マガジンのカバー画像

短編小説

4
短編小説をしまう場所です。
運営しているクリエイター

2021年4月の記事一覧

エモい

エモい

私には知らない事がたくさんある。

毎日触っているスマートフォンが、どういう仕組みで動いているのか知らない。

毎日飲んでいるコーヒーを、誰が一番最初に発見したのか知らない。

毎日顔を合わせるあの人が、腹の底で何を考えているのか知らない。

人類はみな、全知全能にはなれない。

広い意味で全員何かのスペシャリストであり、完璧なジェネラリストはいない。

多くの事を知らない私は、かつてあの「エモい

もっとみる
見える見られる【短編小説】

見える見られる【短編小説】

 僕の頭の上に、数字が浮かんでいる。273。

 鏡の向こうの僕の顔は、いつもと同じで間抜けだ。

 頭の上に数字が浮かんでいることは、驚きの対象ではない。

 歯を磨き、弟を叩き起こしてリビングに入ると母が朝食を作っていた。

 ふと、母が包丁を置き、弟に向かって怪訝そうな顔をした。

「あら、今日体調悪い?」

「え?」

「ダルくない?熱測ってみて」

 弟はリビングの棚、その定位置から体温

もっとみる