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メフィスト賞受賞作家さんの作品に学ぶ

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メフィスト賞受賞作家さんの作品を読むたびに、感想と学びの言葉を綴っていきます。
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#物語

「時を壊した彼女  7月7日は7度ある」を読んで(面白かったおすすめです)

「時を壊した彼女 7月7日は7度ある」を読んで(面白かったおすすめです)

事故で死んでしまった友人を助けるため、過去の自分に現在の記憶を上書きできる装置を使って、7月7日を繰り返す物語。

 この小説は、本当に面白かった。そして本当によくできたミステリー小説だった。

  基本となる登場人物は7人だが、一度に過去の自分に上書きできる人数が最大4人と限られていることや過去の自分に記憶を上書きできる回数も一人あたり最大7回といった設定もすばらしかった。

 繰り返した7月7

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「密室方典」を読んで(気軽にタイパなミステリー小説を読みたい人にお薦め)

「密室方典」を読んで(気軽にタイパなミステリー小説を読みたい人にお薦め)

法廷遊戯の続きとなる短編小説

登場人物は前回と同じで、法科大学の院生と個性豊かな女子大学生2人による法律の解釈を軸としたミステリー小説。

前作に引き続き、美容整形、コンカフェ、SNSでの身バレ、DNA鑑定、ジェンダーレスといった、今の時代の社会現象をテーマにしている。

短い物語を無駄なく描かれているので、少しでも内容に触れると気づかずネタバレしてしまう気がするので、多くの文章は書きません。

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「無事に返してほしければ」を読んで  (”子どもだから”という偏見を見直すのに役立つかも)

「無事に返してほしければ」を読んで  (”子どもだから”という偏見を見直すのに役立つかも)

 この物語は3部構成で描かれている。最初の1部と2部と最後の3部は、物語としては繋がっているが、まるで違う作品のように感じた。
 
 1部で事件が起き、2部と3部で解決するという構成になっている。登場人物は、夫婦と長女と死亡扱いとなっている弟の長男である。物語は、2年前に川で行方不明になり死亡扱いとなっている長男を誘拐したという電話がかかってきたところから始まる。そして、その事件のさなか、さらに姉

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「匣の中」を読んで(蘊蓄が語られる小説に興味がある人には、たぶんお勧め)

「匣の中」を読んで(蘊蓄が語られる小説に興味がある人には、たぶんお勧め)

「奇怪な事件」「みんな探偵みんな容疑者の推理合戦」「理解を超えた結末」そんな奇怪な小説です。1964年の「虚無の供物」1978年「匣の中の失落」、1988年「匣の中」、2007年「天帝のはしたなき果実」・・・。僕の知識が足りず、列挙できる数は少なく申し訳ないが、このような奇怪小説は、もっと世にあって、将来も生まれ続けるだろうと考えている。

 奇怪な事件が起きる。関係者が集まる。その関係者が順番に

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「幻告」を読んで(選択により物語が変化するゲームが好きな人にお勧め)

「幻告」を読んで(選択により物語が変化するゲームが好きな人にお勧め)

 面白いゲームをしている感覚だった。望むエンディングに向かって、どの選択肢を選ぶかに悩む。これを選択するとこんな物語になるのかというのを楽しむ。そんな感じの本でした。「かまいたちの夜」のようなサウンドノベルが大好きな僕には、最高に楽しい小説だった。
 裁判を舞台にした物語、公判の進行に合わせて物語も進行していく。主人公の行動によって、公判の内容や人間関係が変化していく。最後の判決はどうなるのだろう

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「彼女の背中を押したのは」を読んで  (生きることに少し悩んでいる人にお薦め)

「彼女の背中を押したのは」を読んで  (生きることに少し悩んでいる人にお薦め)

 この人の本は、いつも生きることの難しさを教えてくれる。「いわゆる普通やあたりまえに生きること」に、「素直でいること」に悩む女性の考え方や生き様を教えてくれる。
 今回の本も同じである。ある朝、ある女性(以下「姉」)に妹から久ぶりに連絡があるが、姉は忙しいと相手にしなかった。その夜、妹がビルの屋上から落下し、意識不明の状態になったと母親から連絡がはいる。物語はそこから始まる。姉は、結婚を機に家族か

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「家族パスル」を読んで(家族愛に興味がある方にお勧め)

「家族パスル」を読んで(家族愛に興味がある方にお勧め)

これは、5編からなる短編集である。

どこかピースの足りていない家族が、ある家族の喪失を起点にして、
家族というパズルを完成させる物語

好き勝手するために家を出た次男坊
家族を失うことのつらさを知る男
母親を金の亡者と思って生きてきた青年
仕事一筋で家族と交流しなかった男
母親に愛されていないと思い込んできた男性

全体的に切なさを感じる物語
ハッピーエンドとまで言わないが、暖かさは感じる物語

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