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「重たい」はあるのに「軽たい」はない。なぜ?

日本語を扱う人の99%が気にしないであろうことを、真剣に考察します。

今回のテーマは、「重たい」と「軽たい」。

「このリュック、重たい!」

とは言いますが、

「このリュック、軽たい!」

とは言いません。
なぜなのでしょうか?

これを考えることで「重い」「重たい」「軽い」の三者における、複雑で濃厚な関係が明らかになりますよ。


1.「重い」の前提とは?

「重い」という言葉を使うときには、”動かしうる”という前提があります。

例文を挙げましょう。

⭕重い米俵を買って帰る
⭕小学生は重いランドセルを背負っている

❌ピラミッドは重い
❌富士山は重い

建造物や山など、固定されたものなどに、ふつう「重い」は使いません。 


「重い」は、【重力に逆らうときにかかる強い圧力】に感じるものです。よって、持ち上げられる物(≒動かしうるもの)にしか、使えないのです。

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私は『天下一品』というお店のラーメンが大好きです。

しかし、どんなにこの店のラーメンが好きでも、この建物を動かすことはできません。

「天下一品の店舗、重い!!」

とは言えないわけです。


 
「重い」という言葉を使う際、私たちは、無意識下で”動かせるか”・”動かせないか”を判断しているのです。


2.「重い」と「重たい」の違い


次に「重い」と「重たい」の違いの分析です。

例文をいくつか挙げて、考えましょう。

⭕このリュックは、重い
⭕このリュックは、重たい


⭕その罪は、重い
❌その罪は、重たい


⭕彼は重い役職についている
❌彼は重たい役職についている


⭕地球は月より、重い
❌地球は月より、重たい

「罪」、「役職」、「月」については、「重たい」が使用できません。
ここから導き出されるのは、

――――――――――――
◆重い・・・・・・”持つ・持たない”は、不問!
◆重たい・・・・”実際に持って”、そう感じる!
――――――――――――

ということです。

「重い」は、たとえば、赤ちゃんを体重計で計ったときに、

この赤ちゃんは、重い

というように、【実際に持っていないとき】にも使えます。

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「重い」は、【実際に持っていないとき】にも使える。
そしてこのときの「重い」の意味は、

体重計で赤ちゃんの重さを計ったら、平均より重かった

という客観的な評価です。


このことから、次のことが言えます。


――――――――――――
◆重い・・・・・・【客観性】のある言葉
―――――――――――― 



それに対し、「重たい」は【実際に持ってみて感じる具体的な重さ】を言い表す場合に使います。


したがって、”具体的な重さ”がない「罪」「役職」には使えません。
「月」も実際に持つことはできませんから、使えません。

さらに、【実際に持ってみて感じる具体的な重さ】を詳しく説明すると【対象物の重みを、ずっしりと手・腕・肩などに直接感じている】と表現できます。

2Lのペットボトルを6本も買ったので、買い物袋が重たい

という文を読めば、腕、手、指にかかった負担感が想像できるのではないでしょうか。

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この【重みを直接感じている】が重要です。
「重たい」というのは、【重みを感じている】という主観的な意味を持つのです。
 



3.「重たい」の主観性


”主観性がある”ということは、”人が評価する”ということです。
同じ物を持っても、人によって評価は変わります。

――――――――――――
◆力が強い人は、10kgのダンベルを「軽い」と評価します。
◆力が弱い人は、10kgのダンベルを「重たい」と評価します。
――――――――――――

そして、「重たい」の場合、この”評価”とは【不快だ、苦しい、負担だ】というマイナスの評価です。

例文を挙げましょう。

⭕私だけ、重たい荷物を持たされている。
⭕布団が重たくて、寝付けない。
⭕この扉は重たいです。

どれもマイナスの評価(不快)が表されています。

理解を深めるために、例文を追加しますね。

⭕五百円硬貨は、一円硬貨より重い
❌五百円硬貨は、一円硬貨より重たい

五百円硬貨について、一円硬貨と比較しても「重たい」とは言いません。
「五百円硬貨が重くて不快だ!」という人は、いないからです。


また、さきほど、《1.「重い」の前提》の項目で、 

「重い」という言葉を使う際、私たちは、無意識下で”動かせるか”、”動かせないか”を判断しているのです。

と書きました。


「重たい」を使うときの意識としては、【無意識下では”動かせる”と思ったが、持ってみると意外に重くて不快だ】というものがあると考えられます。



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剣が重たいと感じる青年




ここから、次のように言えます。


―――――――――――
◆重たい=「重い」+「マイナスの評価」
――――――――――― 



4.結論:「軽たい」がない理由



「軽い」にマイナスの評価を加えることはできません。
なぜか?

――――――――――――
◆「軽い」ということに苦痛を感じることはない・・・・・・・・・・・からです。
――――――――――――


「軽くて負担を感じる!!」ということは、ないですよね?

「新しい靴は軽いなぁ」
「今日の荷物は軽いよ」

どちらの例文も、負担を感じていません。
 
よって、

「重たい」はあるのに「軽たい」はない。なぜ?

の答えは、


です!





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