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140字小説:No.15〜20【ゲシュタルト崩壊】ほか
頭が、わるい。
15.【ゲシュタルト崩壊】
「うわ、あの人たち犬の真似なんかしてる……」
昼さがりの公園。私たちの前を、這いつくばる二人の男を、紐で繋いだ女が横切った。
「違うよ、あれは『わからなくなった』んだ」
「なにが?」
「人間がなにか、ということさ。僕たちだって、体の半分を機械に換装しているだろ? 同じようなことさ」
16.【ポストAI】
「こんにちは」
昼さがりの公園。私たちの前を、ぎこちない動作のセクシーな美女が横切っていった。
「挨拶してくるなんて、なんだか変わった人ね」
「あれは人造人間だよ」
「え!?」
「人造人間工場で働いたことがあるから、わかるんだ。匂いがぜんぜん違うよ」
「へえ。世の中、すすんでるのね」
17.【恋わずらい?】
「あなた、心臓なくなっちゃってますね」
行きつけの診療所。馴染みの医者から、そんなことを言われた。
「え!? それって大丈夫なんですか?」
「たまにあるんですよね。こういうの。最近、心臓に負担がかかるようなことありました?」
私はよく考えた。けれど浮かぶのはあいつの顔ばかりだった。
18.【残暑】
仲間の声がしない。例年よりも、ずっと早い。今年は特に暑かった。無理もないだろう。
もうわたしの声を聞いている同胞はいないだろうか。それでも、わたしは続けなくてはいけない。他の者にとって、どれだけ耳障りだろうと。それがわたしの命の使い方だ。
あと、たった七日間しかないのだから。
19.【こっちをみている】
恋人と旅行の写真を振り返っていた。豪華な割に格安な旅だった。
「バスで写真撮ったっけ?」
それは宿に向かう途中、車内で撮ったもののようだ。
「こんなに混んでた?」
そこには大勢写っていて、なぜか皆こちらを向いていた。
「うっ!!」
思わずスマホを投げてしまう。
全員が、同じ顔だった。
20.【眼】
自室の窓から、巨大な女性の眼がこちらを覗いていた。気づいたのは半年前、部屋で執筆をしていたとき。思わず悲鳴をあげるほど怖かった。
でも、いまは違う。
「今日もおねがいします」
僕はタブレットを掲げて、ゆっくりと画面を動かす。それにあわせて眼も動く。
彼女はいま、僕の唯一の読者だった。
▼過去作もどうぞ▼
今回から140字小説の掲載数を7つから5つにしています。
理由は脳内愛読者から「沢山あると感想が書きにくい。こんなに素晴らしい作品群なのだから、ゆっくりじっくり味わいたい。乙川さん、尊敬しています! 一生かけて養わせてください!」というご意見をいただいたため。
旅行に来ていて、文章書くのが億劫、とかいう僕の事情ではありません。決して。絶対。断固として。
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