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妄想 短編小説 『運命の突起物』

いま俺は生死の狭間にいる。

時間にして僅か1秒、しかし体感では5秒程度。毛穴の一つ一つさえも鮮明に見えて、コマ送りのように再生される。

これが走馬灯というやつなのか?

状況を俯瞰し、慌てつつも冷静。しかし確実にその二者択一を迫られている・・・!


(遡ること、1時間前)

「おい、ここのペグしっかり打てよ〜」

「そっちしっかり持ってて」

「せーの」

「後はその穴にロープ通してしっかり張ってね」

何やら賑やかな和気あいあいとした会話が聞こえてきた。

 今日は職場の皆とキャンプである。メンバーは俺を含め4人、何と言っても大好きな佐々木先輩が珍しく参加してくれた。

佐々木先輩は、長身で愛嬌が良い。おまけに周りが俺の事を山口と苗字で呼ぶ中「タカシくん」と呼んでくれる。
名前を呼んでくれるだけで思わず顔がニヤけてしまうのだ。

しかし、腑に落ちない事が一点だけある

(なぜ誘ってもいない平岡がきてるんだよ)

平岡は歳が5つ上の嫌味ったらしい上司で、アゴがしゃくれて・・・はぃ、その想像の2倍はしゃくれている。
毎回、嫌味を唱える度に「ヒューヒュー」と吐息が漏れているのだ。

「かんしぇい〜。やまくちのだんどぉりがあと30びょうはやけれぇばかんぺぇきじゃ」

(訳)「完成〜。山口の段取りが後30秒早ければ完璧だ」

「すみませ~ん」

俺は平岡にペコリと愛想を振りまきながらも、バタンとおもいっきり車のトランクを閉めた。

まぁいい。平岡のアゴと佐々木先輩を天秤にかけたとしても、今日は最高にハッピーな日だ。


 テントも張り終えて、皆で近くの沢で水遊びする事となった。

沢の周りには木々が生い茂り、薄暗く日陰が出来ている。真夏の太陽が一番高い時間帯でもやや肌寒いと感じられる程だった。

「ここじぇ皆で泳ごうきゃ!」

(訳)「ここで皆で泳ごうかぁ!」

当然のように平岡が仕切りだす。

「平岡さんそれよりも、この沢の頂上にある滝つぼに行ってみたいです〜」

佐々木先輩は、女の武器を使い平岡にお願いする。

「しょうだにゃ」

(訳)「そうだな」

そして、皆は列になり沢を登りはじめた。

俺は、佐々木先輩の足跡を重ねるように後に続く。軽快にリズムよく先輩のお尻のみを見ながら登るのだ。

しかし、だんだんと佐々木先輩との歩幅が合わずに手前の岩に足が着いた。

(ズルっ)

次の瞬間、目の前のお尻が視界から消えた。

「痛って」

「タカシくん大丈夫?」

岩と岩の間に挟まるように転んだ俺を佐々木先輩は、優しく手を差し伸べてくれた。

「ありがとうございます」

(うわっ、天使降臨や)

『痛い』『恥ずかしい』でも『嬉しい』がループして3回目を終える頃には滝つぼの頂上に到着した。

「うぁ〜たくぁい」

(訳)「うわ~高い」

滝つぼの頂上から下を覗きこむと思った以上に高く、先程テントを張った拠点があんなに小さく見える。

(ここから落ちたらひとたまりも無いだろうな)

俺は生唾を飲んでその場に立ちすくんだ。

「せっかくなんで記念写真撮りましょうよ」

佐々木先輩が、リュックからスタンドを取り出しながら提案をした。

「しゃんしぇーい」

(訳)「賛成」

「それでは、いきますね~!」

セルフタイマーにした佐々木先輩が急いで入り、滝つぼの頂上先端をバックに4人は肩を寄せ合う。

皆がそれぞれのポーズを決めている刹那、カメラはバランスを崩し傾きだした。

俺は、それに反応するかの如く瞬間的に身体が動いた。しかし、またしても足を滑らせたのだ。

次の瞬間、滝つぼに吸い込まれるように態勢を崩した。

いま俺は生死の狭間にいる。

時間にして僅か1秒、しかし体感では5秒程度。毛穴の一つ一つさえも鮮明に見えて、コマ送りのように再生される。

これが走馬灯というやつなのか?

皆が目を見開き俺を見ている・・・

(駄目だ、このままでは滝つぼに落ちて死んでしまう。何か・・・何か掴まるものはないのか)


すると、目の前にある2つの突起物が確認出来た。


1つは佐々木先輩の【小さなおっぱい】である。
そしてもう1つは、平岡の【大きなアゴ】であった。

(あの佐々木先輩のおっぱいに掴まりたい。しかし推定A〜Bカップ、例え掴まれたとしても指先が掛かる程度だ。SASUKE第3ステージのクリフハンガー状態で果して助かるのか?)

(一方、あの平岡の大きなアゴに掴まれば確実に助かれる。しかもアゴに反しがあり凄く手に馴染みそうだ。だが、死んでも平岡の手だけは借りたくない!というか手じゃなくアゴなのだが)

おっぱい、アゴ、おっぱい、アゴ、おっぱい、アゴ、おっぱい、アゴ。オッパイ、あご、オッパイ、あご、オッパイ、あご、オッパイ、あご。

ゆっくり。だが、確実に時間だけが流れる。
(駄目だっ選べないっ!)

オッパイ、アゴ、オッパイ、アゴ、オッパイ、アゴ、オッパイ、アゴ、オッパイ、アゴ、オッパイアゴ・・・

(死ぬっ)

アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ、アゴッパイ。





『復活の呪文完成です』


・・・はっ!






夢か。



余りにもリアルで不思議な夢だった為、俺は再び滝つぼでの場面を回想した。

(そうそう、ここで佐々木先輩のカメラが傾いたんだよなぁ)

(あれっ?一瞬過ぎて気が付かなかったけど、俺が足を滑らせたのと同時に・・・)


(誰かに肩を押されてる?)

(えっ? 佐々木先輩?)

皆が目を見開き俺を見ている・・・

いや待て、

よく見ると、佐々木先輩の口元が動いてなにか言っている。






・・・「し」







・・・「Cカップじゃボケ」

ーーーおわり










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