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小説「ポルシェに乗った地下芸人」

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36歳で急に思い立ってお笑い芸人を志した私の自伝的なやつです。 曖昧な記憶と都合が良い記憶改竄がなされている可能性がありますので、あくまでフィクションとしてお楽しみください。
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#ノンフィクション

ポルシェに乗った地下芸人.20

ポルシェに乗った地下芸人.20

 秋らしさが出てきた10月初旬。首相公邸の森を眺めながら僕は、ブリーフを履いた地下芸人の弟子としてどのように活動していこうか考えていた。

 彼らはお笑い芸人として生きていこうとしている。芸人として収入を得て、それで生活していくことが人生の目標なのだ。しかし僕は生活がすでにできているし、会社経営というリスキーな生き方をとても気に入っている。

 贅沢をしなければ暮らしていける収入があり、それなりに

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ポルシェに乗った地下芸人.19

ポルシェに乗った地下芸人.19

 「熱湯ではなく熱した油に入る」「中世ヨーロッパの拷問器具を実際に試す」「雪の中に裸で埋められて眠くなるまで待って、一番面白い夢を見た人が優勝の大会」など、YU-TAはテレビでやりたい企画を僕に次々に話してくれた。

 もちろん、そのすべてに全力で相槌を打つ。批判的なことは一切言わない。言っても仕方ないし、実現する方法がもしかしたらあるかもしれないのだから。 

 話題はネタ作りのことになってきた

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ポルシェに乗った地下芸人.18

ポルシェに乗った地下芸人.18

 話は小汚い三人に若手芸人との打ち上げに戻る。

 彼らは恥ずかしげもなく現在のテレビ番組に文句を言う。

「今のテレビは規制ばっかりで全然面白くないんですよ。」

「同じ芸人ばっかりで、全然若手を使わない。だから面白くないんですよ」

「大手の事務所に所属してる、顔が良いだけの芸人ばっかり出てるから、面白くないんですよ。」

 とにかく彼らは現在放送されているテレビ番組が面白いと思えないらしい。

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ポルシェに乗った地下芸人.17

ポルシェに乗った地下芸人.17

あまりに衝撃的なお笑いライブ体験となった。

僕は後日、またあのライブが見てみたいと思ってネットで検索してみた。

素人制作感丸出しのホームページがあった。前回は、お笑いライブ情報がいろいろ出ているポータルサイトで見つけたので気が付かなかった。

次回のライブ情報をクリックしようとしてふと「出演者募集」というバナーが目に入った。

みてみると、「出演者募集。ネタ見せ無しで出られます。エントリー料3

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ポルシェに乗った地下芸人.16

ポルシェに乗った地下芸人.16

そういえば、僕はなんでお笑いライブに出たのだろう。きっかけを思い出す。

いや、大した事ではないのだ。今年の2月頃に気まぐれに「お笑いライブでも観に行くか」と思って、ネットで適当に探して観に行った。はじめてのお笑いライブ鑑賞である。

新宿の駅ビルにある有名なお笑いの劇場だ。テレビで見たことがある芸人がたくさん出ていて面白かったが、まあ、テレビで見る感じのネタだった。

次に、テレビに出ていない、

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ポルシェに乗った地下芸人.15

ポルシェに乗った地下芸人.15

新宿の裏の裏、もはや大久保なのかも分からない小さな公園についた。彼らのスムーズな足取りを見るに、この公園は行きつけなのだろう。

2つ並んだボロボロのベンチに荷物を置く。手には飲み物を持ち集う4人。3人の粗末な身なりの若者と、イギリス製の生地でオーダーしたジャケットを羽織るアラフォー1人。

YU-TAがいう

「じゃあ、ライブお疲れ様でしたー」

乾杯をする4人。うまそうにストロングチューハイを

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ポルシェに乗った地下芸人.12

ポルシェに乗った地下芸人.12

YU-TAは得意げに僕の問いかけに答えている。お笑いを始めたきっかけや、過去に芸能事務所に所属していたが、今は無所属の、いわゆるフリー芸人であることなど。

金属製の扉ギギッと空いて、カルボナールの2人が暗い顔つきで出てきた。

アキちゃんは扉を出るやいなやYU-TAの元へ雑種の室内犬のように駆け寄り、またも気持ちの悪い甘えた声で言った

「YU-TAさぁ〜ん、スベっちゃいましたよぉ〜」

この世

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