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壁ドン←わかる。胸キュン←”キュン”ってなに?

中学3年生の2月14日の思い出。


放課後、僕は下駄箱へ向かう。
早く帰って受験勉強をしなければならない。

「今日は数学の二次方程式をベンキョーするか」


外靴に履き替えようとしたとき、声をかけられた。


「どうせ、誰かももらってないんでしょ」


差し出された手には、小さな箱が乗っている。



「おぉ、義理でも嬉しいよ」
「義理じゃないわよ・・・・・・ばか」(小声)
「エッ!?」




胸キュンである。




先日、中学生カップルが休日の公園でのんびりデートをしているのを目撃した。
そのとき、ふとこの「胸キュンエピソード」を思い出したのだ。




だが、ここで疑問に思う。

「胸キュンの”キュン”って何だ?


少し前に、「壁ドン」というものが流行った。

(photoAC)


「壁ドン」をwikipediaで調べてみると、

男性が女性を壁際まで追い詰め、壁を背にした女性の脇に手をつき『ドン』と音を発生させ、腕で覆われるように顔が接近する

wikipedia

と書いてある。
つまりこの「ドン」は音のこと・・・・だ。

しかし、「胸キュン」の場合、「キュン」という音は発生していない・・・・・・・・・

だとしたら、この「キュン」は一体何なのだろうか?


というわけで、今回のお題。


1.オノマトペ


「キュン」について、こう思った人がいるかもしれない。

「この”キュン”は、あれだよ、あれ。オノマトペってやつ?

そのとおりである。
オノマトペとは、

◆ワンワン
◆サラサラ
◆きらり
◆がたんごとん
◆にっこり
◆ゆらゆら

といったものだ。

オノマトペは2種類に大別することができる。

擬音ぎおん

実際の音をまねて、言葉とした語


擬態ぎたい

(実際には音はしていないが)状態や様子を感覚的に音声化して、言葉にした語



それでは「ドン」と「キュン」をそれぞれ擬音語と擬態語という観点で考えてみよう。

◆壁ドンの「ドン」
=「ドン」は擬
=「ドン」は音のこと

◆胸キュンの「キュン」
=「キュン」は擬
=「キュン」は音ではない

ということがわかる。


では、この「キュン」とは何なのか?

オノマトペ辞典で調べてみた。

【きゅん】
感動して胸が締め付けられるようになるさま。

小野 正弘(編、著)
『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』
小学館/2007年10月
p74


意味はわかるが、由来は書かれていない・・・・・・。
これは、自分で考えるしかなさそうだ。
(いつものパターンです)




2.「胸キュン」VS「胸がドキドキ」


「胸キュン」に似た言葉に「胸がドキドキ」という言葉がある。

例として、

「今日の初デートで、胸がドキドキした」

なんて使い方ができる。

(photoAC)


この「ドキドキ」は、いくらでも例を挙げられる。

◆見つめられると、胸がドキドキしちゃう
◆〇〇さんと話すたびに、胸がドキドキする
◆告白する!そう考えただけで、胸のドキドキが止まらない

「ドキドキ」は「キュン」の代用になりうるのか?
比較してみよう。


◆見つめられると、胸がドキドキしちゃう
◇見つめられると、胸キュンしちゃう

◆〇〇さんと話すたびに、胸がドキドキする
◇〇〇さんと話すたびに、胸キュンする

◆告白する!そう考えただけで、胸のドキドキが止まらない
◇告白する!そう考えただけで、胸キュンが止まらない

うーん、何かニュアンスが違いますなぁ。
でも、何がどう違うかは、わからない。


「キュン」と「ドキドキ」を比較すれば、「キュン」の正体がわかるかもしれない。


3.音とイメージの結びつき


突然だが、下記の図をご覧いただきたい。

川原 繁人
『音とことばのふしぎな世界 メイド声から英語の達人まで』
岩波書店/2015年11月
p13


「1」と「2」の2種類の図がある。
それぞれに「マルマ」と「タケテ」という名前(特に意味のない架空の名前)をつけるとしよう。

あなたは、どちらの図にどちらの名前をつけるだろうか?

どっちが「マルマ」?
どっちが「タケテ」?





多くの人は、

「1」に「マルマ」とつけたのではないだろうか。


そして、

「2」に「タケテ」とつけたと思われる。


日本語に「マル」があるから、この結果になるのではない。
日本語話者以外でもこの結果になる・・・・・・・・・・・・・・・・ことが、研究で明らかになっている。


【補足】
この図は、ヴォルフガング・ケーラーという心理学者が『ゲシュタルト心理学』という本で使ったものです。

つまり、われわれ人間は、

「マルマ」という音は”丸っぽい”

と感じ、

「タケテ」という音は”角ばっている”

と感じるのだ。



他の例も挙げよう。
以下の言葉からは、どのような印象を感じるだろうか?

◆パンパン
◆ぷくぷく
◆ぷっくり
◆ぽんぽん




なんとなく、”膨らんだ”イメージを感じないだろうか?
[p]の音には、空気が入って膨らんだイメージを感じるのだ。


パンパンに膨らんだ気球
(canvaのAI画像生成)


つまり、音と意味は関連がある・・・・・・・・・・

音から意味の連想が直接起きることを、音象徴おんしょうちょうという。




4.「ドキドキ」から何を連想する?


以下の2つの文を比較していただきたい。
AとB、どちらが痛そう・・・だろうか?

A:肩をトントン叩かれる
B:肩をドンドン叩かれる

A:頭に何かがコツンと当たった
B:頭に何かがゴツンと当たった

濁点がついている方が、「痛そう」だと思ったのではないだろうか。


なぜなら、濁点がついている音からは「強い」という意味を連想するからだ。


こう考えると、「ドキドキ」は実に秀逸な表現だと思う。

好きな人を前にし、心臓の鼓動が強くなっていることを「ド」という濁点つきの音で見事に表しているからだ。




5.「キュン」から何をイメージする?


「ドキドキ」についての理解は深まったので、次は「胸キュン」である。

インターネットで「胸キュン 初めて使った人」などと検索しても「この人が最初に使いました!!」明確な答えは出てこなかった。

図書館に行っても、わからず。


だが、私は経験で知っている。
日本語の謎は、放置すればいつか答えがやってくることを――。




それは、ゴールデンウイークに遊びに行った鈴鹿サーキット(三重県の遊園地)でのことだった。


この写真ぐらいしか、アップできる写真がないっ
(他は顔が写っているので)


朝から夕方まで遊び、パーク内のホテルに入ると、娘が言った。





「はぁ~、ちゅかれた・・・・~」





「つかれた」ではなく「ちゅかれた」である!!


「ちゅかれた」という言葉から、なんとなく「カワイイ・・・・」という印象を受けないだろうか?


他の例を挙げよう。

すべりだい
→しゅべりだい

だいすき
→だいちゅき

すごい
→しゅごい

などは、(子どもが言うと)カワイイ感じがする。
つまり、”小さい「ゆ」”が含まれる言葉はカワイイのだ。




他にも、若者の間で「おぱんちゅうさぎ」というキャラクターが大人気だ。



「おぱんちゅうさぎ」は「不憫かわいい」と言われている。
姿や行動もカワイイが、「ぱんつ」ではなく「ぱんちゅ」という名前だからこそさらにカワイく感じられると思う。


「胸キュン」もこれと同じ。

”小さい「ゆ」”があるため、カワイく感じられるのではないだろうか?




特に、「ドキドキ」と比較するとその可愛らしさがより感じられるような気がする。


だから、恋の話(女性・男性の可愛らしさ・・・・・に触れる)にぴったりの言葉なのだ。

と、いうわけで結論。


自分の考えが100%正しいとは思っていません。
異論・反論・質問があれば、ぜひコメント欄で教えてください😆




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