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小俣 荘子
2020年9月3日 02:28
うちにクマがやってきて1週間が経った。近所のコンビニの前で出会ったクマ。シロクマの絵がついた夏季限定マンゴー味のアイスがどうしても食べたかったのだそう。買ってあげたら、そのまま家までついてきた。レジでもらった木のスプーンでざっくざっくと力強く凍ったマンゴーを砕いて、豪快にアイスを食べたクマはとても満足そうだった。お礼に子守唄を歌ってくれるという。「わたし、もう大人なんだけどな..
2020年9月25日 19:46
丘の上から見えたのは、砂と廃墟のような建物が一面に広がる小さな町だった。子供の頃、ふざけて祖父の手を顕微鏡で覗き込んだときの景色を思い出した。ザラザラで、でこぼこしているけれど不思議な安らぎがある。 乾いた土地には今日も強い風が吹いている。ヒマラヤ山脈の山あいには、風車がたくさん並んでいた。風を受けて回転するプロペラ。かつては小麦を挽き、今は電気を生み出している。そして、その回転軸を改
2019年8月13日 21:14
暗闇で水音が聞こえた気がした。目を覚ますと、森の夜が始まるところであった。身体の下敷きとなって蒸れた芝から、ムンと猛々しい生命の匂いがして顔を背ける。傍に目をやると、藍色の空と一体となった川のほとりに女が一人。見れば、小さな包みのようなものをひとつ川へ流している。「なにをしているんだね」そう尋ねると、女は私を見上げてただ微笑みを返しただけだった。流れていく影をぼんやりと目で
2019年5月21日 12:54
一緒に海を眺めていたら、言葉なんていらないのかもしれない。平日の人影まばらなミュージアムカフェ。義母とふたり、コーヒーを飲みながらふとそんなことを思った。ガラスの向こうには、一面の海と大きな橋。瀬戸内の海は、今日もおだやかだ。「お母さん、その後体調はどうですか?」そうたずねると、物静かな母は、ポツリポツリと自分の体のことを話し出す。本州と四国をつなぐ瀬戸大橋の色はライトグレ
2019年4月27日 01:59
「真っ白な代々木公園って見たことある?」明治神宮へと続く大通り沿いのフルーツパーラー。私たちが座る窓際の席からは、振袖姿の女の子たちが行き交う様子が見える。それを愛おしそうに眺める彼女に、そう問いかけられた。年に一度、こうして会うときの義姉は少し饒舌だ。「私が二十歳の年の大晦日ね、東京は大雪だったの。私、そのころ渋谷のデパートでアルバイトをしていてね。31日も遅番でシフトが入ってて