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こえろ、ミジンコ(全18話)

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私の好きな人はミジンコに惚れこむこと20年、未だに女に見向きもしません。 彼は今、ミジンコの遺伝子操作に夢中です。 ミジンコ研究室を舞台にめぐる、大学院生のラブストーリー
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#読書

#1 こえろ、ミジンコ

#1 こえろ、ミジンコ

ミジンコ。小さな甲殻類。
体は丸く、いつもバンザイしていて、目は真ん中に一つ。

平均寿命1か月。

通常メスしか生まれない。
メスだけでも卵を産み、命を育てる。

私の好きな人はそんなミジンコに惚れこむこと20年、未だに女に見向きもしません。

彼は今、ミジンコの遺伝子操作に夢中です。

ああ、私もミジンコになりたい。

・・・

森里環(もりさと たまき)は、壁沿いにズラリと並ぶボトルの一つに

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#9 こえろ、ミジンコ

#9 こえろ、ミジンコ

「Dr.Daphnia is mad about JUN-MISS(ミジンコ博士は準ミスに夢中よ)」

李さんが席に着くなりそう言った。

事の発端はこうだ。

ぼちぼちお昼にするか、研究室にそんな気の抜けた空気が流れ始める12時前。環は少しばかりパソコン周りを整理し、席を離れる前に念のためデータを上書き保存、時計で時間を確認しつつちらりと隣の理仁に視線を投げた。

理仁はイヤホンで一体何の音楽を

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#10 こえろ、ミジンコ

#10 こえろ、ミジンコ

今日も環の目の前にはひたすら英文が並ぶ。時間は夕方5時を回った。そう、環は3時のおやつを過ぎると集中力が落ち生産性が一段と低下する。それに本人が気付いているのかいないのか、さっきから何度あくびをしたことだろう。

告白から2日経った日の夕方。5時とはいえ、とっくの昔に陽は落ち外はすっかり夜だと言わんばかりの表情をしている。いつの間にか親切な誰かが黒いカーテンを閉めてくれていた。

まだまだ論文の終

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#12 こえろ、ミジンコ

#12 こえろ、ミジンコ

紅葉もそろそろ終わる頃、絶景を独り占めしながら環は深い山奥にいた。

独り占めというのは半ば嘘で、研究室の水質汚濁調査のフィールドワークで湖に来ていたのである。

主体となるのは2個下のM1の子たちで、補助、管理、保護者、カメラマン諸々の役割を与えられD1の理仁と環は連れ出された。教授からの「論文ばっかりで疲れただろう」という心優しい選任である。

理仁と環は2人で貴重品係という立派な大役をこなし

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#13 こえろ、ミジンコ

#13 こえろ、ミジンコ

覆水盆に返らず。一度起こしてしまった失敗は取り返しがつかない。可愛さ余って憎さ百倍。日ごろから可愛いと思っていた人に裏切られ一度憎しみの感情を抱いてしまうと、可愛いという感情の何倍もの強さになる。喧嘩両成敗。喧嘩した人は両方悪い。喉元過ぎれば熱さを忘れる。辛いことも、苦しいことも、過ぎ去ってしまえば忘れてしまう。

過ちては改むるにはばかることなかれ。過ちを起こしてしまったと気付いたら直ちに改める

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#14 こえろ、ミジンコ

#14 こえろ、ミジンコ

街はもうすっかりクリスマス一色。青白いLEDの電飾を付けたクリスマスツリーが多くの人の目を惹きつける中、環はそれに目もくれずツカツカと前を通り過ぎた。

理仁とは未だ一言も話していない。

イルミネーションに使われる一つ一つの電球をでこぴんで弾き飛ばしたい衝動に駆られる。浮かれやがって。

高尾は赫耀と光り輝く横丁のアーチの下にグレーのビジネスコートを羽織って立っていた。環に気付き、スマホから顔を

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#15 こえろ、ミジンコ

#15 こえろ、ミジンコ

12月28日。朝6時半。年内最後の大学。年の瀬であることを理由に大学の校舎という校舎がストライキを決め込んだように、いつにも増してひっそりと静まり返ったキャンパス内。

冬の朝というのはこんなにも音がしないものだろうか。今、弱々しく湿気を含み土に還ろうとしていた枯れ葉が、みしゃっと音を立てて環の右足によって擦り潰されるまで音という音は全くしなかった。

環は右手の人差し指に研究室の鍵をぶら下げ、一

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#16 こえろ、ミジンコ

#16 こえろ、ミジンコ

違和感に気付いたのは午後2時のことだった。

足りない。

エクセルの項数が15個しかないのを何度も数え直し、急いで手元のノートに全パターンを殴り書きした。

やはり。本来16件やらないといけないはずの実験が、最初から15件しかやっていなかった。

なんで誰も気付かなかったんだろう。

咄嗟に15件でいいんじゃないか、と思い込もうとしたが、どう考えても16パターンの検証が必要になるはずだ。

もう

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#17 こえろ、ミジンコ

#17 こえろ、ミジンコ

世の中がカウントダウンを少しずつし始める大晦日の夜。

環は紅白歌合戦に備え、早めにシャワーを浴び、すっかり一人で年越しするつもりでいた。

大掃除した際に見つけた夏の素麵を茹で、熱湯で薄めた麵つゆに落とす。環なりの年越し蕎麦のつもりだった。

午前中起きてから1時間と、午後3時間ほど、間に何度も休憩を挟みながら大掃除した部屋。環は部屋全体を見回しながら、なぜあれほど掃除したのにキレイになった印象

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#LAST こえろ、ミジンコ

#LAST こえろ、ミジンコ

理仁と環がちょうど小さな神社にたどり着いた頃、アパート出る前から響いていた除夜の鐘が鳴り終わった。

長い行列の割に短い参拝を終え、二人はすぐ引き返すように階段を降り始めた。同じように参拝に来た三世代の家族連れや、男女、友達同士と見られる学生が途切れることなく次々とシンプルな鳥居をくぐり抜け階段を上ってくる。

急ぐこともなく、重心を左右交互にカックンカックンとかけながらゆっくり降りてると、理仁が

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