黒影紳士番外編「月光」〜黒影の書〜✒️🎩読み切りミステリー 五章 月光
――第五章 月光――
僕は依頼人、廣田 璃央と話している。
「あっ、お疲れ様です。今日は何もなくて良かった。お陰様です。有難う御座いました。……あっ、お一人負傷されたとか?……大丈夫でしたか?」
廣田 璃央がそう言った。
「お恥ずかしい話です。ウチの戦闘員が勝手にちょっとドジっただけなのでお構いなく。」
……いつも、依頼人を安心させる為に平気で言ってきたのに、今日は心が痛む。鸞……僕は病院に連れ添う事すら叶わない。
「……それよりも、何故……貴方がその事を知っているのでしょう?変ですねぇ……まだ誰にも僕は話していませんよ。だって我が社の恥ですからね。廣田 璃央さん……あの5人と繋がりが今もあるようだ。ならば、狙われた本当の理由をお聞かせ願いたい。」
僕は帽子をソファーの横に置き話した。
「新橋 瑛美ですよ。……全てはあの子の思い違いだった。香坂 結先生は僕に海外で勉強しないかと言ってくれました。僕はまだ海外なんてと、悩んでいました。その頃、練習室にいても香坂先生は悩みを聞いてくれたり、アドバイスを惜しみなくしてくれた。一方ではとても厳しい人だと嫌われながら。……新橋 瑛美さんは僕に好意があったらしく、呼び出されては叱られているのではないかと、勘違いしていたのです。それに、海外への不安で自分で言うのもおかしいですが、冴えない顔ばかりしていたと思います。僕は香坂先生が亡くなっているのを見て、其々の部屋を見に行きました。皆んな、月の部屋でどうしようと騒いでいた間にです。双子座の新橋 瑛美さんの部屋に……香坂先生の鞄を見てしまった。
戻ると遺体を隠そうという話しになっていた。僕はいつか掘り起こして貰えるように、ワザとあの場所にしようと言い、皆んなが降りていく中、注射入りの鞄を一番最後に持って行き、これも埋めなきゃ!と、声を掛けてそうしようと皆んな納得した。……新橋 瑛美さんを問い詰めたのは、その後暫く経ってからでした。全てを知っていても、黙秘し続ける日々は苦痛でした。早く香坂先生を見つけて欲しい!……名が売れる程に強く願った。
月の様に静かに何も言わず……今更誰も導けないけれど、誰かにこの消えそうな道標を辿って欲しかった。
罪は償います。……先生を見つけてくれて……本当に……有難う……御座いました。」
と、廣田 璃央は深々と頭を下げて両手を差し出した。
「……すみませんね。僕……警察じゃなくて、探偵なのですよ。……月光、戦っていてゆっくり聞けなかったのですよ。最後になるかも知れないし、その苦難を乗り越えまた聴けるかは分かりませんが、今頑張っている僕の息子の為に、一曲弾いてもらえませんか……。」
廣田 璃央はゆっくり手を下ろし、
「……有難うございます。……。それに最後に弾いてお別れまでさせてもらって。……息子さん、きっと大丈夫になります。こんな罪人だけど、精一杯願って弾きますから。」
と、言ってピアノの椅子に腰掛けた。
僕は帽子を取り膝に軽く置いた。
その音は激しさの中に脈動する生命すら感じさせる。無力と責めた自分が、その脈動に切り刻まれ消えてゆく。
美しい短めのメロディーとあいまって、それは……静かな闇を壊し、新たな鼓動の安らぎを産むようでもあった。
「僕は君を見逃したくなる……。」
廣田 璃央が弾き終わった時、僕はそう言った。
「違う曲ならよかったんですかね。」
と廣田 璃央はその意味を知りそう小さく笑った。
「ならば、ロングコートと帽子はピアノの上に置くべきだった。さぁ……参りましょう。良いものを聞かせてもらった。有難う。」
……僕が軍服なら君を見逃すが、僕は漆黒の紳士だから罪からは誰も逃しはしないんだよ。
「あの……」
廣田 璃央がふと呟く様に僕の後ろを見て行った。
「……今、黒影さんの影が変に動いた気がして。……そんな訳ないか。……気のせいです。すみません。」
と、言ったのだ。……僕の影が動いただって?
僕はサダノブのタブレットに慌てて、メールチャットを入れたら。
「ちょっと仕事の連絡が入りまして、少しお待ち下さいね。」
と、笑顔で時間稼ぎをした。
……廣田 璃央をデビューさせたレーベルを早急に調べろ……あと、契約金……
「次は世界に羽ばたかれるのでしょうね。」
黒影はサダノブからの返信を読んで言った。
「えっ?」
廣田 璃央はなんの事かと言いたそうだ。
「新橋 瑛美さん、付き合ってたんでしょう?利用したんですね。海外で勉強するなら、お金も掛かりますからねぇ。今のレーベル、海外での生活費からピアノに掛かる費用、出してくれる契約なのでしょう?そう考えると、邪魔でしたよねぇ……香坂先生。得をとるなとは言いませんが、人を殺めてまでする事ではないと思いますが。条件はいいし、事情聴取が終わり一旦返されたら、海外逃亡も出来るじゃないですか。これ、自分一人で考えました?それともレーベルからの提案ですか?」
と、僕はにんまり笑って聞いた。
「なっ、何を言っているんです。そんなの偶然ですよ。たまたま親切なレーベルに出逢ったからお願いしただけです。」
と、廣田 璃央は少し慌てて言ってうのだ。
「親切なレーベルねぇ……。僕にはそうは見えませんよ。この会社去年からずーっと業績悪化していますし、こんな潰れる寸前が、幾ら再起の為だからって貴方にそんなに出せるでしょうか?今日のホールもね、大手のスキャンダル空きだったらしいですよ。だからレンタルも安いし、監視カメラで客を見ていましたが、随分サクラが混ざっているみたいでしたよ。最初に盛り上げと話題になら、そんな事もあるんじゃないかと黙っていましたが、今更何のアドバイスにもなりませんが、香坂先生に着いて行けば良かったのに。……月は旅人を導く女神ですからね。なーんにも気付いちゃいないよ、君は。きっと海外行った途端に何もない所に放り出される。香坂先生だってそう疑っていませんでしたか?」
と、僕は馬鹿らしくなったが、聞いてみた。
「自分が苦労して有名になったからって、同じ道を歩めだなんて言うからさっ!誰だって苦労しない道を選ぶ権利ぐらいあるだろう!」
と、廣田 璃央は言い出すのだ。
「……あっ、出た、豹変タイプ。そー言う暑苦しくて話の通じない相手と話したくないんですよねぇー……。じゃあ、一つだけ、お教えしますね。貴方には苦労しない道を選ぶ権利なんてありませんよ。……だって、人の道から外れてしまった。刑務所生活が待っているだけです。そこで苦労を感じないと言うお花畑みたいな能天気になれないと、ちょっと厳しいですよねー。経験に勝る価値は無い。良い師に出会ったならば、素直に教えをこうていれば良いものを。……契約書、やっぱり連帯保証人を付けておいて良かった。白、黒分からないのは警戒すべきですからね。」
と、僕は笑いながら言ってやった。
「何で気付いたんだ?!証拠なんてないだろう?!」
と、廣田 璃央は聞いた。
「証拠はなくてもね……あんまり悪い事を考えていると、僕の影……勝手に動いて見えるらしいんですよ。貴方が心から罪を詫びる気持ちになるまで、きっと着いて行くんです。それこそ、刑務所さえも……。刑務所では今や有名な都市伝説みたいになっていますよ。
それに、鞄の指紋はもう無くても、何で新橋 瑛美さんはワザと鞄を忘れたのでしょう?彼女もまだ貴方を信用出来なかったのでは?海外でも僕の影って見えるんでしょうか?もし、見えたら連絡下さいよ。
……やはり僕は「黒影」である以上、ピアノを弾いて貰おうが、罪人を捕まえない訳にはいかぬのですよ。」
そして、僕はスッと彼の背後に行き、拘束帯で捕らえたのだが、彼は前を凝視したまま額に冷や汗を掻いているのだ。
その時……前を見つめた彼は確かに言ったのだ。
「……おい……お前はだれだ?……じゃあ、後ろの奴は何者だ?」
と。彼の凝視する先には何も無い。
彼には見えているのだろうか「幻影の黒影」が――。
――黒影の書「月光」終――
で、す、が、これは黒影紳士のほんの一欠片にも満たないお話なのでした。
(お急ぎ引っ越し中の為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)
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