見出し画像

経験しながら学ぶ Withコロナ時代のリーダーシップと組織への向き合い方⑤

前回の記事では、2極化の兆候から最適化への道について書いていた。その後、世界はどうだろうか。懸念していたことが現実化するかのように香港をめぐる米中間の対立・ミネアポリス事件・ブラジル国内の対立が起こっている。書いた直後から比較的大きな対立が急に表面化してきた。コロナと直接的な関係があろうとなかろうと、この期間でコロナをきっかけに生み出されていた世界の多様な2極化がきっかけで、分断や最適化に向かわない要素同士の間に、強力に「対立」の力学が連鎖的に働き始めているのではないかと危惧している。新型コロナウィルスという存在は人間社会の間にあった対立概念を表面化する力を持っているのかもしれない。今後おそらく様々な「対立」が浮かび上がり、そしてそれは他の2極化の表面化との相互作用で悪化してしまうような事態が起こりうるように思う。そのような最悪のシナリオを現実化させないために何が大切なのだろうか。今回はそこに焦点を当てて記事を書いてみた。

1.『変容期』に欠かせないこと

世間では、第一波を乗り越え第二波に備える動きが盛んになり始めている。ここで改めて確認したいことだがコロナウィルスの拡大の収束とは世界が元に戻ることを意味しているわけではないという真実である。メディアでは「再開」「戻ってきている」という言語が多く使われるようになっていることで「社会が元の状態に戻る」という幻想を抱きがちなような印象を受ける。しかし、現状は全く異なり、経済の悪化はまさにここからという状況である。私はこの影響は急に大きなショックと共に訪れるような予感がしている。油断していると手遅れになるのではないだろうか。またグローバル経済という名の通り、世界とのつながりをもって経済活動が営まれている以上、日本単体で経済を考えるわけにもいかない。依然としてシリアスな状況が続いているわけである。だから、ここで改めて伝えたいことは「戻るか戻らないか」が重要なのではない。もはや「変わる」以外の選択肢はなく「どう変わるか」という課題しか目の前に存在していないのである。東京都が「Withコロナ宣言」と「Withコロナ」という言葉を公的な表現で用いたのもそれを表しているように感じている。

では、この変容期に欠かせないこととは何か。それは自然界が教えてくれている。芋虫から蝶への「変態」のストーリーである。よく「成長」を語る際に例えとして用いられることもあり、私自身もこれまで何度も起用してきた。芋虫が蝶になるには一度蛹(さなぎ)になる。その蛹の中で芋虫はその体が液体化するというのだ。そのうえで、再構成し蝶の姿になり蛹の殻を破って飛び立つという。だからこそ、一皮むける大きな成長を遂げるためには、自分の身体が液体化するような修羅場経験や、一旦これまでの常識をリセットして再構築する試みが肝要なのだという例えである。しかし、今回私はこの話のある盲点に気が付いた。それは変容が起きるためには「蛹」という「器(コンテナー)」が必要であるという一見当たり前のような真実である。つまり「変容を可能にするための環境」が欠かせないはずなのだ。蛹という器の中では、あたたかく、守られている。だからこそ、芋虫は安心して体を液体化するようなこともでき、再構築することで蝶のように美しい変態が可能なのである。変容に必要なのはまさに「あたたかさ」や「思いやり」にあたる生命らしいエネルギーなのだ。

2.変容を加速する『社会変革』

そして、まさにこの世界が新しいフェーズを無事迎えられるよう、あたたかさや思いやりで包んでいく必要がある。前回の記事に記した自分自身の内側や他者との対話による「最適化」という営みはその一つの方法でもある。もう一方で具体的な試みも検討していく必要がある。それをシンプルに一枚に表してみた。

このコロナショックにおいて、様々な分野が様々な影響を受けている。大きく2つの入り口をとりあげてこの影響とこの先の姿を考えてみた。まず、コロナショックにおいて移動や空間の制限によりこれまで積み上げてきた社会のインフラが機能しなくなっている。急速に痛んだ社会構造を修復しリ・デザインするための営みが欠かせない。これまで「地球環境」の面に焦点を当ててきた世界の投資の潮流「ESG投資」は一定期間「社会」に焦点が変わり、この再生と創造に尽力する企業に投資が流れていくのではないかという仮説である。その結果、企業は新社会創造のためのビジネスをゼロから考え、自ら事業をトランスフォームする必要が出てくる。もう一つは世界的な景気悪化により経済圏が縮小していくことで、失業も含め多くの人口の収入が大幅に低下する。そこで、多くの人々は働く場所を一か所にとどめて収入を得るのではなく、副業・兼業により分散型で収入を得ていくことを考えるようになるのと、企業がそれを推進するような動きを加速させる。結果として、これまでとは異なる生態系(=社会)を形成し、自律分散型で働くことが当たり前になるようになる。ちなみに、この生態系の形成には自律分散型で働く目的が大きく影響する。多くの企業に勤める人が新社会創造のための副業・兼業を通じて、失業している方やほかの企業や国にいて同じような環境にある方々と自由につながりながることで、世界に分散した能力や知恵の結晶化が新社会創造の原動力になっていく。このようにして社会のセーフティネットの網目が細かくなっていき、誰にでも参加できる複数のコミュニティが形成されていく。ゆくゆくは多くの国でベーシックインカムの導入が進んでいくかもしれないが、その前に企業組織と自律分散で動くコミュニティの共存が世界に「あたたかさ」と「思いやり」を網のように形成していくことでその導入をスムースにさせるのではないだろうか。私はこのようなビジョンを持っている。「誰一人取り残さない」というSDGsの目標はこの延長に実現できないだろうか。

3.組織で推進していくこととは?

では、このような社会の変革を進めるために企業組織では何が必要なのだろう。まずは、働く人々が社会とのつながりを実感していくことを支援すること。ちょうどよくこの期間、外出自粛を通じて家での暮らしや地域の中での暮らしを意識することが多くなった。以前よりも働く人々が社会とのつながりを意識し始めていることと思う。また、デジタル空間での広がりによって、自分が住む地域外の方々とも容易に出会うことも可能になり地域を超えたつながりも深く実感できるようになってきている。つまり地域だけでなく、価値観をともにするコミュニティを通じて社会とのつながりが徐々に深まってきた。こうした、様々な場所と自分のつながりを味わうだけでなく、その中で何ができるかを考えていくことできっと新しい生態系の在り方や社会創造を目的としたビジネスアイデアが生まれてくるのかもしれない。こうした環境を企業内外で形成していくことは一つの指針になりうる。そこで、こうしたことが起こりやすいように自律分散型で働ける環境整備、オフィスを持たない組織のあり方と成長の仕方を探求することは欠かせない。このように、人と社会のかけがえのない資本の相互作用により経済の最適化と人の生き方の最適化が行われていくことこそ、企業のポストコロナを見据えたトランスフォーメーションへのプロセスなのかもしれない。

対立という方向に向かうことなく、互いを受容し合い、「あたたかさ」と「思いやり」を循環させる小さな網目をたくさんつくること。ここにどのように貢献できるかが、一人一人が社会創造者になりうるこの時代の真の挑戦のような気がしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?