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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第15話

第15話 とある帰還 とある噂

ーー前回ーー

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「ふぁあぁあああ。」

太陽城、雲の宮殿。
別名、コウモリの洞窟。
ここは太陽王直下 調査部隊の拠点であり、太陽城正門の外にぽつんとたたずむ宮殿である。

「あら、坂上さん。なんかお疲れね。」
2階の広間には、大きな欠伸をしながら外を眺める坂上がいた。目の下には少しクマができているようだ。

「あ、ミドリさん。おはようございます。そうですねぇ。私も幸十くんたちと一緒に、太陽の泉へ行ければ良かったのですがね。」
「本当よ!!こんなとこにずっと居たら、副隊長のように心が腐っちゃうわ!」
ミドリは、コーヒーをすすりながら言った。

"っぬ"
「・・・俺がなんだって?」
「うわっ!!?ビックリした!!ちょっと!いきなり背後から出てこないでよ!!」
「いきなりとはなんだ、いきなりとは!ずっとここにいたぞ!人を化け物みたいに言うなよ!」
「何よ!もう化け物とそんな変わりないでしょう!」
「化け物と変わりないってなんだ?おい!」
「やだ、臭い!またお風呂入ってないんでしょ?!近寄らないで!」
「今度はバイ菌扱いかよ!!」

ミドリとバンが言い合いをしているところを、我知らずと坂上は再度気持ちよさそうに伸びをした。

"スリっ"
「にゃ」
そんな坂上の足元に擦り付いてくるクロ。

「あ、クロ。おはようございます。よく眠れましたか?」
坂上の問いかけに答えず、クロは何やら奥の階段エントランスの方に視線を移した。

「?クロ?」
坂上もクロの視線をたどり階段の方を見ると、何やらこちらに上がってくる足音が聞こえてきた。

"コツ、コツ、コツ、コツン"
「全く・・・相変わらずうるさいですね、ここは。」
「た・・ただいま・・・。」

階段を上がってきて現れたのは2人の少年・・・・・だった。
やけに偉そうな態度の少年と、おどおどと挙動不審の少年。まるで正反対だ。
黒いコウモリの翼を羽織り、紫紺の隊服を着ているところをみると、コウモリ部隊の隊員のようだ。

「あら、あらあらあら、おかえり。伊久いくがくちゃん。」
ミドリはバンの体臭を避けようと、全力でそこら辺に散らばっていた書類を駆使してバンに風を送っていた。
そんなミドリとバンの様子に、1人の少年がため息をついた。

「はぁ・・・その呼び方やめてくださいって、何度言えば分かるんですかね?馬鹿なんですか?その年で学習能力失くしました?」
赤茶のストレートな短髪に、分厚いゴーグルを頭にかけた少年。
少し吊り目がちな瞳は、その態度と同様、偉そう・・・に見える。

「ぉお、おかえり。2人とも・・・って・・・セカンド2人組・・・・・・・は?なんだ、ひどい怪我でもしたのか?」
「まさか。ピンピンしてますよ。」
「じゃあ・・・」
「2人は・・・その・・・・食堂に行っちゃって・・・・」
バンが聞くと、もう一方の少年が片方だけ編み込んだ髪を触りながら小さな声で言った。

「全く・・・。食べるか、寝るか、騒ぐか、戦うか。それしか頭にない人たちですよ。相変わらず。今回で改めて実感しました。」
赤茶髪の少年は、ほとほと嫌気がさしたような表情で部屋に入ってくると、散らばった書類をどかしてソファーに座った。

「はぁ・・・」
"カチャ"
「お疲れ様でした、伊久磨いくまくん。先ずは休んでください。ほら、がくくんもそんなところで立ってないで、こちらへ。」
坂上がお茶を少年2人に出した。
がくと呼ばれる少年は、臆病なのか姿勢は猫背のまま坂上のいる方へ向かっていく。自身の持っている横かけバックの持ち手をぎゅっと握りながら、伊久磨いくまと呼ばれる赤茶髪の少年の隣に座った。
そのお茶を見て、伊久磨いくまはミドリやバンをじっと見た。

「なに、どうしたの?」
「なんだ?」
見つめられた2人は何かと聞くも、再び伊久磨いくまはため息をついてお茶を飲んだ。

「・・・いや、帰ってきた隊員に隊長がお茶を出すとは・・・。他の居残りさんたちはやけに忙しいようで。」

"ピキッ"
「何よ伊久いく坊?だったらおねーさんが、肩揉みしてあげようか?強揉みで。」
「俺もやってやろうか?」
怒りマークをひたいに掲げ、手を鳴らしながら伊久磨いくまに近づく2人。

「いやいいです。触らないでください。特に副隊長は、特に。」
「おっまえ・・・相っ変わらず口達者でいい性格してんな。一応俺たち人生の先輩だからな。」
「先輩なら先輩として、見本を見せて欲しいですね。」
目をギラギラさせ、伊久磨いくまに襲い掛かろうとするバンとミドリを、がくが必死でなだめた。

「い・・・いっくん・・ほどほどに・・・」
そんな様子などお構いなしに、伊久磨いくまは坂上が用意したお茶を再び口に入れると、隣にいた坂上に身体を向けた。

「今回、収穫なかったです。通報者の家から鳥界境ちょうかいきょう付近まで行きましたが。失踪した子供は見つかりませんでした。」
その言葉に、坂上は特に残念がる様子もなく頷いた。

「そうでしたか。無駄足を踏ませてしまいましたね。」
「いえ・・・。消えて2日くらいしか経ってませんから。見つかる可能性はあると思ったんすけど。」
「ええ。」
そんな坂上の様子を暫くじっと見つめると、伊久磨いくまは少し間を置いて言った。

「ーただ・・・少し情報は得ました。鳥界境ちょうかいきょう入り口で数日前、別件で失踪した子供・・・多分ロストチャイルドに関連した子供が見つかったそうです。見つかった時、不審な大男・・・・・がそこにいたとか。」
「大男・・・ふむ。」
「はい。男の特徴は、何とも大きなゴリラのような体型、歩き方。そして、無造作に生えた長い青い体毛に覆われた姿・・・。本当にそんな人間、いるのかと思ってますが。」
「そうですねぇ・・・。。鳥界境ちょうかいきょう入り口ですか・・・。ソール軍・・・・の拠点近くですね。」
坂上は何やら考え込んだ。

「マダムも出ましたよ。ソール地方と、太陽の心臓との境目ですが。」
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫もなにも、水を得た魚のようにあの2人・・・・はマダムを叩きのめしてましたよ。本当。こっちの作戦を聞こうともせず突っ走るから。たまったもんじゃない。」
「あはは。そうでしたか。」
「笑い事じゃないですよ。」
クスクス笑い聞く坂上に、伊久磨いくまは不服そうに訴えた。

「そう言えば・・・人数少ないですね。他の地方でも何かあったんすか?」
伊久磨いくまが周りを見ながら聞くと、坂上は両手を叩いた。

「ぁあ。そうそう、仲間が増えましたよ。1人。」
「は?」
また何を言い出すのかと、驚きを隠せない伊久磨いくま
咄嗟にバンが奥から口を挟んだ。

「仮な!仮!!!」
「幸十くんと言うのですが、身体がボロボロだったので、療養兼ねてシャムス地方の太陽の泉へ行ってもらってます。ココロくんたちと一緒にね。」
すると、伊久磨いくまは何かを思い出すように考え始めた。

「ー太陽の泉・・・太陽の泉・・・あぁ、そう言えば・・・帰ってくる時、街の人が太陽の泉の一帯が封鎖されてる・・・・・・・・・・・・・・って、よく分からない話してましたけど。」
「え?」
「それ本当?」
「・・・・。」
伊久磨いくまの言葉に、周囲がシンと静まり返る。


「・・・さぁ?ただの噂ならいいですね。」
ミドリの問いに、伊久磨いくまは我知らずと再びお茶を口にした。


ーー次回ーー

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