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ポルシェに乗った地下芸人.15

新宿の裏の裏、もはや大久保なのかも分からない小さな公園についた。彼らのスムーズな足取りを見るに、この公園は行きつけなのだろう。

2つ並んだボロボロのベンチに荷物を置く。手には飲み物を持ち集う4人。3人の粗末な身なりの若者と、イギリス製の生地でオーダーしたジャケットを羽織るアラフォー1人。

YU-TAがいう

「じゃあ、ライブお疲れ様でしたー」

乾杯をする4人。うまそうにストロングチューハイをのむYU-TA。アキちゃんは意外にも紙パックのワインを飲んでいる。なぜだか少し腹が立つ。キノコ頭のくせにワインを飲むなど、思い上がりも甚だしい。

アイアン鉄雄は紙パックのピルクルにワンカップ焼酎を入れて飲んでいる。ビックルとピルクルの区別が僕にはまだつかない。

この気持ち悪い乳酸菌酎ハイを飲むアイアン鉄雄を、僕は冷たい目で見ていた。アイアン鉄雄は僕の視線に気がつき、うすら笑いを浮かべて言った。

「あ、ジョニーさんも飲みます?」

飲まない。そんな気持ちが悪い酎ハイは、断じて飲まない。美味しいかもしれないが、飲まない。

紙パックの乳酸菌飲料に平然と激安焼酎を投入するセンス。彼はどう生きてきて、これに辿り着いたのだろう。

まあ、何にしてもこの3人は楽しそうだ。

アキちゃんが、相変わらずの気持ち悪い甲高い甘えた声でYU-TAに言う。

「ねぇ、YU-TAちゃぁん。俺たち今日すべっちゃったよぉ。どうすればいいか教えろよぉ」

口調を上回る気持ち悪さを内包した、「先輩にタメ語ノリ」である。

「秋川ぁ、お前、俺先輩だぞぉ。俺以外にそんな言い方したらダメなんだからなぁ」

と、ニヤけながら返すYU-TA。この2人の先輩後輩の関係はわりとしっかりしている感じだ。

僕はそれを、とりあえずはにこやかに眺めながら聞いている。

話題が最近のテレビ番組の話になった。彼らは、自分たちが出られそうな番組について話し始めた。

「あらびき団が終わっちゃったから、もう俺らが出たい番組なんて無いんですよね」

と僕に語りかけるYU-TA。こいつはどうやら、自分が番組を選べる立場であると認識しているようだ。

「出られる」ではなく「出たい」という観点でテレビ番組を見ているのか。まあ、そういう考え方は大切か。僕もそういう視点でテレビを見てみよう。

YU-TAの発言に学びを得てしまった。たしかに有益な情報を得たが、ブリーフ1枚で舞台袖で西野カナを歌うようなヤツからこの情報は聞きたくなかった。できれば本格派漫才師のツッコミ的な芸人から聞きたかった。

「今、テレビ東京くらいしか面白い番組作ってないんですよ」

なおも続けるYU-TA。

いや、西野カナを歌うブリーフの青年を出してくれる番組など、どのテレビ局にも無い。なぜなら、世間がそれを望んでいないからだ。

いや、それを望む人がいないなどとは思わない。むしろ僕自身がそれを望む側でもある。

しかし、マスメディアにおいて、ましてやスポンサー企業が存在するテレビにおいて、彼を起用する企画があるのだろうか。いやない。

と、ついつい心の中で反語表現をしてしまうあたり、僕の知性である。

アキちゃんが、酔った赤い顔で僕に安いワイン臭い息で尋ねる。

「ジョニーちゃんは、なんでお笑い始めたの?」

そりゃそうだ。30代後半のおじさんが急にお笑いライブに出始めたのだから、疑問もあるだろう。

がしかし、僕はすぐに答えられず、うーんとうなってしまった。


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