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「見出し」の効用 読み比べ 自殺統計をどう報じたか

▼新聞の「見出し」は大きな効果を持っているが、一つの新聞だけを読んでいたら、その価値に気づかない場合がある。

▼2019年1月18日付の各紙夕刊に、自殺者数についての発表報道が載った。適宜改行。

朝日 2段見出し〈昨年の自殺者 9年連続減

警察庁が18日に発表した自殺統計によると、2018年の自殺者は2万598人(速報値)で、前年より723人(3・4%)減った。9年連続の減少で、2万1千人を下回ったのは37年ぶり。

ただ、厚生労働省による18年1~11月の自殺者の分析では、19歳以下は16人増の543人となり、2年連続で増加した。

▼朝日と日経の記事によると、統計を発表したのは警察庁で、厚生労働省が1月~11月の統計をもとに分析したそうだ。東京新聞の記事によると警察庁が発表したことは載っているが、厚労省の表記はなし。読売の記事だと厚労省と警察庁が一緒に発表したそうだ。

毎日 4段見出し〈自殺者9年連続減/18年2万598人 未成年女性は増加

読売 3段見出し〈自殺2万598人 9年連続減/昨年 未成年は2年連続増

東京 3段見出し〈未成年女性の自殺増加/18年 総計2万人、9年連続減

日経 囲み記事〈自殺者9年連続減少/18年、723人少ない2万598人/19歳以下は増加 「学校」が主因に

▼見出しになった事実はおもに2つ。

1)自殺者が9年連続減ったこと。

2)19歳未満の女性の自殺が増えていること。

1)を大きく扱っているのは朝日、読売、毎日、日経。2)を大きく扱ったのは東京。

2)については、朝日は見出しに入れず。読売は〈未成年〉、日経は〈19歳以下〉と表記。毎日と東京が〈未成年女性〉と明記していた。

▼未成年は、男性が35人減ったが、女性が51人増えた。この件について、日経はライフリンクの清水康之氏のコメントを載せている。このコメントが事態をよく要約していた。

2016年の自殺対策基本法の改正を受けて全国の市町村が対策に取り組んでおり、地域レベルの動きが減少傾向を後押ししているのではないか。

 ただ、判明している年代別のデータでは19歳以下の女性が急増している。背景に会員制交流サイト(SNS)を通じた性暴力被害や保護者からの虐待増加がある可能性があり、精緻な実態分析をし、対策を取るべきだ。

危機に直面したときに誰にどうやって相談するかといった「SOSの出し方」を学校で教え地域の専門家とのつながりを持たせることが急務だ。

▼ということで、各紙とも一長一短であり、複数紙を読むと全体像の輪郭が見えてくる。

筆者は、19歳以下の自殺の原因が「学校」であることを見出しに選んだ日経の判断がよかったと思う。

(もっとも、このニュースの場合は、警察庁と厚労省の発表を自分で直接読めば一番正確な情報がわかる。もちろんこの選択肢は意識しておいたほうがいいのだが、個別のテーマについてすべて調べるわけにはいかない。)

▼各紙がコメントをとってくる人たちは、その分野を代表する専門家であることが多い。だから、個人的に引っかかった専門家がいたら、その人のこれまでの発言を追いかけることで、さまざまな次元の情報を集めることもできる。

▼あるニュースに自分の中でフラッグが立った場合、同じニュースが他の新聞でどう扱われているのかを比べてみることをオススメする。

(2019年3月10日)

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