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日記とエッセイ

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僕のエッセイです。
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#ストーリー

日記:ビリーのボサノヴァ

 早春が来て、僕はもう一度ペンを取ることにした。
 ただ、怖くて仕方ない。過去作を彼女と読み返すたびに「本当にこのようなものが書けるのだろうか」という思いがこみ上げる。また、同時に、「これ以上のものが書けるのだろうか」とも不安になる。僕は自分に問いかけるのだ。おまえの才能はすでに使い果たしてしまったのではないか? と。
 「才能」ではないのかもしれない。「熱量」なのかもしれない。
 久しぶりに書い

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妄想と通信#1 「半額の蕎麦」

妄想と通信#1 「半額の蕎麦」

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眠りても 
我が内に潜む森番の 
少年と古きレコード一枚
――寺山修司

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 僕にはデートの予定があった。12時からのデートの予定だ。グーグルは奇妙な魔法のように電車の到着時刻を教えてみせた。「11時50分」
「11時50分まえには着くみたいだ」
 僕はそうLINEした。
 しかし、11時50分、僕はまだ電車の中にいた。広い庭や畑がちらほらとあり、白い砂の空き地や、文化住宅の並ぶ街並

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