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①読者様プレゼント企画「黒影紳士」~光影の舞踏会~🎩第一章 1硝子の悲鳴 2神の目 

「黒影紳士」ー光影の舞踏会ー特別年末年始号ーポップアップで付録ぐらい版ー

年末年始と言えば特大号!…ん?そんな筈はない黒影紳士だよ? 特小おまけ号!逆に短い方が難しい事件に挑みましたw ポップアップ規定の二万文字で抑えてバトルも推理も超短縮。 何時もより手軽に其れこそポップな気分で読んで下さい♪ 更に!今回は何と舞台は明治時代へ。 1話だけの明治版黒影紳士をお楽しみ下さい。 行く年来る年…黒影紳士が来る!どうぞ2024も宜しくお願い致します♪
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「黒影紳士」ー光影の舞踏会ー特別年末年始号ーポップアップで付録ぐらい版ー

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1 硝子の悲鳴

「きゃ――――――っ!」
 辺りは騒めき、女性招待客達から甲高いグラスを割った様な悲鳴が上がる。
 その叫びと共に、驚いた生演奏の楽器隊の弦楽器がギィギィと響き渡り、悲鳴を更に誇張し死前端鳴(デスラトル)を奏でるのだ。
 煌びやかな白い大理石、大きな硝子のシャンデリアが輝く舞踏会の最中の事だ。
 踊っていた華やかなる族は止まり、壁へと逃げ伏せる。
「その剣を降ろせ!そんなもので我々は倒せない!」
 そう叫んだ黒影と言う男は、シルクハットに舞踏会にはやや不釣り合いなロングコートをバサバサと靡かせ、飾ってあった鎧から剣を奪い一人のワインレッドのドレスを来た女の首元に当てた。
 本名黒田 勲(くろだ いさお)裏社会でその黒いシルクハットとロングコートに恐れをなした者に通称「黒影」と呼ばれている。
「幻炎(げんえん)……十方位光炎斬!(じゅっぽういこうえんざん)……解陣!」
 その所謂略経を唱えると、黒影から一気に鳳凰を中心に模る円陣、更に内陣、外陣と三重の円陣が展開される。
「先輩!……炎は拙いっすよ!」
 この人混み騒めく中、赤から金色(こんじき)に立ち昇る炎が全ての円陣から上がる。
 真っ赤な瞳に漆黒に鳴るコートの背に、鳳凰の炎の翼が揺れていた。
「平気だよっ!幻炎って言ったじゃないかっ。炎に見えるが熱くはないよ。……それよりサダノブ、さっさと其奴を捕まえるんだ!」
 と、黒影は今更何をと友人であり事務……とは言え闘う事務のサダノブ(本名 佐田 博信さだ ひろのぶ)に叫ぶ。
「相変わらず人遣い荒いんですから。捕まえておいて下さいよ。」
 犯人は其れを聞いて、更に人質を引き摺り下がる。
 黒影はサダノブを見ていたが、その動きに殺気だった炎を内に秘めた瞳で睨む。
「……何をしたんだ……。」
 犯人は僅かながらに未だ何もしていないのに、肩で息をして疲れ果てた様に見えた。
「……光だ……この陣をお前は踏んでいただろう?佐々木 晴也(ささき はるや)。……恨み……辛み……人の負ばかりに纏わりつかれた貴方には、打って付けだ。邪を祓うんだ、この光は。どれだけ人として、我を失い始めていたのか、もっと早く……気付くべきだったな。」
 黒影はそう答えた。
「邪だと?……それじゃあまるで僕が悪いみたいじゃないか。……そんな事……冗談じゃないっ!僕は何も悪くない!誰かが望むからだ。其れを与えているだけの何が悪いんだ!神と同じだ。……願いを叶えてやっている!それで満足、足りなきゃ欲しい欲しいと群がる虫ケラばかりのこの世に、必要じゃないものを消してやったんだけだ!神と崇められた僕ならば許される!僕が自称で言った訳では無いのだ。人々が望んだのだよ、この僕が神である事を!」
 佐々木 晴也はそう言うと乾いた笑いを浮かべ、周りの舞踏会に興じていた人々を睨んだ。
 華族と呼ばれた人種が終わりを告げようとする、少し前の話である。
 ――――佐々木 晴也27歳。その若さにして新聞記者として数々の賞を受賞。
 其処にいた人々が叫び怯えるのには、彼が人質を取ったからだけでは無い。彼は民衆の味方として、大物政治家や華族のスキャンダルまで綺麗さっぱり暴いてしまったのだ。
 詰まり、その華族にとっては唯でさえ注意人物である上、今は特に近付きたくはないのだ。

 其れは一つのある新聞記事から始まった。
 今までスッパ抜かれてばかりの華族や政治家達であったが、あれやこれやと画策し、ある彼の記事をでっち上げだとラジオに新聞と嘘を流したのである。
 そう……民衆が如何にも嫌う金の力でだ。然し乍ら、彼を潰そうと躍起になった者達が談合した事実も既に過去であり、誰も……そう、この佐々木 晴也……通称「神の目を持つ男」でさえ、今は暴く事も敵わないのだ。
 その後、佐々木 晴也の周辺の活動を反対又は恨む者が消されると言う事件が立て続けに起こった。
 だが当の本人は、
「僕は神だ。神を裁くのならば、証拠を持って来い。偶然が重なって味方したとしても、僕が神だから仕方ない。」
 などと、とある雑誌取材相手に話しスキャンダルになる始末である。
 現在で言うパパラッチみたいな者が、当時は人々が恐れ、熱狂的になったのは言うまでも無い。

「……其れは群衆では無い。……佐々木 晴也。」

 黒影は落ち着いてはいるが、低くく地を這う様な静かな憤りを込めて言ったのだ。
「幻影……蒼炎(そうえん)十方位鳳連斬(じゅっぽういほうれんざん)……解陣!」
 更にそう言った直後だ。黒影が立つ鳳凰の炎の陣より外側の陣へ一気に青くなる。
「こっ、今度は何だ!?」
 流石に此れには同様し、佐々木 晴也の顔も青褪めるではないか。
「……神……だったな。ならば、答えは言わずとも全知全能であるからして理解しているだろう?……僕は貴方程何もこの世界の事等分かっちゃあいないさ。……けれど、これだけは言える。貴方に無くて僕に有る物がある。……それは洞察力と観察力だ。然し乍ら貴方は其れが僕より劣っているにも関わらず、神だと云う。全知全能であれば、僕より低い能力等存在してはならない。よって佐々木 晴也……貴方は神等ではない!……それは揺るぎない真実である!神でも真実は崩せ無い。そうだなっ!」
 黒影の赤い瞳の炎の揺らぎが変わり真っ青な深海の様に染まって行く。
 その周りの炎はまるで獄炎の様に、恐れをなした佐々木 晴也からは見えた。
 神では無い……が、鳳凰と地獄の炎を持つ者。
 其れはまるで……天と地を一つにした、其れこそ人智を超えた存在の様でもある。

 神の目に……その「真実の目」は、如何写っているのだろうか……。

「せんぱーい、如何するんですか?」
 サダノブは何も気にせずタッタと小走りで黒影に走り寄る。
 サダノブにとってはこの黒影の殺気も凄みも慣れた物で、鳳凰付きの狛犬の存在としては、懐かない理由も無く守護する者には変わりないのだ。
 佐々木 晴也や悔しそうに歯軋りをするのだが、その仕草が神経質な黒影には不愉快に思えて眉毛を顰めた。
 だが、次の佐々木 晴也の行動に更に黒影は苛立ちを覚えた。
 佐々木 晴也は人質の耳を掴んでいる。
 耳……犯人が現場に残した大きな形跡だ。
「……サダノブ!」
 黒影は犯人のある行動を阻止するべくサダノブをチラッと横目で見やる。
「幻影斬刺(げんえいざんし)……発動!」
「さっさと人質離しやがれ――っ!」
 黒影とサダノブがそう重なる声で叫んだ。
 黒影が手から無数の漆黒の大きな針状の物を飛ばした。
 其れはそう……影だ。
「黒影」と呼ばれる由来。本来の黒影が持つ闇の力。
 時に冷徹で、その残忍にも追跡者を逃さず追う影を、犯罪者が憎み裏社会に「黒影」の名を轟かせたのである。
 其の針の影は此の蒼き炎の陣により連結され、総ての陣から真っ黒な雨と成り、佐々木 晴也の元へ降り注いで行くのだ。
 「……黒影!人質が如何なっても良いのか!」
 佐々木 晴也は恐怖と怒りに満ちた叫びを上げる。
「見縊るな。……此の影総てが……僕の影だよ。」
 黒影はニヒルな笑みを浮かべ答えた。
 人質を持っている前方では無く、背後に針が軌道を外すではないか。
 サダノブは空中で氷を作ると、瞬時に拳で割り鳳凰陣に叩き込んだ。
 其の形状は黒影の針に酷似している。
 氷も鳳凰陣から全体の陣へ行き渡り、黒影の漆黒の影の無数の雨を追撃に向かう。
 輝きに乱反射する氷と、相反する影が一糸乱れず狙いを確実に絞り狙って来る。

 ……伊達に一緒にいた訳じゃないよ。

 二人の心にそんな声が重なった気さえ互いにする。
 相反し、時に反発し合った二人。
 此の技は、其れでも守ろうとする者が互いにあり、信じなければ完成しなかった。

 ――蒼氷斬刺(せいひょうざんし)――。

 陰と陽をバランス良く兼ね備えたこの技を未だ崩せる能力者等存在しなかった。
 ……そう、この日までは……だ。
 夢探偵社は、能力者案件に特化した日本随一の探偵社である。
 それも、探偵社全員が何かしらの能力を持っているからだ。この頃は現代(黒影紳士内)よりは、未だ能力者の生態は確認が少なく、一部では差別的な扱いを受ける者もいた。
 人間であり異端な者と言われる事もあり、黙まっているのが常である。
「くっ……仕方無い!」
 この大人数が見守る中、佐々木 晴也は捕まると言う危機的状況に人質の女を乱暴に突き飛ばし、腕を大きく横に振ると剣を振って目を閉じる。
「何で目を閉じたんです?」
 サダノブは黒影に不思議がって聞く。
「見る……見る……そうか!……僕らの攻撃が読まれているぞっ!」
 黒影はサダノブを引っ張り中央鳳凰陣に引っ込めると、コートを翻し真っ黒な壁を円陣に剃って聳え立たせた。
 サダノブは唯一の十方位鳳連残の弱点でもある上空に手を翳し、氷の天井を張る。
 大量の黒い影と氷の槍の様な雨がカンカン、キンキンと音を立てて戻って来ているのだ。
 影に呑み込ませているが、影すら内側に撓(しな)っているではないか。
「そんな……あの大量の攻撃が全部か?!……サダノブ、思考を読め!」
 黒影はその光景を目の当たりにし唖然とするが、意識を集中させサダノブに脳内や思考を読み取る能力を使う様に指示した。
 サダノブもこの事態には驚いた顔を見せたが、能力者が能力を隠すのが常識な時代、尚且つ幾つもの賞を獲得したジャーナリストであれば、最早著名人か有名人。
 佐々木 晴也に関してはそれでも庶民の味方ぶってはいたが、まさかこんなに自負心が高く、それが能力によって輪をかけた性格だなんて知る良しもない。
 否、知られてしまえば、ジャーナリストとしての立場も、社会的地位も失うのだから、黙っていて当然だとも考え直した。
「……目……でしたね?シナプス伝達信号を掴み、視神経付近観てみます。」
 サダノブは反撃の音に集中力が掻き乱されるのか、前頭葉に軽く手を置き目を閉じた。
「……ああ、目にある筈だ。透視……つまり念写だなんて、そこに何かの能力反応があるに違いないんだ。」
 黒影は撓る影の壁をみあげ言った。
 ……そえ佐々木 晴也は事もあろうかマスメディアにこう言ったのだ。
「僕は念写が出来るんですよ。だからどんな記事でも見つけ出せる。この目で見た透視を、そのまま写真に念写する。……ははっ、どうです?こんな能力があったら有難いんですがね」
 と。

2 神の目

 ――それは数日前の事へと遡る――――。

 「うわっ……何だこれは。」
 それは黒影の腹違いの兄で、母方の苗字で違う風柳 時次郎(かぜやなぎ ときじろう。黒影は急いでいると略して時次と呼ぶ。幼い時に兄だと知らなかったので、普段は風柳と呼んでいる。)は、刑事と言う職業柄ご遺体を見るのは慣れてはいたが、耳の無いご遺体に、思わずそう言った。
 それは雪降る庭の中。寒椿が、ご遺体の頬に、はらりと紅の花弁を一枚落とす。
「耳を……探そうか……。」
 風柳はスーツの上に羽織ったフェルトの灰色のコートの襟を立て、白い息を吐き言ったのであった。

「……で、此れが?」
 未だこの時代、モノクロの現場写真を黒影は見て聞いた。
「ああ、どう思う?耳を切るなんて悪趣味だとは思わんか?」
 探偵社兼弟夫婦も一緒に住んでいる、温かな家に風柳は帰ってくるなり、黒影にどんな犯人に思えるかに聞いてみる。
「……耳は見つかりました?」
 風柳の問いに黒影は質問を更に重ねた。
「ああ、あるよ。こっちの写真だ。」
 風柳は発見された、切断された耳の写真を黒影に見せるのだ。
「ちょっと……二人共、もう直ぐお夕飯の支度が上がりますからね。」
 黒影のやけに若く見える妻、白雪(本名 加賀谷 幸枝かがや ゆきえ。黒い黒影に対し、白いドレスを好む事から白雪姫のようだと警察内部で白雪と呼ばれた。)が二人を注意する。
「あ、ごめん。直ぐに仕舞うよ。」
 そうも言い乍ら黒影は数秒食い入る様にその写真を目が寄る程近づけ、白雪には見えない様に見て記憶に叩き込む。
 白雪は其れを見ると何時もの事で、覚えたら仕舞うと分かりアール・ヌーヴォー調のカーラーの花の硝子扉を開けて去って行った。
 食事を終えた黒影はラジオを付ける。
食後の珈琲を頂き乍ら、聴いていた。
 風柳は温かい番茶を飲み、既に楽な和装に着替え、サダノブは冷茶を頂いている。
 白雪は未だ台所で何かしているようだ。
 もしかしたらデザートでも考えているのかも知れない。
 洋館ではあるが、何部屋かは和室である。
「……耳の無い遺体が発見され……此れで2件目となったのであります。人々は口々に殺人鬼が現れたと恐怖し……。」
 そんなニュースに黒影は、
「風柳さん、今の……。」
 思わず今回の風柳が関わる事件では無いかと聞く。
「ああ、そうなんだ。今日よりも少し前に一件。警察は未だ捜査中で発表しなかった筈だが、何処から漏れたんだか……。」
 風柳は訝し気に思わずラジオを片眉を上げて見詰めた。
「……またしても隠蔽体質の警察が真実を有耶無耶にする闇を、佐々木 晴也氏が明らかにし……。」
 ラジオはそう続けた。
「佐々木 晴也氏?」
 サダノブが「またしても」と揶揄するラジオに、そんなに有名なのかと思わず口にする。
「サダノブ知らないのか?あまりに数々の汚職事件を明らかにしてきた人で、今や庶民の味方まで言われる記者でジャーナリストだよ。」
 と、黒影は教えてやる。
「けど、警察も大変っすね。」
 サダノブはこんな言われ方をされたのでは、毎日犯人を探す風柳も大変だろうと、そう言う。
「もう、言われ慣れたよ。世間と言うものは何かしらを敵に回していたいものなんだ。それで平和ならこっちは楽なものだよ。然し……。」
 風柳は最後に言葉を濁らせる。
 何かこの事件に関して思う事があるのだろう。……でも、風柳は職業柄、家族にも話せない事もあるのだと、黒影はあえてその先を聞かず、妻の作った珈琲を一口飲むと、ホッと肩の荷を下ろし、背もたれに凭れた。

 そんな翌朝、少しだけ自体が変わる。
 警察への風当たりが強くなり、職場に行った筈の風柳が血相を掻いて戻ってきた。
「如何したのですか、一体?さっき出掛けたばかりでしょう?」
 黒影は何事かと、風柳に聞く。
「協力要請が出た!」
 風柳は黒影に息を切らし乍ら言った。
「サダノブ、今日の予定はキャンセルだ。」
 其れを聞いた白雪はパタパタとスリッパの音を立てて、連絡帳を取りに行きサダノブに渡す。
 サダノブは受け取ると、大理石と金彩のある電話の前に行き、ダイヤルを回している。
 華族程では無いが、上々の暮らしだ。もし、此が一般的家庭であれば駐在所まで走らなければならなかったかも知れない。
 黒影はロングコートをバサッと鳴らし、広げる様に翻し袖を通すとフェルトのシルクハットを被った。
 警察からの協力要請は、能力者かも知れないと言う案件の時に来るものだから、それだけスピード解決しなければ、被害も大きいかも知れないからだ。
 それに……
「まだ人間でいて欲しいな……。」
 黒影はそう呟き、調査用鞄を手にする。
 自分と似た様な境遇の人間に、道を外して欲しくはないのだ。
「……残念だが、黒影……。」
「えっ?」
 まるで既に未だ話も聞いていない事件の犯人が人の心すら失った様に風柳が言うので、黒影は靴を履く手を止めた。
「既に二人殺している。昨日のラジオの事件だ。今やあの事件は佐々木 晴也の熱狂的な信者の中でも加熱して、世間様まで巻き込んでいるんだよ。未だ能力者案件かも分からん。このままでは警察の面目も潰れると、署長が取り敢えず仮契約で良かったら、捜査に参加して貰えないかとね。」
 と、風柳は経緯を話す。
「何で世間様まで騒ぐのですか?怖いから……ですか?」
 黒影がそう聞くと、
「否、それだけでは無いんだ。此方も調べたが殺害された二人は、二人共その事件をスクープした佐々木 晴也の関係者だったと今朝方他の新聞社が掲載したんだ。だから佐々木 晴也保守派と世間様の風当たりが異なり、マスメディアと保守派の衝突が加熱しそうなんだよ。一刻も早く解決しなければ二次災害が出てしまう由々しき事態だよ。」
 風柳は佐々木 晴也周辺に起き兼ねない衝突を危惧しているようだ。
「分かりました。一応はその渦中の容疑者、佐々木 晴也に話を聞きに行きましょう。僕はまどろっこしい捜査手順は其方(警察)と違って踏みません。周りが混乱しているのに捜査をしても無駄です。」
 黒影はそう話し乍ら靴をまた履き始める。
「先輩、キャンセルしておきましたよ。」
 サダノブも慌てて支度してきて、黒影に言った。
「ああ、有難う。行くぞ。」
 黒影がそう言って走り出すと、その後をひょいひょいと犬の様に着いていくサダノブなのであった。
 ――――――――
「何だこの人だかりは。」
 黒影は佐々木 晴也宅前に着くと、既に押し問答している熱狂的信者とマスメディアの言い争いを見て漠然とそう言った。

「二人共に関係者だったなんて偶然ですかね?」
 黒影は何の悪ぶれも無く清々しい程率直に聞くのだ。聞いているサダノブと風柳がどんなに冷や冷やしているかも気にも止めずに。
「随分と素直に疑って来るのですね。」
 佐々木 晴也は不機嫌そうな顔で聞いた。
「ええ、お膳立ての様なまどろっこしい事を言いに来た訳ではありませんから。」
 と、黒影は今日は妙に何時もの慎重な聞き込みと違い、きっぱりと言うのだ。
「此だけ愛されているのに、少し知り合い程度だからと気にもなりませんよ。亡くなった事には、可哀想だと思えても。世間様が何と言おうとも……ですよ。そんなもので一々落ち込んでいたら僕は仕事になりません。」
 佐々木 晴也は今いる二回の窓から、下でまだ争っている自分の信者とマスメディアが一悶着する景色を、上から見下す様に乾いた笑いを残す。
「確かに、佐々木 晴也さん。……貴方の信者は貴方を大事に思っている様ですが、貴方はまるで興味が無さそうだ。分かりました。また何か有りましたらお話を窺うかも知れませんが、今日は此で失礼します。」
 そう言うなり、たったそれだけの会話をし、黒影はその場を去ったのだ。

「風柳さん、彼が今までにスクープし書いた記事全て、直ぐに揃えて下さい。これだけ愛されていると言える自負心が揺らごうとしているのです。このまま世間様やマスメディアが加熱すれば、信者も一人二人と減っていく。僕には彼があの一階の騒ぎを見下した様には思えなかった。」
「じゃあ、何を見下していたんだ?」
 黒影が思う意見を知りたくて風柳は聞いた。
「……社会……全体ですよ。」
 黒影は静かに、そして慎重そうに答えるのだ。
 ――社会を切り離し、見下す先に……人は人である意義を時に見失うものだ。
 ――――――――
「此だ!この記事だ。」
 戻った三人で今まで佐々木 晴也が出したスクープ記事を漁る中、片眼鏡を掛けた黒影が明るい声を上げた。
「まぁ、驚いて溢してしまう所だったわ。」
 と、白雪はトレイに乗せた飲み物をぐらつかせ黒影に言う。
「ああ、すまなかった。白雪……僕が持とう。」
 黒影は心配になって、片眼鏡を外すと(眼鏡好き様、今回は一瞬でした。短いのであっただけでも良かったと思って下さいね。by著者)慌てて白雪からトレイを受け取りダイニングテーブルに置き、各々が好む飲み物を目の前に置き乍ら、こんな事を話し出した。
「僕が今見ていた記事を観てくれ。如何考えてもその記事、先に現場写真を抑えられないと思うのだよ。政治談合があったが、其れに関わった政治家の二人は、事もあろうか議会の最中に隣同士の席で約束を取り付けた。議会終了後、車でそのまま約束の料亭へ乗り付けた。そして、酔った挙句に地元建設会社を呼び出し優先的に使うと言い始める。然も其れが阿弥陀くじで決めたって言うのだから恐ろしいよ。風柳さんは口が硬い料亭へ言って、警察手帳で事実確認して下さい。僕も向かいます。サダノブは建設会社の方に連絡して事実確認をしてくれ。」
 と、黒影はその記事の不審点と、事実確認の指示を出した。
 そして集まった情報はこうだ。
 建設会社は確かに急に呼び出され、阿弥陀くじをやったと聞いたし、その会社社長迄阿弥陀くじに参加し、もう一社決めたのだと話した。
 料亭ではある不審点が浮かび上がる。料亭側に聞くと当日は障子を閉めていたのだと言う。しかも冬を前にはめ込みのものだ。だから其れを外しもしなかったのに、まるで外れた様に写真に写されてスクープされていたのには驚いたらしい。確かに風柳と黒影が訪れた際にも障子はあったし、簡単に外れるものでは無かった。
 数々のスクープをモノにしてきた佐々木 晴也はこう呼ばれる事も屡々あった。まるで……

 ――神の目を持つ男。

 そして僕は佐々木 晴也の能力にこの時気付いたんだ。
 彼が透視や念写を使う能力者であると。

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(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。