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【映画感想】娘は戦場で生まれた 2019

はじめに

 この地球上で最も賢く、また最も愚かな生物は人間だろう。
 「アレッポの戦い」と呼ばれる2012〜16年にシリアで起こった内乱をご存知だろうか。シリア政府軍と反政権派の民衆によりアレッポ市内で長期間行われた内乱である。
 本作はジャーナリストであるワアド・アル=カティーブが当時の状況を撮影した、ドキュメンタリー映画である。
 僕自身当時は小中学生ぐらいで、この内戦が起こっていたことなど全く知らないが、ウクライナ戦争と同じように、ロシアが主体となる軍事行動としては現在と繋がるところもあり、中々に興味深い内容の映画であった。
 僕はこの映画について、生々しい描写が多数あり、気軽に人に勧められる映画ではないが、観て損はないと思う。

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【映画感想】

 死んでいく仲間、幼い子ども、降り続ける空爆、止まらない砲撃。ショッキングな映像ばかりだった。世界トップクラスに治安の良い日本において、ニュースでしか得られない紛争地域の様子を、真実を知ることのできるエグい映画だ。
 1番驚いたのは、人々が普通に暮らしているということ。四六時中どこから攻撃が来るか分からない状況下においても、普通に暮らしているのだ。そしてそれこそが政府への反抗と語られていた。退去を求められていた当時、退かないことが唯一の反抗だったのであろう。
 記憶に残っているのは子どもたちだ。ある子どもに将来を聞くと、建築家になって街を再建したいと語っていた。思わず涙が出そうになった。やはり戦いに生産性は無いと改めて感じた。
 また学校の教室を地下に置き、空襲を受けても子どもたちに被害を出さないように工夫されていた。紛争地帯においては学校教育というのは行われにくいものなのだが、アレッポの大人の対応は子どもたちの未来も見据えたものとなっており感心した。
 病院すらも空襲し、大人も子どもも見境なく次々と死んでいく。親兄弟を失う子ども、子を失う親、死体を前に神に祈っている姿が目に焼き付いている。
 子どもたちに罪はないが、大人たちにも罪はないだろう。独裁政権はいずれ革命される事が世の常である。正直、死んでいった仲間にその意味をもたそるために戦いを続けている側面もあるとは思う。引くに引けないというやつだ。しかし、「アレッポの戦い」は降伏という形で幕を閉じる。負けてしまっては何も意味は残らなず、記録に残るだけなのだ。敗者は屈服するしかない。それはとても悲しいことだ。
 こんな状況下で子どもを作るのはどうなのか。僕はまだ結婚もしておらず、実子へ向ける愛情がどれほどのものなのかは分からない。ほとんどの人は反対意見を示すのではないかと思う。無論、僕自身もこの厳しい状況下での立場であったら子どもをつくり、育てきる自信は持てない。ワアドさんは運良く家族全員助かっているが、一度トルコの義父家に訪れた際に子どもだけでも預けておくべきだ。もう一度アレッポに戻るというのはただワアドさんのエゴであり、決して子どもの為を想ってのことではないことを理解するべきであったと思う。これがジャーナリストの性なのかも知れないと感じた。

終わりに

 良いものを観た。が、はじめに書いたように人に安易に勧めては駄目な映画だ。
 世界の紛争地帯や今のウクライナではこのような現状が日常茶飯事であると思うと、なんとも言えない気持ちになる。心底日本に生まれて良かったと思うが、同情などといった感情を持つのは逆に失礼なのではないかという考えにも至った。
 今世界が取り組んでいるSDGsの16番に「平和と公正をすべての人に」という項目がある。こんな事をやっているようじゃ、到底叶うことのない目標に思える。自国の繁栄のために他国を犠牲にするという考えは指導者として必ずしも間違っているとは言えないが、国際社会に即した統治・政治をしていく必要があると強く感じた。

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