栗原心愛さんの死(6) 児相の抱える矛盾

▼児童虐待にまつわる、『文藝春秋オピニオン 2019年の論点100』の該当箇所を以前、紹介した。もう一度紹介しておきたい。

▼家庭問題カウンセラーの山脇由貴子氏による解説である。

■児童福祉司に資格試験はない

▼まずもって重要な点は、〈ただ、児童福祉司を責めても問題は解決しない。矛盾した役割を担わされるという構造的な問題があるからだ。〉(128頁)という指摘だ。

そもそも、児童福祉司には国家資格などはない。地方公務員が、人事異動で配属される職種だ。いくつかの条件はあるのだが。今回の事件をきっかけに、国家資格試験も含めて検討が始まっているようだ。

▼2019年2月9日付の各紙に載った共同通信記事によると、

〈児童福祉司は任用資格。社会福祉士などの資格を持っていたり、大学で心理学を学び、実務経験を積んだりするなど条件を満たすことが必要となる。

 一人前に仕事ができるようになるまで3年はかかると言われる。死亡した野田市の女児を担当していた千葉県柏児相も最近増員された影響で、児童福祉司の平均勤務年数は4年余り。「ベテラン未満」が多い。〉

児童福祉司は極めて大きな責任を負っている。資格制度が確立し、給料がよくなれば、法制度が問題解決に一歩近づく。

■矛盾する役割 「こどもの保護」VS「親の信頼」

▼児相が抱える矛盾は、具体的には以下のようなことだ。

児童相談所は虐待が疑われる子どもを親の同意なく、強制的に保護できる権限を持つ。一方で児童福祉司は、親との信頼関係を作れと言われる。

 子どもを突然、保護されれば親は激高して、「子どもを帰せ」と児童相談所に押しかけて来る。子どもを守る為であるならば、親との対立は避けられないのだが、親との信頼関係のほうを重視する児童福祉司が存在するのも現実だ。

 目黒の事件でも、担当福祉司が家庭を訪問したが、母親に面会を拒まれ、子どもに会わないまま帰っている。これも、やはり親との信頼関係を優先させたのではないだろうか。〉(128-129頁)

▼「子どもの保護」と、「親の信頼」。全国の児相の職員は、この矛盾を抱えながら仕事をしているわけだ。

目黒の事件のように、今回の野田市の事件も、〈やはり親との信頼関係を優先させたのではないだろうか〉と思わせる報道が多い。

▼山脇氏は、子どもの保護を担当する「初動チーム」と、親との信頼関係づくりに徹する「指導チーム」を設けることを提案している。

必要なのは、児相との連携を担う警察の部署を明確化すること。その上で、目黒の事件のように、親が児相職員へ子どもの姿を見せることを拒否した場合、警察への通報を原則とすべきだろう。警察官と一緒に、児相職員が子どもの安全確認することをルール化するべきだ。〉(129頁)

▼〈親との信頼関係のほうを重視する児童福祉司が存在する〉のは当たり前だろうし、そこを責めてもなにも価値は生まれないのが「構造的な問題」の構造的な所以だろう。(つづく)

(2019年2月10日)

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