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消費者理論(7):Slutsky方程式

ここまで議論してきた、効用最大化問題と支出最小化問題の相互の関係性を整理し、消費者理論の最重要テーマである「財の需要量は市場価格の変化にどう反応するか」を考える。連載はこちら。


消費の双対性

消費者が予算$${I}$$の下で消費計画$${x}$$を達成し効用$${u}$$を得た場合、消費者はそれを「予算制約下で最大効用を実現する消費を選択した(効用最大化)」とも、「目標効用を達成する消費のうち最小予算となるものを選択した(支出最小化)」とも見ることができる。これを消費の双対性と言い、最適解において達成される現実の消費は、Walras需要とも補償需要とも等しい

消費の双対性:$${\bar x = x^* = x(p, I)}$$
補償需要(支出最小化問題:$${\underset{x}{\min}   p\cdot x \text{s.t}.   u(x)=u}$$の解)
=現実の消費
=Walras需要(効用最大化問題:$${\underset{x}{\max}   u(x) \text{s.t}.   p\cdot x=I}$$の解)
この時、$${u(x^*)=u, p\cdot x^*=I}$$

効用関数$${u(x)}$$は連続かつ局所非飽和な選好関係$${≿}$$を表現している。この選好関係$${≿}$$は、消費集合$${X}$$上で定義されている。$${N}$$種類の財の価格$${p_i  (i=1, \cdots, N)}$$は全て正の実数とする。双対性の証明には以下の①②が成り立つことを示せばよい。

①$${x^* \in X}$$が所得$${I}$$における効用最大化問題の解ならば、$${x^*}$$は目標効用$${u(x^*)}$$の支出最小化問題の解であり、この時の最小支出が$${I}$$に等しくなる

②$${\bar x \in X}$$が目標効用水準$${u}$$における支出最小化問題の解ならば、$${\bar x}$$は所得$${I=p\cdot x}$$の効用最大化問題の解であり、この時の最大効用が$${u}$$に等しくなる

①の証明
「$${x^*}$$は$${\underset{x}{\max}   u(x) \text{s.t}.   p\cdot x = I}$$の解$${\Rightarrow}$$$${x^*}$$は$${\underset{x}{\min}   p\cdot x \text{s.t}.   u(x)=u(x^*)}$$の解」であることを背理法により示す。

$${x^*}$$が$${\underset{x}{\min}   p\cdot x \text{s.t}.   u(x)=u(x^*)}$$の解ではないと仮定すると、最大値・最小値の定理より、この支出最小化問題はある解$${x'\neq x^*}$$を持つ。
この時$${u(x')≥u(x^*)}$$かつ$${p \cdot x' < p \cdot x^* = I}$$が成り立つ。なぜなら目標効用$${u(x^*)}$$より解$${x'}$$の時の効用は大きいかつ、背理法の仮定より、解$${x'}$$の支出は、$${x'\neq x^*}$$なので、$${p \cdot x^*}$$より厳密に小さいためである。
ここで、$${u(x)}$$が表現する選好の局所非飽和性より、$${u(x'')>u(x')}$$かつ$${p\cdot x'' < I}$$なる$${x''}$$を$${x'}$$の限りなく近くで見出せる。これは、$${u(x'') > u(x^*)}$$かつ$${p\cdot x'' < I}$$を意味し、$${x^*}$$が効用最大化問題の解であることに矛盾する。よって仮定は否定され、$${x^*}$$は支出最小化問題の解である。また、$${x^*}$$は効用最大化問題の解のため$${p\cdot x^* = I}$$となる。

※効用最大化問題の条件が$${p\cdot x^* ≤ I}$$の場合も、局所非飽和性を満たす選好を表現する連続な効用関数$${u(x)}$$の下での効用最大化問題では、Walras法則より解$${x^*}$$が予算線上に存在するため、$${p\cdot x^* = I}$$が言える。

②の証明
「$${x^*}$$は$${\underset{x}{\min}   p\cdot x \text{s.t}.   u(x) = u (>u(0))}$$の解$${\Rightarrow}$$$${x^*}$$は$${\underset{x}{\max}   u(x) \text{s.t}.   p\cdot x = I}$$の解」であることを背理法により示す。

$${x^*}$$が$${\underset{x}{\max}   u(x) \text{s.t}.   p\cdot x = I}$$の解ではないと仮定すると、最大値・最小値の定理より、この効用最大化問題はある解$${x'\neq x^*}$$を持つ。
この時$${u(x')>u(x^*)}$$かつ$${p \cdot x' ≤ p \cdot x^* = I}$$が成り立つ。背理法の仮定より、解$${x'}$$の効用は、$${x'\neq x^*}$$なので、$${u(x^*)}$$より厳密に大きい。$${x'}$$は予算内の点である。
ここで、$${u(x)}$$の連続性より、$${x''=αx'}$$$${α \in (0, 1)}$$となる$${x''}$$を考えると、$${α→1}$$の時、$${u(x)}$$の稠密性から$${u(x')>c>u(x^*)}$$なる$${c}$$が存在し、$${c=u(x'')}$$なる$${α}$$を考えられるため、この時$${u(x'')>u(x^*)}$$が成り立つ。また、$${x''=αx'<x'}$$の時、価格ベクトルの各成分は正の実数のため$${p\cdot x'' < p\cdot x'}$$となる。従って$${p\cdot x'' < p\cdot x'≤ p \cdot x^* }$$より$${p\cdot x'' < p \cdot x^* }$$となる。これは$${x^*}$$が支出最小化問題の解であることに矛盾する。よって仮定は否定され、$${x^*}$$は効用最大化問題の解である。さらに補償需要における非超過効用の性質より、その時の最大効用は$${u}$$に等しくなる。

Slutsky方程式

消費者理論の最重要テーマは、消費者の合理的行動の総体である需要が、市場の価格変化に対してどのように反応するかを理解する、つまり物価変動によるWalras需要の変化$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_j}}$$を定式化することである。

効用最大化問題と支出最小化問題の双対性より、$${\bar x_i(p, u) = x_i(p, I(p, u))}$$が成り立つ。両辺を第$${j}$$財の価格で微分すると、連鎖律より

$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}=\dfrac{\partial x_i(p, I(p, u))}{\partial p_j}+\dfrac{\partial x_i(p, I(p, u))}{\partial I(p, u)}\dfrac{I(p, u)}{\partial p_j}}$$

が成り立つ。Shephardの補題より$${\dfrac{I(p, u)}{\partial p_j}=\bar xj}$$と双対関係$${\bar x_i(p, u) = x_i(p, I(p, u))}$$を用いて整理することで、以下のSlutsky方程式を得る。

Slutsky方程式
$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_j}=\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I} x_j(p, I)}$$

かくして、ここまで議論してきた消費者の合理的行動:効用最大化問題と支出最小化問題の相互の関係性は、以下の通り整理される。

消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題の関係性

Slutsky方程式の導出自体は、Shephardの補題と微分の連鎖律、消費の双対性を用いればこれまでの議論の範疇であり、さほど難解ではない。Slutsky方程式の理解でより重要なのは、この方程式が経済的にどのような意味を持つか、という点を明らかにすることである。結論から言えばそれは、「物価変動による需要の変化$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_j}}$$は、代替効果$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}}$$と所得効果$${-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I} x_j(p, I)}$$の和に等しい」ということである。

Slutsky方程式の経済的含意
物価変動による需要の変化は、代替効果所得効果の和に等しい

代替効果と所得効果

代替効果

前回、支出最小化問題の解である補償需要$${\bar x(p, u)}$$の性質から補償需要法則を導き、その中で自己代替効果を定義した。

補償需要法則
第$${i}$$財の価格$${p_i}$$が上昇した時、その財の補償需要$${\bar x_i(p, u)}$$は増加しない(減少もしくは不変)。つまり、任意の$${i}$$について$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_i}≤0}$$である。これを、自己代替効果は非正であるという

代替効果とは、ある財の価格が変化した際、目標効用水準を一定とした時のその財もしくは別の財の消費量(=補償需要量)の変化を表す。上記の通り、ある財の価格が上昇した時、その財自身の補償需要は増加しない(自己代替効果は非正である)。
2財以上の場合、代替性はある財の価格変化に伴う別の財の補償需要量の変化$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}}$$で定義され、これを交差代替効果という。特に2財の場合、図形的には無差別曲線の屈曲具合を表す。無差別曲線が屈曲している程、価格変化に対して補償需要量はさほど変化せず(=代替性が小さく、補完性が大きい)、逆に無差別曲線が平らである程、価格変化に対して補償需要量は大きく変化する(=代替性が大きく、補完性が小さい)。以下図は無差別曲線の屈曲性と2財の代替性・補完性を表しており、第3回で導入した完全代替財、完全補完財はその極端な例である。

2財モデルにおける財の代替性・補完性は、補償需要の価格による導関数の大きさで決まる
第3回で例示した完全補完財(左図)と完全代替財(右図)は上記の両極端のケース

例えば、2財モデルの効用関数が$${u(x_1, x_2)=x_1^ax_2^{1-a},  a\in (0,1)}$$で与えられた場合の支出最小化問題$${\underset{x}{\min}   p\cdot x \text{s.t}.   u(x)=u}$$をLagrange未定乗数法により解くと、

$${\bar x_1=\Bigg(\dfrac{a}{1-a}\dfrac{p_2}{p_1} \Bigg)^{1-a}u}$$、$${\bar x_2=\Bigg(\dfrac{1-a}{a}\dfrac{p_1}{p_2} \Bigg)^{a}u}$$

となり、これらをそれぞれ$${p_1,  p_2}$$で微分すると

$${\dfrac{\partial \bar x_1}{\partial p_1}=-\dfrac{1-a}{p_1}\Bigg(\dfrac{a}{1-a}\dfrac{p_2}{p_1}\Bigg)^{1-a}u≤0}$$、$${\dfrac{\partial \bar x_1}{\partial p_2}=\dfrac{a}{p_1}\Bigg(\dfrac{1-a}{a}\dfrac{p_1}{p_2}\Bigg)^{a}u≥0}$$

$${\dfrac{\partial \bar x_2}{\partial p_1}=\dfrac{1-a}{p_2}\Bigg(\dfrac{a}{1-a}\dfrac{p_2}{p_1}\Bigg)^{1-a}u≥0}$$、$${\dfrac{\partial \bar x_2}{\partial p_2}=-\dfrac{a}{p_2}\Bigg(\dfrac{1-a}{a}\dfrac{p_1}{p_2}\Bigg)^{a}u≤0}$$

が得られ、自己代替効果$${\dfrac{\partial \bar x_1}{\partial p_1}}$$、$${\dfrac{\partial \bar x_2}{\partial p_2}}$$は非正であることが分かる。

また交差代替効果は効用関数の対称性より、$${\dfrac{\partial \bar x_1}{\partial p_2}=\dfrac{\partial \bar x_2}{\partial p_1}}$$かつ非負である。なお、支出最小化の条件より、2財モデルにおける交差代替効果は必ず非負になる(自己代替効果の非正性は2財モデルに限らず一般に成り立つ)。

財が多数ある場合、代替性・補完性は、$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}}$$の符号により、以下の通り定義される。

代替財と補完財の定義
$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_i}≤0}$$:自己代替効果は必ず非正

$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}≤0}$$ならば、$${i}$$財と第$${j}$$財は補完財

$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}>0}$$ならば、$${i}$$財と第$${j}$$財は代替財

例として、第1財:白米、第2財:ふりかけ、第3財:パンの補償需要を考える。白米の価格が上昇した時、白米の補償需要が下がる場合、効用水準を維持するため他の財の補償需要を変化させなければならない。この時、ふりかけは白米と共に消費が減り$${\bigg(\dfrac{\partial x_2}{\partial p_1}\bigg)<0}$$、一方でパンの消費量は増えた$${\bigg(\dfrac{\partial x_3}{\partial p_1}\bigg)>0}$$場合、ふりかけは補完財、パンは代替財となる。
なお補完財はより一般的に「第$${i}$$財の価格が変化した時、第$${i}$$財の補償需要と同じ方向に変化するもの」と定義されるため、$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_i}=0}$$の時$${\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}=0}$$となる財$${j}$$を補完財と定義すれば、等式の場合の2財のケースも含めて補完財を定義できる。

所得効果

第$${i}$$財の価格$${p_i}$$が$${\Delta p_i>0}$$だけ上昇した時、値上げ前と同じ効用$${u}$$を維持するのに必要な追加的支出を考える。Shephardの補題と消費の双対性より、$${\dfrac{\partial I(p, u)}{\partial p_i}=x_i}$$が成り立つ。ここで、価格の微小変化$${\Delta p_i}$$に対し、近似的に$${\Delta I ≈x_i\Delta p_i}$$が成り立つ。つまり、財の値上がりで$${x_i\Delta p_i}$$だけ実質的に所得が目減りする効果を表す。
一方、値上がりした財$${i}$$の消費量$${x_i}$$を減らし別の消費量を増やすことでより効用が上がり、目標効用$${u}$$の維持に必要な追加支出が$${\Delta I}$$以下になる可能性も考えられるが、上式では$${p_i→0}$$の極限において、この追加的効果は無視できることを表している。この価格上昇による所得の実質的な変動$${x_i\Delta p_i}$$に対して係数$${-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}}$$を乗じた項$${-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}x_i\Delta p_i}$$を所得効果と呼ぶ。

なお$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}}$$のみを取り出して所得効果という場合もあるが、それはこの係数が第5回で議論した正常財・中立財・劣等財を定義づけるためである。

所得効果による財の定義
正常財/上級財:$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}>0}$$

中立財/中級財:$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}=0}$$

劣等財/下級財:$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}<0}$$
※但し、Slutsky方程式における所得効果$${-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I} x_j(p, I)}$$としての符号は、上記と反転する

劣等財の中でも特に、$${\Bigg|\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_j}\Bigg|<\Bigg|\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I}x_j\Bigg|}$$となるものをGiffen財という。Slutsky方程式において$${i=j}$$の場合を考えると、

$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_i}=\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_i}-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I} x_i(p, I)}$$

となるが、右辺第一項は自己代替効果のためゼロ以下、右辺第二項は劣等財のため正となり、上記の条件を満たす場合は$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_i}>0}$$、つまり価格が上昇すればするほど需要が増す財を理論上想定可能ということである。なお現実にGiffen財が観察されたケースは少ないと言われている。

両効果の図形的解釈

ここまで議論した代替効果と所得効果の消費への影響について、2財モデルによる図形的な理解を試みる。以下の図のように、第1財の価格$${p_1}$$が上昇した結果、最適消費計画が$${x^*→x^{**}}$$へ移動した場合を考える。Slutsky方程式によれば、これは仮想的な消費計画$${x'}$$を導入することで、Step①:$${x^*→x'}$$への移動、Step②:$${x'→x^{**}}$$への移動に分解可能である。

Step①($${x^*→x'}$$):代替効果と(仮想的な)補助金
価格$${p_1}$$の上昇により予算線の傾きが急になるため、予算$${I}$$が一定であれば効用を下げざるを得ない(図の黒い無差別曲線から赤い無差別曲線への移動)。しかし、ここで仮想的な補助金を導入し、値上げが起きた後も当初の効用水準を維持できたと仮定する。図形的には価格上昇後の傾きが急になった予算線に平行かつ当初の無差別曲線に接する直線を引くことを意味する(図の青い破線の予算線)。この時、$${x^*}$$から仮想的な最適消費計画$${x'}$$への移動が代替効果を表し効用水準維持のために追加的に支給された補助金額が、予算線の切片の差である$${\Delta I}$$である

Step②($${x'→x^{**}}$$):所得効果
しかし実際は、このような仮想的な補助金は存在しないため、補助金の分だけ予算線が下側に平行移動する。この補助金分$${-\Delta I}$$だけ所得が下がる効果が所得効果であり、下がった後の消費が実際に実現する消費$${x^{**}}$$である。

所得効果と代替効果の図形的イメージ

需要の価格弾力性

Slutsky方程式を用いた分析事例として、需要の価格弾力性を取り上げる。需要の価格弾力性とは、価格が1%上昇した時の需要減少率(%)の比率を表したものであり、単位に影響を受けない指標として通常以下の通り定義される。

需要の価格弾力性:$${-\dfrac{dx}{dp}\dfrac{p}{x}}$$

売上高は$${px(p)}$$より、これを価格で微分すると、

$${\dfrac{dpx(p)}{dp}=x+p\dfrac{dx(p)}{dp}=x\bigg\lbrace1-\bigg(-\dfrac{dx}{dp}\dfrac{p}{x}\bigg)\bigg\rbrace}$$

を得る。よって$${\bigg(-\dfrac{dx}{dp}\dfrac{p}{x}\bigg)<1}$$で$${\dfrac{dpx(p)}{dp}>0}$$、つまり価格弾力性が1より小さい(もしくは大きい)時、価格を挙げると売上高は上がる(下がる)。

※需要の価格弾力性の例
ガス:0.21、牛肉:0.94、外食:1.3
ガスは弾力性が1より小さいため、価格を上げても需要がさほど減少せず売上高が増加する。従って、販売量を制限して価格を吊り上げることで売上高が最大化されよう。
牛肉は弾力性がほぼ1のため、価格を変化させても売上高はほぼ一定。
外食は弾力性が1より大きいため、価格を上げると需要が大きく落ち込み売上高が減少する。従って、価格を下げて薄利多売の戦略が有効であろう。

ここで、Slutsky方程式を用いて価格弾力性をさらに分析する。Slutsky方程式において$${i=j}$$の場合を考えると、次式を得る。

$${\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial p_i}=\dfrac{\partial \bar x_i(p, u)}{\partial p_i}-\dfrac{\partial x_i(p, I)}{\partial I} x_i(p, I)}$$

左辺を弾力性の式にするため辺々に$${-\dfrac{p_i}{x_i}}$$を乗じ、次式を得る。

$${-\dfrac{\partial x_i}{\partial p_i}\dfrac{p_i}{x_i}=-\dfrac{\partial \bar x_i}{\partial p_i}\dfrac{p_i}{x_i}+\bigg(\dfrac{\partial x_i}{\partial I}\dfrac{I}{x_i}\bigg)\dfrac{p_ix_i}{I}}$$

この式は、定性的には以下の項に分解して解釈される。
(需要の価格弾力性)=-(補償需要の価格弾力性)+(所得弾力性)×(支出シェア)
従って、需要の価格弾力性が大きくなる条件を以下のように整理できる。

  • 密接な代替財が存在する⇔補償需要の価格弾力性が大きく、価格の変動で類似品への代替がすぐに起こる

  • 需要の所得弾力性が大きい⇔所得が1%増えた時の需要増加率が大きい
    ※需要の所得弾力性が1より大きい財を奢侈品という

  • その財への支出額が、所得の大きなシェアを占める

上述の例では、定性的には価格弾力性の背景を以下の通り整理できる。
ガスには密接な代替財がなく、奢侈品でないため所得弾力性も大きくないが、所得内シェアは一定程度を占める。総合的には価格弾力性は小さい。
牛肉は密接な代替財が存在し(豚肉、鶏肉、…)、奢侈品なので所得弾力性も大きい。しかし所得に占めるシェアは大きくないため価格弾力性は中程度。
外食は密接な代替財が存在し(内食、中食、…)、奢侈品なので所得弾力性も大きい。また、所得に占めるシェアも大きいため、価格弾力性が大きい。

次回からは、生産者理論を取り扱う。

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