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岩手県の民俗学(胆沢の民話)

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岩手県の胆沢という地域に伝わる民話や伝説を紹介しています。 民俗学的に価値のあるものだと思うので、目にとまった人の記憶に、少しでも残って伝わっていけばいいなと思います。
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#江戸時代

胆沢物語『小夜姫②』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【五章】小夜姫【二節】

筑紫はもう、春が過ぎようとしていました。

博多から馬を捨てて、船に乗りました。

船路は必ずしも穏やかなものばかりではありませんでした。

奈良から再び陸路に変りました。

しかし路銀の都合もあって、馬を雇うことはできませんでした。

したがって吉実一行はもちろん、姫も硬い草履の旅でなければなりませんでした。

慣れぬ

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胆沢物語『吉実の苦悶』【岩手の伝説㉑】

胆沢物語『吉実の苦悶』【岩手の伝説㉑】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

【三章】吉実の苦悶

吉実一行が釣りに来た日は、贄(にえ)を上納する八月十四日の一ヶ月前に当たっていました。

数えてみると確か、今年の贄上納の当番は、机地庄兵ェ尉でありました。

※机地庄兵衛尉・・・つくえじしょうべえのじょう。おそらく机地という地域の庄兵衛という老翁。

そうすると、来年は吉実であらねばなりませんでした。

吉実はすっかりふさ

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秋田街道夜話【岩手の伝説⑫】

秋田街道夜話【岩手の伝説⑫】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

※夜話・・・やわ。夜の余暇にする話。

秋田街道といえば、水沢を南北に通ずる往還(現在の国道四号線)を、

駒形神社あたりから右折して、板谷林(いたやりん?)、浅野、

広岡を経由、尼坂にある追分(指導標)を左に見ながら、

林福野(りんぶくの)を通って、供養塚の東端に入り、

あとは一直線に出店(でだな)、土橋(どばし)、愛宕、

市野々(いち

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御種の松【岩手の伝説⑨】

御種の松【岩手の伝説⑨】

参考文献「いさわの民話と伝説」 編:胆沢町公民館

今を去る三百七、八十年前、当時の領主によって御種松(おたねまつ)が植えられ、その善政でわが村も、いたる所に人家が見られるようになりました。

しかし、そこここの林という林は、用材や薪炭材(しんたんざい)として、

頻りに(しきりに)伐採されましたが、植林はしなかったので、果ては切株さえ掘り起こされるようになり、再び蝦夷時代の草原を思わせる有様にな

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