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40歳の大宮、38,200字の独白

知り合いの長話みたいな本

 こんにちは。大宮です。この本を手に取ってくださってありがとうございます。僕はいま、あなたを「自分と同じく40歳の男性。人生を楽しみたいけれど悩んじゃうこともある人」と想定してこの文章を書いています。でも、実際のあなたはまったく違う年齢だったり、女性だったりするのかもしれません。それでもページをめくってくれたことにご縁を感じます。
 僕があなたに縁を感じるか否かなんて、「40歳」という本書のテーマとは関係がありません。でも、僕は「ちゃんと読んでくれている1人がいる」という実感を持ちながら、その人とゆっくり語り合うような気持ちで書かないと、文章が進んでいかないのです。無理に書き出そうとすると、意地悪かつ嫌味な文章になってしまったりします。
 頭と舌の回転が遅くてなおかつ面倒臭い性格の友だちって1人ぐらいはいますよね。彼の長話に付き合っている気分で読んでもらえると幸いです。
 途中で読むのをやめて、あなたの体験や意見を語ってくれても構いません。むしろ歓迎です。いま、自宅のパソコンに向かって文章を書いている僕はそのお話をすぐに聞くことはできません。でも、あなたが「ちょっと待って。そういえば、私はこんなことがあったよ」と話し出してくれるのを待つ気持ちは忘れないようにします。
 こんなおしゃべり感覚で10万字程度を書き下ろすつもりです。書籍としての体裁を整えるために必要な情報だけを論旨明快に書く、みたいなことはできません。そうすればするほどに僕とあなた(読み手)の距離が離れていき、なんだかエラそうな文章のまとまりになってしまいかねないからです。エラそうな文章よりはまとまりのない文章のほうがマシですよね。途中で脱線したり、「40歳」とはあまり関係のない話も出てくると思いますが、ご容赦いただけると幸いです。
 本書では、40歳になった僕の個人的な体験談、そこから思いついた「生き方ノウハウ」みたいなものをつらつらと書かせてもらいます。自分の話だけではつまらないので、この本の企画を思いついた2016年にほぼ40歳(75年~77年生まれ)の友人知人20人の話も聞いて載せました。それぞれに僕の解説というか感想も添えます(※1)。

(※1) 20人へのインタビュー記事は別売です

1976年に埼玉県所沢市で生まれて今に至るまで

 20人全員を僕の知り合いにしたのは、写真を撮ってくれた荒牧くんから「冬洋(←僕の名前です)の個人的な同期会の様子を公表するような本になるんだよね。だったら、取材先全員を知り合いに限ったら?」と指摘してもらったのがきっかけでした。当初の構想では、新聞社がたまに実施する「現代日本40歳の実像」みたいな網羅的な内容にするつもりだったのです。でも、僕は統計データを駆使するのは苦手だし、何百人もの同世代を取材するパワーもありません。
 網羅的な文章が書けないのであれば、荒牧くんが言うように思い切って「超個人的」にしたほうがわかりやすいですよね。1976年の冬に埼玉県所沢市に生まれて、小学生の頃に東京都東村山市に引っ越して、独身時代は杉並区西荻窪に長く住み、現在は愛知県蒲郡市で再婚生活をしている40歳の僕。いま何を考えていて、どのように生活していて、同い年の友人知人はどんな人たちなのか。顔を合わせたらどんなことを話すのか。できるだけ虚飾のないように書きます。あなたの悩みや意見と近いものも1つぐらいはあるのではないでしょうか。僕としては「個別的なものは普遍的なものに通じている」と信じるしかありません。
 取材した人数がなぜ20人なのか。40歳からちょうど20年後、みたいなこじつけもできますけど、ぶっちゃけで言うと僕の取材能力では20人が限界でした。本当は「40歳企画だから20人に登場してもらおう」と思って声をかけたのですが、3分の1ぐらいの人しかOKしてくれなかったのです。「匿名取材なら協力するけれど実名&顔出しは困る」という答えがほとんどでした。
 本人の独白部分の原稿は印刷する前に各自に内容をチェックしてもらっています。プライベート情報満載なので本人に迷惑をかけたくないからです。取材依頼のときにその旨も伝えました。それでも多くの人に断られました。実名や顔が印刷物に載ること自体が嫌なのか、職場や家庭での責任が増しているタイミングなので「下手なことはできない」と思っているのか、そもそも僕を信用していないのか。考えると落ち込んでしまいそうでした。

ユニクロ同期の荒牧くんとの対話

 取材を断られることが続いて意気消沈していたとき、撮影のために同行していた荒牧くんが励ましてくれたのです。
「20人でもすごいことだと思うよ。というか、40歳になったから同い年の旧友を訪ねて歩こうなんて普通は思いつかない(笑)。思いついても実行しない。読者の人は、冬洋の個人史でもあるこの本を読みながら、自分が同じことを実行したら同い年の人たちとどんなことを語り合うんだろう?と考えてくれるんじゃないかな」
 ついでに荒牧くんを少し紹介させてください。
 荒牧くんは僕と同じく1976年生まれです。新卒で入った会社(ユニクロです)の同期として知り合いました。ほぼ1年後に退職したのも僕と同様です。荒牧くんはカメラマンになり、僕はライターになることにしました。ユニクロの上司からは「お前たち、そもそもなんでうちの会社に入ったんだ」と呆れられました。当然ですよね……。
 お互いに東京の杉並区に住んでいたこともあって親しくなり、雑誌などの仕事を一緒にやったり、たまには会って飲み交わしたりするようになりました。荒牧くんが写真展をやるときはもちろん観に行きますよ。僕たちが35歳になる年に、彼は「35」と題する写真展をやったのです。
 会場に行くと、ほぼ同い年の人たちのポートレートがずらっと並べてあります。僕はなんだか感動しました。久しぶりに見た荒牧くんの写真は、以前の暗いトーンは控えめになり、光の多い明るい写真に変貌していたのです。暗さが基調にあるからこそ、明るさが際立ったのだと思います。
 自分と同い年の人ばかりを撮り集めるという企画趣旨も斬新です。僕はどっぷり日本人男性なので、年齢や学年が同じだと「おお、同級生だ!」と共通点を見出した気になります。荒牧くんの写真展「35」では知っている人の写真は1つもなかったのに、「あなたは35歳なんだね。オレもだよ」とタメ口で話しかけたくなるような親しみを感じました。あのとき、「素敵な企画だな。40歳になったら真似したい」と密かに思ったのかもしれません。
 荒牧くんや僕のようなフリーランサーにとっては、企画案を持っていることは大切です。「大宮さんは何が書きたいんですか? どんなテーマならば自信を持って取材と執筆ができますか? いま、どんな企画を温めていますか?」と誰かから聞かれたとして、何も言えなかったら「自分は無です」と表明しているようなものですからね。
 エラそうなことを書いていますけど、僕は自分なりの企画を立てて実現できるようになるまでにすごく時間がかかりました。いや、立てたとしても実現しなかった企画もたくさんあります。この本だって、いま(2016年12月)現在は出版元すら決まっていません。でも、とにかく企画を立ててある程度は勝手に進めなければ何も始まらないのです。それだけはわかるようになりました。これまた長い話になりますし、「40歳」とはあまり関係がありませんが、よかったら聞いてください。会社員の人にも共感してもらえる部分があるかもしれません。

30歳のとき、勘違いから悪循環に陥った

 話は10年ほど前に遡ります。
「大宮くん、企画の3原則って知っているか? 自分がやりたいのか。やる資格があるのか。世の中のニーズはあるのか。この3つが揃わないと企画は実現しないよ」
 僕にこんなアドバイスをしてくれたのは、杉並区西荻窪にあった事務所を間借りさせてくれていた18歳年上の先輩ライターです。10年近くも同じ空間で働いていたので、一時期は言葉遣いや笑い方まで先輩に似てしまいました。2歳年上の兄にまとわりつくようにして育った僕は、親しい年上の男性から影響を受けやすいのです。
 企画の話にも強い衝撃を受けました。それまでの僕は「企画」という言葉をほとんど意識せずに働いていたからです。新卒で入ったユニクロを逃げるように辞めてしまった後、25歳のときにフリーライターになり、それから5年間ぐらいは「仕事をもらえるだけで嬉しい。何でも書きまくるよ」状態でした。
 30代に突入すると、ライターとしての先行きが不安になる一方で、欲も出てきます。出版社などから依頼される仕事を淡々とこなすだけではなく、自分の名前で勝負をしたい、と思ったのです。そのためには自分で企画を立てることが必要です。先輩から「企画の3原則」も聞いたので、すっかりやる気になりました。
 でも、僕は企画実現の過程で大間違いをしてしまいます。雑誌の特集記事などにライターの一人として参加する仕事をやめて時間をたくさん作ったら、いい企画を思いついて実現するだろう――。なぜかこんな展望を抱いてしまったのです。退路を断ったつもりだったのですが、振り返ってみると現実逃避に過ぎませんでした。「頼まれ仕事から学ぶべきことはすべて学んだ」と傲慢な気持ちになっていたのだと思います。
 死ぬほど忙しかったり心身が追い詰められたりしていたら逃げることも一案でしょう。しかし、当時の僕はそんな状態ではありませんでした。昼夜逆転した生活だったので、夜中に原稿を書いていてすごく忙しい気分に浸っていただけです。明け方に寝て、ひどいときは昼過ぎまで眠りこけていました。
 ちなみに40歳の現在では、何かお願いされたら「自分の企画」ではなくてもできるだけ引き受けています。求めてもらえるだけで有難い、という気持ちに戻ることができました。

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