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いろは歌←暗号が隠されています

『いろはにほへと ちりぬるを~~』

日本人のほとんどが知っていると思われる、この歌。
実は、暗号が隠されているんです。

はたして、その暗号の内容とは・・・・・・?

この記事を読めば、人に話したくなる日本語の雑学が得られますよ。



1.『いろは歌』の概要

『いろは歌』とは、一種の文字遊び歌です。
四十七の仮名を一回ずつ使って(同じ字は、一度しか使っていない)作られています。

七音・五音のリズムが繰り返されている(『七五しちご調』といいます)ので、口ずさんでいて心地いいですね。


【七五調・四句】で構成される、並びも実に美しいです。

『いろは歌』の書き方を学べば、すべてのひらがなを学ぶことができます。そのため、文字の習得の教材として使われていました。



明治時代になるまでは、文字の一覧といったら『いろはにほへと』の順番でした。



文明堂編輯部編『模範いろは辭典 』
立川文明堂/1933



作者は、空海(=弘法大師)という説がありました。
しかし、時代考証により現在は否定されています。

2.『いろは歌』の意味


『いろは歌』の意味、ご存じですか?
子どもの頃、『いろは歌』に触れた時は【意味不明な文字の羅列】と感じた方が多いのではないでしょうか。

ここで、一緒に勉強しましょう。

まず、漢字仮名混じりの文にします。


一部の平仮名に濁点がついています。

「と」→「ど」
「か」→「が」
「そ」→「ぞ」
「し」→「じ」
「す」→「ず」


なぜかというと、平仮名の清濁の区別がなかったからです。
たとえば、

「き」

と書いて、「キ」とも「ギ」とも読む可能性があった、ということです。
他にも例を挙げれば、

かき』も『かぎ』も、『かき』と書く

ということです。(今の感覚では、信じられませんが・・・・・・)
「濁点をつけて読むか?つけないで読むか?」は、文脈で判断されました。


『いろは歌』に話を戻します。
さらに、意味を付け加えましょう。


非常に簡潔にいうなら、その意味は、

どんなに栄華を誇っても、人はみないつか滅んでしまう。
苦しみの多い人生を今日こそ超越し(悟りを開いて)、私ははかない夢なんて見るつもりはない。

です。

『悟りを開いて』という文言から察した方もいるかもしれませんが、仏教の教えをテーマとしています。


『いろは歌』は、仏教の経典である大般涅槃経だいはつねはんぎょうの一部を意訳したものとも言われているのです。


実際にその部分を照合してみると、次のように記せます。

『いろは歌』『意味』『大般涅槃経』の3つが、それぞれ対応していますね。


3.暗号


さぁ、いよいよ本編開始。
暗号について迫ります。

もう一度、『いろは歌』を眺めて、どこに暗号が書かれているか考えてみてください。



ノーヒントでわかった方がいらっしゃったら、あっぱれです。





では、「七音目(七文字目)」に、注目してみましょう。

最後の『す』のみ、五音目


赤丸で囲んだ部分をつなげると、

とかなくてしす

と読めます。





・・・・・・意味不明ですね。



さきほど私は、

平仮名に清濁の区別がなかった。
濁点をつけて読むか、つけないで読むかは、文脈で判断された。

と、書きました。



したがって、

とかなくてしす

は、

なくてしす

とも読めます。

『とが』を漢字表記すれば、『咎』。
意味は、【罪となる行為、罪そのもの】です。



とがなくしてしす

は、

咎なくて死す(罪がないのに、私は死ぬ)

と、解釈することができるのです。

つまり、無実の罪で死罪になった人の切ない訴えなのです。


4.本当に暗号か?


目の前のあなたは、

「偶然、そう読めるだけなのでは?」
「あくまで解釈できるだけでしょう?」

と思われたかもしれません。

疑問を感じる男性



では、ここで日本最古の『いろは歌』の記録を見てみましょう。


こちらは金光明最勝王経音義こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎという、仏教の教義を解説した本です。

『金光明最勝王経音義』

篠原 啓介『咎なくて死す』p6より
章友社/2007



平仮名がなかった時代の影響のため、すべて漢字で書かれています。

【※】
正しくは、万葉仮名まんようがなといいます。

万葉仮名とは、
―――――――――――――――
①日本語の一音を一字の漢字で表現
②漢字の意味は、完全無視
―――――――――――――――
というものです。

たとえば、今でいう『山』を、『夜麻ヤマ』と表記するようなものです。


平仮名ができたのは10世紀前後のため、それ以前の文書はすべて漢字で書かれていました。

読みづらいので平仮名を右に書いてみましょう。


きちんと『いろは歌』であることがわかりますね。



それぞれの行末の文字を囲んでみます。


各行の文末に注目すると、

止加那久天之須とがなくてしす

と、読めます。(『之』は、音読みで「シ」と読みます)


つまり、『いろは歌』は、

七音ずつ読んでいくと、偶然、暗号のようになる

のではなく、

元々は意図的に七行書きにされ、文末に暗号が仕込んである

ものなのです。

その証拠に、『金光明最勝王経音義』以外にも、当麻寺たいまじや出雲国神門しんもん寺といったところに伝わる、古い『いろは歌』は、七行書きで記されています。




古い方の記録が七行書きということは、元々は七行書きだったといえるでしょう。


『いろは歌』は、【七五調・四句】で構成されています。
四行書きにすれば、一行ずつの意味がわかりすいうえに、字数も揃います。


それにもかかわらず、不自然に七行書きにしてあり、その行末を拾うと、

咎なくて死す

と読めます。



やはり、意図的に仕組まれたと言って間違いないでしょう。



5.作者は、誰?


気になるのは【作者が誰か】ということです。



まず、”教養がある人物”であることが推測できます。

なぜか?
試しに、「あいうえお・かきくけこ~~」の平仮名すべてを一回ずつ使って意味のある文を作ってみてください。




まずできないと思います。

それができた、ということは教養があってこそ。



また、『いろは歌』の意味を踏まえると、仏教に関する知識もあったと考えられます。


さらに、【無実の罪で死罪になる】ということから、政治的に権力を持っていた(が、追放された)ことも推察されます。


ここから先は、想像です。

『いろは歌』の作者は、時の権力者でした。
華やかな舞台で活躍するも、政治的策略にはまり、死罪の判決を受けます。

牢屋の中で、自分の無実を訴えるも外に届けることはかないません。
そこで、仏教をテーマにした歌を作ります。


それが『いろは歌』でした。
そして死罪を受ける直前、弔いに来る僧に『いろは歌』を託します。


僧は、その歌を見て思います。

「なんと見事な歌だ。音を重複することなく使い、仏教的な意味が込められている。これは、世に広めなければ・・・・・・」

現代に残る歴史的資料は、その時代の権力者にとって都合のいいものばかりのはずです。
不都合なものは、権力者たちが”抹消”してしまうので・・・・・・。


しかし、『私は無実だ』というメッセージを込めた『いろは歌』は見事に生き残りました。
仏教の教えというカモフラージュを施してあったからです。




気になる作者ですが、特定されていません。


『いろは歌』は、

①四十七文字を重複することなく使用
②仏教の教え織り込む
③暗号を仕込む

という非常に高度な構成です。


作者は、相当な才覚の持ち主に違いないでしょう。
それゆえに”排除”されてしまったのだとしたら、恐ろしい皮肉ですね・・・・・・。


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