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壁ドン←わかる。胸キュン←”キュン”ってなに?
中学3年生の2月14日の思い出。
放課後、僕は下駄箱へ向かう。
早く帰って受験勉強をしなければならない。
「今日は数学の二次方程式をベンキョーするか」
外靴に履き替えようとしたとき、声をかけられた。
「どうせ、誰かももらってないんでしょ」
差し出された手には、小さな箱が乗っている。
![](https://assets.st-note.com/img/1715839179378-ep0NzTcEoS.jpg?width=800)
「おぉ、義理でも嬉しいよ」
「義理じゃないわよ・・・・・・ばか」(小声)
「エッ!?」
胸キュンである。
先日、中学生カップルが休日の公園でのんびりデートをしているのを目撃した。
そのとき、ふとこの「胸キュンエピソード」を思い出したのだ。
だが、ここで疑問に思う。
「胸キュンの”キュン”って何だ?
少し前に、「壁ドン」というものが流行った。
![](https://assets.st-note.com/img/1718796306511-IXsq3DPqeB.jpg?width=800)
「壁ドン」をwikipediaで調べてみると、
男性が女性を壁際まで追い詰め、壁を背にした女性の脇に手をつき『ドン』と音を発生させ、腕で覆われるように顔が接近する
と書いてある。
つまりこの「ドン」は音のことだ。
しかし、「胸キュン」の場合、「キュン」という音は発生していない。
だとしたら、この「キュン」は一体何なのだろうか?
というわけで、今回のお題。
![](https://assets.st-note.com/img/1718796658513-HP9uycrRZq.png?width=800)
1.オノマトペ
「キュン」について、こう思った人がいるかもしれない。
「この”キュン”は、あれだよ、あれ。オノマトペってやつ?」
そのとおりである。
オノマトペとは、
◆ワンワン
◆サラサラ
◆きらり
◆がたんごとん
◆にっこり
◆ゆらゆら
といったものだ。
オノマトペは2種類に大別することができる。
①擬音語
実際の音をまねて、言葉とした語
![](https://assets.st-note.com/img/1718796888542-SrpL11oUtY.png?width=800)
②擬態語
(実際には音はしていないが)状態や様子を感覚的に音声化して、言葉にした語
![](https://assets.st-note.com/img/1718797011035-tC4MsgCa3Y.png?width=800)
それでは「ドン」と「キュン」をそれぞれ擬音語と擬態語という観点で考えてみよう。
◆壁ドンの「ドン」
=「ドン」は擬音語
=「ドン」は音のこと
◆胸キュンの「キュン」
=「キュン」は擬態語
=「キュン」は音ではない
ということがわかる。
では、この「キュン」とは何なのか?
オノマトペ辞典で調べてみた。
【きゅん】
感動して胸が締め付けられるようになるさま。
『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』
小学館/2007年10月
p74
意味はわかるが、由来は書かれていない・・・・・・。
これは、自分で考えるしかなさそうだ。
(いつものパターンです)
![](https://assets.st-note.com/img/1718797300557-q0FeMdib6S.png?width=800)
2.「胸キュン」VS「胸がドキドキ」
「胸キュン」に似た言葉に「胸がドキドキ」という言葉がある。
例として、
「今日の初デートで、胸がドキドキした」
なんて使い方ができる。
![](https://assets.st-note.com/img/1715843287369-8JkDwiDx7b.jpg?width=800)
この「ドキドキ」は、いくらでも例を挙げられる。
◆見つめられると、胸がドキドキしちゃう
◆〇〇さんと話すたびに、胸がドキドキする
◆告白する!そう考えただけで、胸のドキドキが止まらない
「ドキドキ」は「キュン」の代用になりうるのか?
比較してみよう。
◆見つめられると、胸がドキドキしちゃう
◇見つめられると、胸キュンしちゃう
◆〇〇さんと話すたびに、胸がドキドキする
◇〇〇さんと話すたびに、胸キュンする
◆告白する!そう考えただけで、胸のドキドキが止まらない
◇告白する!そう考えただけで、胸キュンが止まらない
うーん、何かニュアンスが違いますなぁ。
でも、何がどう違うかは、わからない。
「キュン」と「ドキドキ」を比較すれば、「キュン」の正体がわかるかもしれない。
3.音とイメージの結びつき
突然だが、下記の図をご覧いただきたい。
![](https://assets.st-note.com/img/1715849681169-It4BjqrFE7.png?width=800)
『音とことばのふしぎな世界 メイド声から英語の達人まで』
岩波書店/2015年11月
p13
「1」と「2」の2種類の図がある。
それぞれに「マルマ」と「タケテ」という名前(特に意味のない架空の名前)をつけるとしよう。
あなたは、どちらの図にどちらの名前をつけるだろうか?
![](https://assets.st-note.com/img/1715849681169-It4BjqrFE7.png?width=800)
どっちが「タケテ」?
多くの人は、
![](https://assets.st-note.com/img/1715850335056-iUZ0pum9mp.png?width=800?width=800)
「1」に「マルマ」とつけたのではないだろうか。
そして、
![](https://assets.st-note.com/img/1715850617193-w15JGJHZGO.png?width=800?width=800)
「2」に「タケテ」とつけたと思われる。
日本語に「丸」があるから、この結果になるのではない。
日本語話者以外でもこの結果になることが、研究で明らかになっている。
【補足】
この図は、ヴォルフガング・ケーラーという心理学者が『ゲシュタルト心理学』という本で使ったものです。
つまり、われわれ人間は、
「マルマ」という音は”丸っぽい”
と感じ、
「タケテ」という音は”角ばっている”
と感じるのだ。
他の例も挙げよう。
以下の言葉からは、どのような印象を感じるだろうか?
◆パンパン
◆ぷくぷく
◆ぷっくり
◆ぽんぽん
なんとなく、”膨らんだ”イメージを感じないだろうか?
[p]の音には、空気が入って膨らんだイメージを感じるのだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1715925350950-hklAkoM19o.png?width=800?width=800)
(canvaのAI画像生成)
つまり、音と意味は関連がある。
音から意味の連想が直接起きることを、音象徴という。
![](https://assets.st-note.com/img/1718797552656-ctsFR17NQB.png?width=800)
4.「ドキドキ」から何を連想する?
以下の2つの文を比較していただきたい。
AとB、どちらが「痛そう」だろうか?
A:肩をトントン叩かれる
B:肩をドンドン叩かれる
A:頭に何かがコツンと当たった
B:頭に何かがゴツンと当たった
濁点がついている方が、「痛そう」だと思ったのではないだろうか。
なぜなら、濁点がついている音からは「強い」という意味を連想するからだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1715927550748-c5iLyGM1As.png?width=800)
こう考えると、「ドキドキ」は実に秀逸な表現だと思う。
好きな人を前にし、心臓の鼓動が強くなっていることを「ド」という濁点つきの音で見事に表しているからだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1718870008769-VIWQp7sFfD.png?width=800)
5.「キュン」から何をイメージする?
「ドキドキ」についての理解は深まったので、次は「胸キュン」である。
インターネットで「胸キュン 初めて使った人」などと検索しても「この人が最初に使いました!!」明確な答えは出てこなかった。
図書館に行っても、わからず。
だが、私は経験で知っている。
日本語の謎は、放置すればいつか答えがやってくることを――。
それは、ゴールデンウイークに遊びに行った鈴鹿サーキット(三重県の遊園地)でのことだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1715930729462-D9psywoL88.jpg?width=800)
(他は顔が写っているので)
朝から夕方まで遊び、パーク内のホテルに入ると、娘が言った。
「はぁ~、ちゅかれた~」
「つかれた」ではなく「ちゅかれた」である!!
「ちゅかれた」という言葉から、なんとなく「カワイイ」という印象を受けないだろうか?
他の例を挙げよう。
すべりだい
→しゅべりだい
だいすき
→だいちゅき
すごい
→しゅごい
などは、(子どもが言うと)カワイイ感じがする。
つまり、”小さい「ゆ」”が含まれる言葉はカワイイのだ。
他にも、若者の間で「おぱんちゅうさぎ」というキャラクターが大人気だ。
— おぱんちゅうさぎ (@opanchu_usagi_) October 8, 2022
「おぱんちゅうさぎ」は「不憫かわいい」と言われている。
姿や行動もカワイイが、「ぱんつ」ではなく「ぱんちゅ」という名前だからこそさらにカワイく感じられると思う。
「胸キュン」もこれと同じ。
”小さい「ゆ」”があるため、カワイく感じられるのではないだろうか?
特に、「ドキドキ」と比較するとその可愛らしさがより感じられるような気がする。
![](https://assets.st-note.com/img/1718869893812-WzGSbuRYrE.png?width=800)
だから、恋の話(女性・男性の可愛らしさに触れる)にぴったりの言葉なのだ。
と、いうわけで結論。
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自分の考えが100%正しいとは思っていません。
異論・反論・質問があれば、ぜひコメント欄で教えてください😆
![](https://assets.st-note.com/img/1718877635178-rNwYTDtQhh.png?width=800)
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