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「自分を活かすセカイ」を拡張する時代

時代と共にだんだんと企業組織のあり方も変化してきていると異口同音に語られてきている。私は上図のように表現することが多い。「決まった方向にむかって機動力を高め、効率的に人を動かし、勝利する」というパラダイムが左である。そして「答えがないからこそ、多様性を高め、柔軟に人が関わり合って動ける環境を創り、社会をともに豊かにする」というパラダイムが右である。左が悪く、右が良いということではなく、左が限界を迎え、右に移行しているということである。日本では2011年の震災以降右のシフトが強まってきたと記憶している。ただ、完全ではなくゆっくりと移行が進んでおり、まだまだ左のパラダイムは強力であるように感じる。私の考えるポスト資本主義(前編)でも既述したように、資本主義を追求するなら左のパラダイムが正しいからである。VUCAと呼ばれる時代に入り、左のパラダイムで通じなくなってきたビジネス環境において、必要に駆られるように右側のパラダイムが生まれてきた。要は社会のパラダイム、ビジネス環境のパラダイム、組織のパラダイム、人のパラダイムに断層が生まれており、うまくかみ合わない状態がまさに現在であり、まだ調整の過程なのだろうと思う。*新型コロナの影響によってここに大きな揺らぎが生まれているが。

『組織のための個』から『個のための組織』へ

そんな中、近年キーとなるコンセプトが生まれてきた。それが「組織のための個」、つまり、組織の収益目標のためにふさわしい仕組みをつくり人を動かすことを是とする時代から、多様な個人が思いやビジョンを持ち組織はその実現を支援しながら、新しい価値を世に生み出すという個を起点とした組織のあり方への変化である。「個のための組織」と呼ばれている。つまり、一人一人が独自の思いやビジョンを持ち、互いに主体的に働きかけ価値共創できる環境を整え、支援するのが組織の役割であり、その結果として世に新しい価値を生み出すような循環を創り出すことこそマネジメントの本質に変わってきたということである。聞こえはいいが、実際「言うは易く行うは難し」であるのも真実である。

なぜ難しいのか

それは起点が個人が思いやビジョンを持つこと」だからである。
たいてい企業の中で働いていると目標は上から降りてくる。思いやビジョンと言うよりむしろ、責任と課題である。この仕組みの中で慣らされているのに急に要求されても困惑してしまうのは当然といえる。上から降りてきた責任と課題をこなす方が活力は出なくとも楽なのが実態であったりする。そんな企業組織の実態の中で、私が一つ異論を唱えたいことがある。

「あなたは何がやりたいの?」

これまで、誰かからこうした問いかけをもらったことはないだろうか。

私はそもそもこの問いが適切ではないと思うのだ。問われ続けることに意味はあるだろう。この問いの価値はよく理解しているつもりである。しかし、「やりたいことがあるならさっさとやっている」というのが心の中で生まれる多くの方々の答えである。この問いをかけられた人はたいていそこから迷走が始まり、人によっては逆走することやコースアウトしていくこともあるのではないかと思っている。

私はこう思う。

あなたはどんな世界を実現したいと願う人なのか

こちらの問いが適切ではないだろうか。

自分が心から望むセカイの萌芽

誰しも心の中に描く理想のセカイが存在している。(ここでいう「セカイ」とは、あくまで物質的な世界を表現しているのではなく一人一人の認知によって見えている世界を指している)そして、そこにはたいてい無意識だ。でも、必ずあなたには力になりたい対象がいて、実現したい理想の環境があり、心と身体の理想状態がある。つまり「誰にどんな環境を作り、どんな気持ちになって、どのような状態を実現することがあなたの理想なのか」というシンプルな問いがこの本質であり、その萌芽は自分の内側のエネルギー、つまり感情がそのヒントを自分に与え続けてくれていたはずである。過去をよく振り返りながらそれを見つけて形にしていくとあなたが望む小さなセカイが構成できる。私ならば「孤独で必死に努力している人たちに、心から信頼しあい、ともに歩むことを誇りに思える仲間が生まれる環境をつくり、穏やかにかつ情熱を絶やさず生きてもらいたい」と表現できる。人は内側に臨むセカイを外側に表現したいと願う存在だと思っている。アーティストとは、まさにそれを地で行く仕事だと思う。誰しも実現すると心が満たされる理想郷がある。だからこそ「何がしたい」が自然と生まれ、「どうありたい」も見出されてくる。私はこの萌芽を「源泉」と呼び、それを実装することこそ、生きることだと思っている。

そして実現したいセカイを現実に重ね始めると、枠を広げていくことができる。対象となる人たちの数、環境の範囲を変えていくだけで地球規模に発展させることができる。このように枠を超えて自分の実現したいセカイを実装する過程こそ、現代における真の成長であり、真の挑戦だと思っている。

この実現に向けて実装が始まると人は息を吹き返したように活力が戻る。やがて枠を超えていくことを楽しめるようになるのだ。そして、その枠を超えた先にはあなたを待っている誰かがいる。あなただから救いになれる。この実感こそ真のやりがいへとつながっていくのである。まずは今の枠を出て表現していくことがスタート。私はこの「自分のセカイを拡張する」という概念に基づき、「Authentic challenge(真に自分らしい挑戦)」という名称でプログラム化し半年かかりで伴走しながら企業の成長と挑戦のあり方の変革を進めている。

その先に何があるのだろうか。一人一人が枠を超え自ら実現したいセカイが重なり合った先にあるのが「新しい社会創造」である。人が自分を活かし、誰かを想いながら願うセカイを互いに重ね合った先に浮かび上がる社会の姿とはおそらく、現在の資本主義とは異なった社会だろう。だからこそ、使命感をもって自分を活かしながら社会創造に向き合う人たちとの対話も必要で、この過程でそうした方々と向き合い、触れ合うことで意識が大きく変容していくことがある。その接点も欠かさず設けている。民間企業には社会を変える影響力と技術がある。多元セクターには社会課題の専門性と使命・情熱がある。それだけにとどまらないが、双方の接点が上手く働き、新しい社会創造が実現できることを切に願っている。

私はこれこそ、人が人らしくありながら生き、社会システムを本来の理想形へと変容させていくための本質的なアプローチであると強く信じている。そのきっかけをつくるとともに、そうした人たちがたくさん活躍する世の中を夢見ている。

コロナ時代のような不安と混迷の状態に入り、動きや環境の制限が入ったとしてもコアをぶらさず、揺るがない理想世界をひとりひとりがもち、共創できる環境を支援していきたい。

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