジナルの「モノグラム」なのではないかと思います。

 おそらく幕末の生まれである St… 嬢。彼女がサンプラーを刺繍した1876年は、日本でいえば明治9年です。彼女はどんな人生を送ったのでしょう?



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