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レシートをそのまま捨てる危険。

家の整理をしていると、財布が出てきた。

昔、祖母から貰ったものだった。

『CELINE』とブランド名が入っていた。

いま使っている財布は、どこのブランドかは知らなかったけど、なんとなく『CELINE』のほうが位が高そうだった。

僕はその財布に『セリネ』という名前をつけることにした。

気分転換に、普段遣いの財布をそのセリネに変えようと思った。


古い方の財布から、各種カード類やパスタ屋さんのスタンプカードを抜き取っていると、奥底の方にレシートが溜まっていることに気づいた。

コンビニでコーヒーを買ったものから、彼女とでかけたお店まで。

中には記念にとっておいてあるようなものもあった。

僕はなにも考えずそれをゴミ箱に放り込んでいった。

しかし、待てよ。と思いとどまる。

住所が書いてあるわけでもないが、これらのレシートを集められ、その店の足取りから生活圏を絞ることは可能だろう。

そう考えると、レシートは足跡みたいなものだ。

もしかして自分でも気づかないうちに、特定の行動パターンを繰り返しているということはあり得る話だった。


大きな地図に、僕のよく行く店をピックアップし、その点と点を事件の起きた順番に結んでいく。

すると次の事件(おでかけ)が予測される。ということがあるかもしれない。そして、先回りされることもあるかもしれない。

それどころか、僕のレシートを毎回ゴミ袋の中から抜き取り、僕の食習慣そのものを把握される恐れだってある。

その情報をもとに健康状態が暴かれる。

結果、こういうことが起こりかねない。

夕方の帰宅ラッシュ。満員の電車内。突然耳元でささやく声がした。

「乙川さん、ですね?」
「誰だ……?」
「おっと、こちらは向かずに、そのままで。今からお伝えする情報は私共が掴んでいるほんの一部にすぎません。いいですね。乙川アヤト、27歳。身長174cm、体重64kg。得意料理は麻婆豆腐。月に何度かは、麻婆茄子の場合もある。最近の悩みは肩こり」
「なぜ……それをっ!」
「私共は独自の情報網を持っています。もしこれがネットで拡散されればどうなるでしょうね?」
「くっ……!」

こんなことがあれば、僕は為す術もなく、身ぐるみ剥がされてしまうだろう。

セリネも奪われてしまう。


僕はゴミ箱からレシートを拾い上げ、シュレッダーにかけた。

今度からレシートは絶対にそのまま捨てないようにしよう、と心に誓うのだった。

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