魔法少女の系譜、その82~『赤外音楽』~


 今回は、新しい作品を取り上げます。『赤外音楽【せきがいおんがく】』です。
 この作品は、『タイム・トラベラー』や『続 タイム・トラベラー』、『暁はただ銀色』、『まぼろしのペンフレンド』と同じく、NHKの少年ドラマシリーズの一作です。つまり、アニメでも漫画でもなく、実写のテレビドラマです。
 昭和五十年(一九七五年)の四月に、全六回で放映されました。

 『赤外音楽』は、ジャンルで言えば、SFです。二〇一八年現在では懐かしい、SFジュブナイルという分野になるでしょう。

 NHKの少年ドラマシリーズは、最初の『タイム・トラベラー』の印象が強いためもあって、SFドラマばかり放映されていたと思われることがあります。
 が、それは、間違いです。数で言えば、SF以外のドラマのほうが、ずっと多かったです。名作文学のドラマ化や、普通の青春ドラマ、サスペンス、海外ドラマの翻訳ものもありました。たいへん、バラエティに富んでいました。

 SFドラマは、少年ドラマシリーズの魅力の、一部に過ぎません。
 ただ、この『魔法少女の系譜』シリーズでは、「魔法少女的存在」が登場する作品だけ、取り上げることになります。結果として、SFドラマが多くなります。

 さて、『赤外音楽』です。
 このドラマには、原作の小説があります。原作小説は、同名の『赤外音楽』という題名で、昭和四十五年(一九七〇年)に、毎日新聞社から出ています。
 原作小説を書いたのは、佐野洋【さの よう】さんです。佐野さんは、SFよりは、ミステリ畑の人でした。でも、『赤外音楽』は、立派なSFです。多作な方でしたが、二〇一三年に亡くなられています。

 『赤外音楽』の主人公は、二人います。中学生の尾形法夫【おがた のりお】と、彼の同級生の今西妙子【いまにし たえこ】です。この二人は、普通の中学生でしたが、じつは、彼らには、不思議な能力があったのでした。
 先に書いておきますと、二人は、超能力者でした。妙子は、超能力少女なので、魔法少女の一種ということになります。法夫は、超能力少年というわけです。

 ある日、法夫は、勉強中に、兄と一緒にラジオを聴いていました。ある番組で、流した曲の題名を当てさせるクイズをやりました。ところが、法夫には、はっきりと曲が聞こえたのに、兄には、何も聞こえませんでした。
 翌日、法夫が学校へ行くと、同級生の妙子が、自分もそのラジオ番組を聴いていて、確かに曲が聞こえたといいます。法夫と妙子とは、クイズの懸賞の宛先の「ミュータント科学研究所」へ、はがきを出してみました。

 法夫と妙子のもとに、ミュータント科学研究所から、奇妙な金属製の箱が届きます。その箱は、しゃべるのですが、その声は、あのラジオの曲のように、法夫や妙子にしか聞こえません。
 法夫と妙子とは、奇妙な箱からの声に従って、東京タワーの展望台へ行きます。そこには、彼らと同じように、クイズの懸賞に応募した人たちが、集まっていました。法夫と妙子を含め、全部で八人です。

 八人は、ミュータント科学研究所から差し向けられたマイクロバスに乗って、研究所へ向かいました。そこで、彼らは、研究所の所長と名乗る火尻という男に迎えられます。
 火尻が言うには、ここに集った者は、選ばれた者だと。普通の人が聞き取れない領域の音を聴き取れるのが、その証拠だと。火尻は、その特殊な音を発生させる機械を発明しており、その音で会話ができる「R6号」という機械を、みなに配ります。そして、一週間後に、また東京タワーに集まるようにと言います。同時に、火尻は、このことは他言するなと、みなに口止めします。

 不審に思いながらも、法夫と妙子は、無事に家に帰ります。
 翌日、東京タワーの八人の仲間のうち、二人が、記憶喪失になります。その二人は、あの音が聞こえないのに、「聞こえる」と嘘を言っていたことがばれて、研究所から追放された者たちでした。
 さらに、一人の仲間(女性)が失踪したことも、判明します。なのに、一週間後に、法夫と妙子とが東京タワーに行ってみると、失踪したはずの彼女がいるのでした。
 そのうえ、そこに集った八人改め六人の仲間の一人(男性)が、突然、記憶喪失になります。

 法夫と妙子とは、またも無事に家に帰りますが、奇妙なことばかり起こるので、何が起こっているのか、二人で調べようとします。ところが、突然、妙子が気を失ってしまいます。目が覚めると、妙子は、なぜか、ミュータント科学研究所について、調べる意欲を失っていました。
 妙子は、いぶかしむ法夫の前で、車に轢かれる寸前の子供を救います。それは、子供を空中に浮き上がらせるという、超能力を使ったものでした。

 しばらく経つと、妙子は、自分が超能力を使ったことも忘れていました。やがて、六人の仲間たちが、次々に失踪してゆきます。失踪したはずの仲間が法夫の前に現われ、「地球はもうじき滅びる」と言い残します。妙子までもが、「地球は燃え尽きてしまう」と言いだします。

 そうするうちに、本当に、世界各地で天変地異が起こり始めます。法夫は、研究所の火尻に会いに行きます。火尻は、自分がじつは地球人ではないのだと打ち明けます。間もなく地球が滅びるので、「助ける価値のある人間」だけを助け出し、宇宙へ去るつもりだと告げます。あの音を聴ける人間こそが、「助ける価値のある人間」なのでした。
 しかし、火尻の仲間になるには、地球人としての記憶を手放さなければならないとのことでした。法夫と妙子は、それは嫌だと、地球に残ることにします。火尻たちを乗せた無数の円盤が、地球から飛び立ってゆきました。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『赤外音楽』を取り上げる予定です。



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