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外国人が来なくなる国 移民問題あれこれ

▼2018年11月26日付日経新聞に、「外国人が来ると日本人の失業率が上がる」という俗説を否定する論説が載っていた。

〈外国人労働者を受け入れると、競合する日本人の労働者に好ましくない影響(賃金の低下や失業率上昇)をもたらすという論調もある。しかしこれまでの実証研究から、外国人労働者受け入れは自国の労働者の労働条件に大きな負の影響はないというのが一般的だ(OECD「国際移民アウトブック2016」など)。/もし自国の労働者に影響があるとしても、外国人労働者の受け入れを回避するのではなく、自国の労働者の生産性を高められるよう技能訓練を施すことが先決ではないか。〉(明治大学教授の加藤久和氏)

この論説では、そもそもこれからは外国人労働者の母国で労働力不足になること、日本が「選ばれる国」になる努力が必要であること、などが論じられている。

▼11月23日付東京新聞では、〈国際的に日本の経済力が低下する中、送り出し国をより低賃金の国へ変えてしのぐ策も、限界が見えてきた。途上国支援という名目で、外国人労働者の人権侵害に目をつぶってきたツケが回ってきている。〉という視点から技能実習制度の問題点を取材している。具体的には、日本に来る人々の出身国が中国から東南アジアに大きく変化してきた。

〈技能実習制度は1993年に創設。対象職種は農業、建設、食品製造、介護など80に上る。法務省によれば、今年6月時点で日本にいる技能実習生は約28万5000人。日本の好景気で2012年以降増え続けている。/実習生の送り出し国は以前は中国が最も多かったが、近年は、より低賃金の東南アジアが増え、16年からベトナムが最多となった。昨年末現在、ベトナム45%、中国28%、フィリピン10%、インドネシア8%となっている。

▼たとえば近所のコンビニで最近、中国人店員より東南アジアの店員が増えているのは、中国国内の賃金が増え、より賃金の低い国から日本に受け入れるようになってきたからだ。

▼少し考えればわかる話だが、日本の悪評はSNSでも広がっているそうだ。

〈ある送り出し機関の関係者は「介護でいえば、日本はドイツなどに比べて賃金が低く条件が悪すぎる。建設業などに応募する人も減っている。会員制交流サイト(SNS)で『あそこの現場はきつい』とか『怒鳴られる』という話があっという間に伝わり、日本に行かなくなるらしい」と明かす。/先月13日、日本への技能実習や留学を希望する学生らを対象としたセミナーがベトナムで開かれた。日本大使館の桃井竜介・一等書記官が「ベトナムと日本で悪徳ブローカー、業者、企業が跋扈し、ベトナムの若者を食い物にしている」と認め、日本のイメージ悪化を懸念した。

▼ドイツや韓国との比較。

〈日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「ドイツは1970年代から30年間、まともに移民政策に取り組まない空白期間があり、定住化した外国人労働者とドイツ人の間に大きな心の壁ができ、社会問題化した。その反省から2005年以降、移民をドイツ社会の一員ととらえる統合政策に転換した」と話す。/ドイツでは05年に移民法が改正され、ドイツ語能力が不十分な移民は600時間のドイツ語学習などを柱とした「統合コース」への参加義務が課された。「日本がドイツの経緯に学ばず、外国人労働者を安価な労働力だという固定観念でとらえていると、送り出した側から選ばれなくなるだろう」と毛受氏は言う。〉
〈大阪府箕面市多文化交流センターの岩城あすか館長は「韓国は日本よりずっと進んだ移民政策を採り、今や人気の移住先になっている」と語る。〉

▼同じく東京新聞の11月22日付は1面トップで〈失踪者 時給500円台最多/実習生176人 野党試算〉という記事があり、その関連記事に〈アジアと賃金格差縮小/外国人 募集しても来ない?〉という見出しがついていた。外国人が来なくなってきた実例も紹介されている。
〈第一生命経済研究所の試算によると、多くの労働者が日本に来ている中国との最低賃金の差は2005年には14.4倍だったが2016年には3.9倍まで縮小。さらに2022年には2.7倍にまで縮小する推計だ。〉〈変化は来日する外国人労働者の出身の内訳にも表れる。厚生労働省の調査によると、2012~2016年の間にベトナムは6倍以上に急増。ネパールも6倍に迫る増加となっているが、中国は16%の増加にとどまり、増加ペースにブレーキがかかりつつある。/賃金格差の縮小を実感している経営者もいる。西日本で縫製工場を営む男性経営者は20年前から中国人の労働者を雇用してきたが最近日本人に切り替えた。「こちらの提示した金額と、中国の人たちの希望金額が合わず、募集をかけても来なくなった」ためだ。

入管法改正を急がせる「経済」の人々の視点で見ても、今の「国策」のままではじり貧になることがうかがえる。この記事のすぐ下には、中華料理の「日高屋」で、「外国人が3分の1を占める労働組合」ができたことを報じていた。

▼入管法が改正されても、されなくても、「社会」や「生活」の視点で見ると、少しも変わらない深刻な課題がたくさんある。それらは政治利用するにはあまりにも大きい問題だ。これらの記事をながめていると、移民問題は「経済」という狭い視野で見ても全容はまるでわからない、ということがわかる。

(2018年11月30日)

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