ポルシェに乗った地下芸人.17
あまりに衝撃的なお笑いライブ体験となった。
僕は後日、またあのライブが見てみたいと思ってネットで検索してみた。
素人制作感丸出しのホームページがあった。前回は、お笑いライブ情報がいろいろ出ているポータルサイトで見つけたので気が付かなかった。
次回のライブ情報をクリックしようとしてふと「出演者募集」というバナーが目に入った。
みてみると、「出演者募集。ネタ見せ無しで出られます。エントリー料3,000円ピンコンビ同額」と書いてある。
ん?このライブは誰でも出られるのか。え?誰でも出られる?
これは僕にとってとても衝撃的であった。
入場料をとってお客さんを入れるライブなのだ。そこに、なんの審査もしないで素人を出演させるというのか。しかも出演するための金も払わせる。
なんと!!実に優れたビジネスモデルではないか!!
これは激アツである。出る人からも見る人からも金を取れるのだ。盲点だった。
お笑いライブを自分でやるとしたら、まず人気の芸人を呼ぶだろう。当然ギャラは払う。そして、会場代とキャパ、客単価からギャラの上限は決まるわけで、呼べる芸人を調整する。まあ、そんなふうに考えるだろう。
しかし、このライブは違う。ハナから客を呼ぶ気が無い。誰かも分からんやつが出演するのだから一般的なお笑いファンなど来ないだろう。来るとしたら僕のような時間と金がまあまあ自由になるタイプの変わり者くらいだ。
これには感心しきりだったのだが、ついつい「変わり者」の血が騒いだ。
いや僕は、本当の変わり者ではない。変わり者感を出す事で「自分って、他人とは違う生き方してるんすよぉ」というマウンティングをカマすタイプの、とても品質が悪い変わり者モドキなのだ。
だから、このお笑いライブに出演してみようと思った。
36歳の社長がお笑いライブにいきなり出たら面白いじゃん。人に話したら「へぇ、変わってますねぇ」って言ってもらえるじゃん。
ひたすらに浅はかな、もし私の友人知人にいたら関わりを断ちたくなるタイプの思想に浸っていた。
もう一つは、ジャーナリズムだ。
もっと芸人の生態を知りたいと思った。いや、むしろこの好奇心がもっとも大きな動機だったのかもしれない。
彼らは何を思い、何を目指してお笑いライブに出ているのか。日々をどう過ごしているのか。現在のテレビ番組にどのような意見をもっているのか。
同じ立場から語ってみたいと思ったのだ。
僕が客として彼らとコンタクトを取る事は容易だろう。Twitterもある。ライブが終わった後に「出待ち」でもすれば話すことなど簡単だ。
しかし、それでは本質に迫れない。
あくまで「接客」として対応されてしまう。
などといろいろ心の中で言い訳してみたが、結局は閉塞した日常から抜け出して、もう一つの人生を平行して経験したかった。インターネット上にバーチャルの社会を作って楽しむ「セカンドライフ」というゲームのようなサービスがあったが、そのような「もう一つの小野」が欲しかった。
ゴキブリ養殖の会社を作ったのもこの時期だった。無性に「新しい何か」をやりたくなったのだ。
しかし、「何か」という漠然とした表現をするときに、心の中でGLAYが浮かんでくる。知らんけど。
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