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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第16話

第16話 首都 シャムス

ーー前回ーー

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「うわぁ~。なんや、首都はあっかるいなぁ~。」
「きらきら。」
「さっちゃん、キラキラしたものが好きなの?さっちゃんの目も今キラキラしてるよ。」

シャムス地方の首都シャムス。
年中雪雲に覆われているこの地域の中でも、豪雪地帯として有名な地である。
そんな首都シャムスだが、どんよりとした雲など関係ないと言わんばかりに街明かりが多数灯され、街中は人も多く賑わっていた。赤やピンク、緑に黄色・・・色とりどりに輝く首都の光景に、幸十も目を奪われていた。

「人、結構多いですね。」
ココロもソリから顔をのぞかせ、賑わう街並みに驚いていた。

「多いもなにも、シャムス地方の中で一番人口が集まる土地だからな。それに太陽の心臓には負けるが、他地方の首都の中では、シャムスが一番人口が多い。」
風季が外を見ながら言った。

「そんなにですか?各地方の全体数で言えば、一番人数が少ないはずですが・・・やけに人口が首都に密集してるんですね。」
「まぁ、首都ここには地方庁もシャムス軍の本拠地もあって、シャムス地方の中では安全地帯って言われてるからね。その分、人も集まって商売も発展しやすい。このシャムス地方は、直接対面はしてないけど、海を越えれば月族領地にとても近い地域でもあって、休戦に入る前は激戦区でもあったんだ。今もマダムの発生率は結構高い。だから、シャムスで暮らす人たちにとって、ここは少しでも安まれる唯一の場所なんだ。」      
いたるは立ち上がると、到着に向けて身支度を始めた。

「もうそろそろ、地方庁につくよ。シャムス軍に用があるんだろう?シャムス軍の拠点は、丘を上がったあそこ。水色の太陽の旗、見えるかな?」

いたるが指さす高台に、大きな水色の旗を掲げた建物が見えた。
旗の中央には、太陽族を示す太陽のマークが記されている。遠い現在地から見ても、立派な大きな建物だとわかった。
「げっ。あの丘を登らないと行けないの?・・・ココロさん、俺行かなきゃだめ?」

げっそりした琥樹こたつが、一歩も歩きたくないと表情で訴える。
「うん。セカンドの琥樹こたつはいてほしい。」
「ぅう・・・セカンドだけど・・・俺まだ力回復してないよ?」

半泣き状態で再び訴えかけるも、ココロは気にも留めない様子だ。
"ガタっ"
「うわっ!」
"グラッ"
「わわわっ」

ソリが石にぶつかり、軽い衝撃が幸十たちを襲った。
「首都入ると地面の雪が消えっから。ソリじゃ分が悪いな、本当。へへっ。」
「・・・雪は降るのに、地面に積もらずどこに消えるの?」

ペポとラビに膝を占領され動けずにいる幸十は、近くでお酒を飲み続ける那智に聞いた。
「あ?そりゃみんな雪を食ってんだよー。お前みたいにな。ケケッ。」
「俺はまだ雪を食べたことがない。」 

真面目に答える幸十をよそに、お酒を飲んでケラケラ笑っている那智の耳を風季がつねった。
「いっててて!何すんだよ!」
「真面目に答えてやれ。まったく・・・。ここはシャムス軍のセカンドたちの力で、降った雪を溶かして生活水として貯めてるんだ。」
「溶かす?どうやって?」
「雪に熱を加えればいいんだ。少し感じていると思うが、首都に入って少し暖かくないか?」

たしかに風季が言うように、先程までは肌寒かったが、今はコウモリの翼も外したくなる体感温度だ。
シャムスに行くことになり、幸十たちはある程度着込んできたが今は少し暑い。幸十は少し考え、コクリと頷いた。
「それは、シャムス軍にいる火の能力・・・・を持ったセカンドたちのお陰だ。地面を直接焼いている訳ではないが、特殊な管をつたって、地面の中の土を温めているんだ。だから、地面に積もった雪はその熱で溶け、水として貯蓄・活用される。」
「ほぉー!地面を温めるなんて、そんなんできるんか!すごいなぁ?!誰がそんなん思いつくんや?!」

その言葉に、風季はクスッと笑った。
「うちの団長だよ。」
"ビクッ"
いたるはんが?!ほぉ~、すごいなぁ。その特殊な管ってどんなものか知りたいわ!」

いきなら話を振られ、肩をびくつかせるいたる
「い、いや、そんなすごいことでは・・・」

"ヒラッ"
いたるが謙遜していると、何やら荷造りしていた箱から紙切れ・・・が風に飛ばされ出てきた。
そのままココロの足元に落ちる。

「?」
ココロがその紙切れに手を伸ばすと、そこにはシャムス地方の地図が記され、所々赤点が記されていた。

「・・・地図?」
ココロが見ていると、いたるが気づいた。

「あ・・・それは、僕たちサーカス団が行った場所を示した地図だよ。赤点がすでに行った村や街の場所なんだ・・・ゴフォ!」
「あー、団長~。血を荷物につけんでくださいよ~」

那智は酒を振りながら、血を吹き出すいたるに言った。そんな那智に、手伝えと風季は頭を叩く。
ココロは落ちてきた地図を少し見つめると、そのまま箱に戻した。

"ブルルルルゥゥゥウウ!"
すると、ソリを引っ張っていた鹿たちの足が止まった。
「あ・・・着いたようだね」

幸十たちが顔を上げると、そこには大層立派な建物が目の前に佇んでいた。
周りは住宅街やお店などの建物がぎっしりと並んでいる。
青や水色などのレンガで統一された建物は、街全体に味を出し、そこの一角に、大きな時計をはめた立派な建物が現れた。
ドーム型の屋根は、どこか太陽城の光の宮殿を感じさせた。

「うわー!これが地方庁か?なんや重厚な建物やな。」
「ジュウコウって?」
「しっかりとした建物ってことだよ。さっちゃんも降りよ。俺まだ体に力入らないから、支えて。」
先程まで膝にいたペポとラビも、いつのまにかソリから降り、暖かい地面の上をぴょんぴょん跳ねていた。久々の首都なのか、嬉しいようだ。
イタルアサーカス団員たちも、それぞれ準備をしているとー

「お!いたるさんおかえりで!!」
いたるさんじゃないか!!」
「帰ってきたのか!?」
「イタルアサーカス団だ!!」
首都に住んでいる人々が、続々といたるたちに向かって集まってきた。

「あ、みなさん。お久しぶ・・・ゴフォ!!」
「あっはっはっはっは!血吐きは健在のようだな!?」
「本当、身体こわさないでくれよ?!」
「また血はいてる!!」
どうもいたるの血を吐く光景は日常茶飯事のようだ。まったく動じない首都の人々。

「人がいっぱい。」
琥樹こたつを支えながら降りてきた幸十は、いたるたちの周りにいる沢山の人々を見た。
いたるだけではなく、那智や風季、榛名にも人が集まっている。ペポとラビなんかは、お菓子を大量にもらっていた。一種のお祭り騒ぎだ。
後方のおりにいる動物たちも嬉しそうに鳴き、近くにいたもう一人のサーカス団員、黒いフードを被ったアカリになだめられていた。

"ガチャ!"
すると、地方庁の大きな扉が開けられたかと思うと中から誰かが走って出てきた。
"タッタッタッタッタ!!"
「庁長!!ちょ・・庁・・・長ーーーー!!!」

もこもこのニットの帽子を被り、眼鏡をかけた小太りの男性が、いたるに向かって一直線に走ってきた。
”ドンッ!!”
「ゴフォ!!ゴフッ・・・一旦帰ったよ。ゲイン。留守番助かったよ。」

ゲインと呼ばれる小太りの男に、思いっきり抱きつかれた反応で血を吐くいたるいたるの服は、ゲインの涙によりあっという間にびしょ濡れになった。
「ぅう・・・このゲイン・・・も・・もう・・・庁長がいないと無理です・・・ス・・・ストレスで・・・し・・・死んでしまい・・・ます・・ぐすっ・・」
「うわ、何、どうしたんだ。とりあえず顔を・・・」
「あ、はい、ズピィィィィィイ!!!」
「え」

思いっきりいたるの服で、鼻水を拭くゲイン。
すると、続々と今にも泣きそうな地方庁の職員が外に出てきた。
「ん?何が・・・」

違和感を感じたいたるが顔を上げた時ー



"ドドドドドドドドドドドドドドドっ!!!"
くぉぉぉぉぉぉぉぉおおおらぁぁぁぁぁああ!!!!



「っうわ!!」
「な、なんや?!!」
「え、な、なに?!マダム!?」
凄まじい地響きとともに、地方庁の開いた扉からこれまた凄まじい怒鳴り声が響いた。立派な地方庁の建物が、声量だけで壊れそうだ。
幸十たちも驚き、地響きで体制を崩したまま唖然とする。

いたるは何かに気づき、ガリガリの頬をかき苦笑いをした。
「あー・・・ははは、シャムスの女王様・・・・・・・・はご機嫌ななめのようだな・・・。」



ーー次回ーー

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